米軍が軍人の自殺防止に本腰

2010.1.19

 military.comによれば、2009年に現役兵士160人が自殺し、2008年の140人から増加を示しました。このうち114件は確認が取れていますが、46件は未決のままです。

 伝統的に軍隊の自殺率は一般の自殺率よりも低いので、自殺率が一般の数字に匹敵するのは驚くべきことです。「自殺が増えた2009年が陸軍にとって苦悩の年だったのは疑いがありません」と陸軍自殺防止委員会の副委員長クリストファー・フィルブリック副委員長(Col. Christopher Philbrick)は述べました。

 統合幕僚議長マイク・マレン海軍大将(Adm. Mike Mullen)は、先週メンタルヘルスの専門家の会合で「私は各軍で数字を見ています。これは地上の軍だけの問題ではありません」と述べました。

 自殺者の一部は若者で、海外派遣の日が浅く、記憶に苛まれており、イラクやアフガニスタンから2~3回目の派遣から帰った後の者、あるいは恋愛関係が破綻した時、しばしば長い別離や外傷後ストレスのために、銃を使って自殺します。その他はキャリアを持つ将校で、彼らは隠れて薬物やアルコール中毒の治療を行い、最後に亡霊を黙らせる決意をします。かつては僅かだった女性兵士の自殺が増え、高い率を示しています。米国防相総省が長い世代にわたる沈黙の掟を破り、公的に、熱意を持って精神病の影響を語るほど、精神的な傷は深く、自殺率は高いのです。

 防衛専門家が全軍で最もメンタルヘルスの治療が進んでいるという、フォート・ベニング基地では、退役したサミュエル・ローデス旅団最上級曹長(Brigade Command Sgt. Maj. Samuel Rhodes)がイラクでの30ヶ月の派遣のあと、どのように自殺を考えるようになったかを兵士に語ったことで、兵士が問題を申し出るようになりました。

 先週行われた国防総省と退役軍人援護局合同の自殺防止会議で、軍のメンタルヘルスに対する態度の転換が明白になりました。ここで軍服を着た出席者が、メンタルヘルスを求めることか汚名になること、精神病を病む兵士の家族を支援することの重要性について、公然と語りました。

 第101空挺師団は問題の典型を示しており、18~29歳の男性が拳銃で自殺しています。この師団は対策をとったものの、2007年は9人、2008年は12人、2009年は14人と自殺者が増えています。エルスペス・リッチー大佐(Col. Elspeth Ritchie)は、嫌われる話題なのは確実だけど、拳銃が簡単に手に入ることに取り組まなければならないと言います。第101空挺師団のフォート・キャンベルで自殺が多いことと、基地の購買部(PX)の真ん中に立派な銃砲店があることは、ミックスしたメッセージだとリッチー大佐は言います。オバマ政権は超党派のグループの要請で、自殺した兵士の家族へ大統領が弔意の手紙を送るのを妨げる長年の非公式な方針を再検討しています。自殺した兵士の家族は、軍が完全な軍葬を行うことが、自殺した兵士の汚名を晴らすのに効果があると言います。

 気になる部分を訳しました。以前から兵士の自殺問題は何度も取り上げてきましたが、遂に、ようやく米軍が本格的な動きを開始したようです。以前から言われているように、キャリアを汚す恐れがあるため、メンタルヘルス上の問題を軍人は口にしにくいという問題が言われてきました。軍隊には、精神病にかかる者は精神が弱いという偏見があり、そんな病気を持っていることは隠したくなるものなのです。その結果、対策が遅れ、自殺という最悪の結果を繰り返してきました。

 ローデス旅団最上級曹長が兵士に自分の経験を語ったことは非常に興味深いことです。旅団最上級曹長は、旅団の中で一番権威のある下士官であり、旅団長よりもこの部隊で暮らす日が長く、任官間もない少尉から恐れられるような存在です。叩き上げの代表みたいな人が、自分の弱さをさらけ出したことで、自身の問題を他人に打ち明ける兵士が増えたわけです。しかし、現役の曹長が話をする段階までは行っておらず、退役軍人に嫌な役を任せたのです。こうした変化が当然のことになっていく必要があります。

 第101空挺師団の購買部で拳銃を買えないようにするのが難しいというリッチー大佐の見解も納得できることです。アメリカが「自由」と「銃」を常にセットで考えるのは、独立してヨーロッパからの圧力に屈しないだけの力をつけるまで、連邦軍が存在しなかったアメリカは、志願者で構成される市民軍によって独立を維持していました。だから、市民の手から銃を取り上げることは、外国の圧力に屈するのと同じだという考え方が染みついています。日本では、こういうアメリカ人の考え方は、なにかイデオロギー的なものとか、まったく理解されないという受け止め方をされていますが、歴史を振り返れば、このように簡単に解釈できます。「当時と今とでは状況が違う」という考えにアメリカ人が行き着かないところに、問題が放置される原因があります。もちろん、銃は基地の外でも買えます。しかし、できるところから変えていかないと、問題は悪化するだけです。

 太平洋戦争中、日経の米兵士はPTSDになる事例が少なかったと言われますが、これは日本人が忍耐を美徳としていたため、発症する時期が遅かったためではないかと、私は推測します。白人兵士はある程度の段階で周囲が気がつくような反応を示すのに対して、日経兵士は我慢できるだけ我慢し、最後の最後になってようやく発症するため、発見が遅れたのだろうと思うのです。よって、常にこうした問題は誰にでも起こるという認識が重要です。


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