military.comが、13件の計画的殺人と32件の計画的殺人未遂に問われているハサン元少佐の乱射事件に関して、かつての上官の監督責任に関する2つの記事を報じています。(記事1・記事2)
記事1によれば、今日発表される予定の報告書は、ハサン元少佐の5〜8人の元上官は、彼の欠点ととっぴな行動に関して知っているべきだったと指摘しています。対象となっているのは、ハサンがウォルターリード陸軍病院で精神科医として働いていたとき、彼を監督する立場にあった将校です。国防総省の内部評価によれば、ハサンのイスラム教に関する執拗な考え方は、彼の訓練が進展するにつれて、さらに増え、彼の能力に対しても懸念が生じましたが、上官は彼を昇進させ続けることで肯定的な評価を与え、これがフッド基地での銃撃事件を導きました。最近の統計では、医療部隊で軍が下級士官の昇進を妨げることはほとんどありません。
記事2によれば、事件後にゲーツ国防長官の依頼でハサン少佐の調査を行った、ヴァーノン・E・クラーク退役海軍大将(Retired Adm. Vernon E. Clark)とトーゴー・D・ウェストJr.元陸軍長官(Togo D. West Jr.)は、ハサンの能力と人事記録の間に相違があると述べました。この調査は、ハサン調査の保安調査も適切に行われておらず、調査の方針が守られていれば、認可が取り消されたかも知れず、軍務を続けたり、差し迫っていた海外派遣はさらなる検討の対象となっただろうとしています。ゲーツ国防長官は、調査結果は受け入れがたいもので、ジョン・マクヒュー陸軍長官(Army Secretary John McHugh)に、夏までに手続きを一新するよう命じました。報告書は、外部からの場合に比して、内部からの軍への脅威を認める国防総省の手法は、時代遅れで無効だと結論しました。また、国防総省の潜在的なトラブルメーカーに対する情報共有・照合の手法は不十分だとしています。ハサンは頻繁に遅刻や欠勤を行い、だらしなく見えたり、最小限の能力しか示さず、周囲の者たちはこれをよく知っていたのに、陸軍の人事評価と昇進に関する官僚システムの中では完全に反映されなかったことを報告者は見出しました。
両方の記事は同じ報告書について報じています。これは軍の人事システムの問題でもあります。軍人は公務員であり、明確な理由なく、簡単に誰かをクビにすることはできないシステムになっています。特に医療部隊は、軍隊とはいえ、医療従事者の集団なので、内部にテロリストがいるといった発想が出にくいのは容易に想像できます。もともと医療従事者人を助けるのが仕事なので、虐殺事件なんか想像もできないからです。ハサン少佐の事件は、こうした欠陥を露見させました。世界最強の軍隊も、中身はこんなものです。そこで今回、新しい評価手順を作り、こうした問題の兆候を摘み取ろうというわけです。しかし、イスラム教信者であることを理由に除隊させるのは、米陸軍のコンセプトに反します。これが、「誰かを脅した」といった明白な違反行為があれば話は簡単ですが、信仰に関連する信念は思想上の自由であるために、問題にするのが難しかったのです。今後は、それでもテロにつながる要素があれば、必要な処置を行うことになるわけです。
また、ハサンが本当に信仰心からこうした事件を起こしたのかについて、この報告書は疑問も提示していると、私は考えます。勤務態度が芳しくないのは、その兆候かも知れません。イスラム国が時間にルーズという話は聞きますが、アメリカ生まれのハサンなら、遅刻がまずいことくらい分かっていなければなりません。元々、彼には適応障害のような問題があり、彼はそれを認めるのが嫌で、すべての責任を対テロ戦争に転嫁したのかも知れません。これは、ハサン少佐の事件が日本の秋葉原で起きた無差別殺人の動機と相通じるという見方です。これを考えるには、さらなる情報が必要です。しかし、そうだとすれば、これはテロ事件とは言えなかったのかもしれません。