military.comが宗教的で奇妙な事件を報じました。 トリジコン社(Trijicon Corp.)の上級戦闘光学射撃照準器(the Advanced Combat Optical Gunsight)のマークがキリスト教に関係するものであることが問題視され、調査が行われています。
2つの政権が、イラクとアフガニスタンに駐留する米軍は「聖戦」の一部を担っているのではないと明言しているにもかかわらず、武器製造者の新約聖書の好みが、宗教的なシンボルに対する懸念を引き起こしています。問題となっているのは、この照準器の「JN 8:12(ヨハネによる福音書 第8章12節」)というマークです。この一節には「イエスは、また人々に語ってこう言われた。『わたしは世の光である。わたしに従って来る者は、やみのうちを歩くことがなく、命の光をもつであろう』。(日本聖書教会訳)」と書かれています。
同社の広報担当者は、「我が国へ貢献する我々の信頼と信念の一部として、トリジコン社は20年間以上、我が社の製品に聖書の引用をつけています。我々が危険にさらされている男女を抱える限り、最高水準のテクノロジーと感謝を捧げる国への尽きない支援と祈りの言葉の両方を提供するために、我々はできることすべてを行い続けるでしょう。」と回答しました。
クリストファー・ガーヴァー中佐(Lt. Col. Christopher Garver)は、「陸軍は、同社がこれらの照準器を購入する契約を行ったとき、マークがなにを意味しているかを認識していなかった。メーカーのマークが何であれ、我々は照準器をそんなやり方で追求しない」と述べました。
軍隊の宗教的自由財団
(Military Religious Freedom Foundation)の代表マイキー・ウェインスタイン(Mikey Weinstein)は、このマークを、特に米兵の危険を増すために「恐ろしいもの」と呼び、合衆国憲法、アフガンとイラクとパキスタンの法律だけでなく、アフガニスタンでの戦闘の初日にトミー・フランクス大将(Gen. Tommy Franks)が出した改宗に関する一般命令に違反すると述べました。ウェインスタインは、イラクとアフガンに何度も派遣された若いイスラム系の兵士(匿名)から受け取った電子メールをmilitary.comに提供しました。戦場の兵士たちは、もし戦闘で自分たちが捕らえられたとき、敵がこの聖書の引用を自分たちを監禁するためや、宣伝に利用しないかと心配していると、兵士は述べています。
同紙のコラムニスト、フランク・シェーファー(Frank Schaeffer)は、世界中の米軍兵士の命を危険にさらしているメーカーの愚かさにひどく憤慨していると言います。シェーファーは「彼ら(メーカー)は愛国者ぶって軍への物資供給について語るけども、彼らは軍隊へ売った武器に本質的にブービートラップ(仕掛け爆弾)を仕掛けたのです」と批判します。トリジコン社は、800,000個以上の照準器を軍へ納入する6億6,000万ドルの契約をしています。
これはアメリカならではの問題だと思います。米軍はキリスト教と深く結びついた伝統を持ち、基本的にはあらゆる宗教を受け入れることになっていますが、やはり根っこにはキリスト教を抱えているのです。そのため、愛国心とキリスト教への信仰が同一である場合が少なくありません。武器メーカーなどに勤める人たちも、やはりそうした傾向を持つのです。なぜなら、アメリカ独立を達成するのに最も貢献したのが、こうした人たちだったからです。だから、トリジコン社が製造する武器に聖書の銘を入れるのは、兵士にとって心の支えになると考えての善意からであり、何ら悪意はないのです。
ところが、こうした善意が「大きな迷惑」になることも少なくなく、キリスト教的な真面目さが、問題をさらに厄介にし、アメリカをさらに危険にさらす側面があることも事実です。それがこの問題の本質です。
最近、アメリカでは年末に空港などの公共の場所に、クリスマスツリーがを飾ることの是非が問題になりました。キリスト教だけの行事であるクリスマスに関するデコレーションを、他宗教の信者も利用する場所に陳列するのは好ましくないという問題です。これと同様に、武器に固有の宗教の言葉を刻むのは問題だということができます。特に、これらの武器はアフガン軍にも提供されており、イスラム教徒であるアフガン人が、キリスト教の銘が入った武器を使うことに嫌悪感を感じるのは否定できず、まるでブラックジョークのようでもあります。しかも、それがM4小銃の上に取り付けられた、ごくポピュラーな照準器で、大量に使われているのですから、問題は深刻です。
自分が信じる神は他人も信じると、人は思い込みがちです。自分が好きな歌手を他人も好きだと思ってしまうのと同じです。しかし、好きな歌手は人によって違い、自分が感じ入る歌で他人はしらけることもあるのです。いつまで人類は宗教の違いで失敗を繰り返すのか。特に対テロ戦は宗教戦争の側面があり、宗教熱の低い日本人から見ると、理解できないことが多いのです。しかし、我々日本人も、こうした問題をよく理解し、先を見通す力をつけないと、危険に足を踏み入れることになりかねません。
単純な事実関係を報じるだけですが、今日は興味深い記事もいくつかあります。ソマリアの海賊が身代金(550〜700万ドルとみられる)を巡って銃撃戦になり、少なくとも3人が死亡しました(記事はこちら)。最近、戦闘に関する報道が少ないのが気になります。イラク侵攻からしばらくは、米軍がどんな作戦を展開しているかが、かなり報じられていました。アフガニスタンにいる米軍の兵数を考えれば、現在の報道頻度は少なすぎます。パキスタンの北ワジリスタン、ディーガン地域(Deegan area)で、無人機と思われる攻撃が5人を殺害しました。死者のアイデンティティは公表されていません(記事はこちら)。