毎日新聞によれば、昨年発射されたテポドン2号の推進力が98年に発射されたテポドン1号に比べて、約8倍に向上したことが、日置幸介・北海道大教授(測地学)らの研究で分かりました。それによれば、1段目の上昇速度は、日本のH2Aロケットに見劣りしないとのことです。
この記事の「推進力」は、いわゆる「推力」のことだと思われますが、かなり大きな数字が出たという印象です。シンクタンク「Globalsecurity」のチャールズ・ビック氏の推定では、1段機体の推力は、テポドン1号は32,262kgf、テポドン2号は107,400kgfで、後者が前者の約3.3倍です。テポドン2号の1段機体はノドンロケットのエンジン4基をクラスター化したもので、テポドン1号はノドンのエンジンが1基と推定されているので、4倍前後の数字が出て当たり前です。8倍は大きすぎるという印象です。日置教授がテポドン1号の推力をどれだけと推定しているのかは、この記事からは分かりません。
また、この記事からテポドン2号とH2Aロケットの性能が同等だと考えるのは間違っています。テポドン1号と2号はH2Aロケットでは、仕様が大きく異なります。もし、両ロケットが搭載するペイロード(人工衛星など)の重量が同じならば、速度も同じなら性能は概ね同じと言えます。しかし、H2Aロケットはテポドンよりも遙かに重たいペイロードを運ぶように設計されています。H2Aは低軌道へ10tのペイロードを投入できるとされますが、テポドン1号のペイロードは55〜85kg、テポドン2号で1tと推測されています。軽いペイロードを打ち上げるのには、より弱い推力で十分であり、小型ロケットの方が重量が軽い分、速度も早くできて当然です。
多分、この記事は論文をよく理解しないまま書かれたのだと思います。日本のマスコミは、常にテポドンを脅威として報道してきました。そう書けば、記事がより新鮮で最先端の情報だと読者が考えると信じるからです。これほど愚かな報道姿勢はありません。特に、戦争に関して、危機感を煽ることが戦争につながることを考えなければなりません。米西戦争はこうしたマスコミの動きが起こしたと言われています。当時のメディア王、ウィリアム・ランドルフ・ハーストは、イラストレーターにまだはじまっていない戦争の絵を描けと命じました。反対したイラストレーターに、彼は「お前は絵を仕上げろ、私は戦争を仕上げる」と言ったとされます。記者が、論文を元にテポドンのロケットとしての総合的な評価を書くべきだったのは明らかです。日本のマスコミは戦争を防ぐという能力に関しては、著しく力不足であることを自覚すべきです。これまでに何度も危ない情報を垂れ流しにして、それに気がついていません。