テロリストの転向に家族愛が不可欠?

2010.1.22

 military.comによると、テロリストがテロ組織から脱退するためには、家族の役割が必要という報告書が発表されます。

 2001年以降、アルカイダは男性3人をアメリカの大型旅客機を爆破するために派遣されたとみられていますが、2人は試みたものの、3番目の男は任務から手を引きました。

 ワシントン中近東政策協会(the Washington Institute for Near East Policy)のマイケル・ジェーコブソン(Michael Jacobson)による、今週発表される報告書は、数十人のテロリストを調査し、家族の絆が重要な役割を果たした可能性を示しています。

 産まれる前にマラウイからイギリスに移住した21歳のサジド・バダッド(Sajid Badat)は2001年12月、靴に仕込んだ爆弾を作動させず、それをグロスターの自宅のベッド下に仕舞い込みました。2001年12月に靴爆弾で飛行機を墜落させようとしたリチャード・リード(Richard Reid)は終身刑に服しており、ウマール・ファルーク・アブドゥルムダラブ(Umar Farouk Abdulmutallab)はデトロイトで旅客機を爆破しようとして逮捕されました。イギリス情報部はリード事件で見つかった証拠から、2年後にバダッドを見つけました。テロ攻撃を行わなかった10人と面談したジェーコブソンは、バダッドはリードやアブドゥル・ムダラドと違い、アフガニスタンとパキスタンの訓練キャンプから戻った後、自分の家族の中に戻ったといいます。バダッドは検察官に「平穏な人生を望んだので逃げた」と述べました。

 家族はテロ計画でポジティブとネガティブの両方の役割を果たし得ます。同時多発テロ犯のモハメッド・アタ(Mohammed Atta)は仲間に家族との絆を切るよう命じました。しかし、2人の仲間はそうせず、離脱しました。同時に、アルカイダが家族がテロリストを組織に引き留める力を持っていることを認識していることが知られています。1998年のアフリカにある2つの米大使館爆破事件に関与した男は、アルカイダに妻の帝王切開の費用500ドルを断られたことで、しみったれた組織に背を向けて、アメリカの情報提供者となりました。アメリカ出身のテロリスト志願者は、パキスタンへ向かう途中、外国の空港で自分の姉に捕まり、家に帰るように説得されました。姉の行動は、FBIと関係の深いテキサス州のイマムによって計画されました。

 別の者は、ロマンチックなテロリストの人生の現実の現実によって転向しました。2003年にテロを支援した罪で有罪となったイエメン系米人6人の中の5人は、2001年にアルカイダの徴募担当者の圧力にもかかわらず、アフガンの訓練基地から帰還しました。まずい食事が1つの刺激で、1人が診療所の食事が美味しいことを発見すると、別の者は脚の怪我を装い、その施設で残りの時間を過ごしました。レポートにはイギリスの当局者の、パキスタンへ旅立った多くのイギリス人が、自分の経験に失望すると、すぐに帰国しているという見解が引用されています。アフガンの戦争でアルカイダが訓練基地を激しく変えたのが1つの理由です。9.11以前、キャンプには宗教的な研究はなく、武器と身体のトレーニングしかありませんでした。現在のキャンプはより小さく、その場しのぎで、新人は頻繁に装備と住居の代金を支払うように求められています。

 志願者をテロ組織から離脱させる効果的な方法の1つは、テロリストの指導者の神秘性をくじくことです。2006年に普及した、イラクのアルカイダの指導者アブ・ムサブ・アル・ザルカウイ(Abu Musab al-Zarqawi)が、故障した機関銃を直して発砲する方法を知らないのを写したビデオテープはその典型です。一般市民やイスラム教徒をテロ攻撃で殺している偽善をハイライトすることも効果的です。ジェーコブソンは、米政府はテロ組織を去ることが可能なことも公表すべきだといいます。前述のイエメン系米人5人は、早々にビンラディン自身からキャンプを去る許可を得ています。政府はテロリストにアンチ・テロを語る上で最小限の効果しかあげていないと、ジェーコブソンは指摘します。

 これは非常に面白いレポートだと思いました。以前から、武力によってアルカイダを打倒するよりも、テロ志願者を減らしたり、イスラム主義国と密接な関係を維持したり、アルカイダの存在理由を世界から減らしていくなど、総合的な努力が重要だと考えてきました。ところが、ブッシュ政権は武力による解決を掲げて失敗しました。オバマ政権は方針を転換していますが、その努力はまだ違う方向に向けられており、さらなる軌道修正が必要です。そのために、このレポートは格好の教材となるでしょう。

 たとえば、「アルカイダがイスラム教徒を殺害していることは、アラーの教えに反する」「テロ組織からは離脱が可能 相談は電話番号×××へ」といったことをアピールするテレビCMを制作し、米国内やイギリスなどで放送します。イスラム諸国でも放送されるように交渉すべきです。ぜひとも、このレポートの全文を読んでみたいものです。

 その他のニュースを紹介します。

 military.comが、パキスタンが6~12ヶ月間は、武装勢力の攻勢で得たものを強化し、さらなる前進を検討するために、これ以上の攻勢は行えないと、訪問中のロバート・ゲーツ国防長官に述べ、アメリカはこれを了承するという記事を報じました。前から述べているように、いつもパキスタンは秋に攻勢をはじめて、1~2ヶ月で止めてしまうため、武装勢力を駆逐することができないのです。そんなことが、この数年間繰り返されてきました。物資が足りないのなら、アメリカに提供を要請し、武器弾薬が尽きないようにすればよいことですが、パキスタンはそれをしません。また、武装勢力がアフガンへ逃げ、パキスタンに戻ってくるパターンが繰り返されるだけです。どうせ秋まではパキスタン軍は動かないのですから、ゲーツ長官はその間にパキスタンに不満を分析して、手土産を持って再訪することになるのでしょう。だから、ゲーツ長官は「楽観視している」とのコメントを出しています。しかし、アメリカはパキスタンの怠慢のために、アルカイダに対して、これ以上の進展を見込めないという蟻地獄に陥っているのは間違いがないのです。いまは、パキスタンを戦列から離れない程度にとどめておく、当座の対処しか考えられないのです。パキスタンの消極性に比べれば、アメリカにとって普天間基地の問題はとるに足りない問題です。

 military.comによると、アフガンにいる米軍とNATO軍が夜襲に関する規則を変える予定です。スタンリー・マクリスタル大将( Gen. Stanley McChrystal)が昨年、空爆とその他の兵器の使用を制限してから、夜襲はアフガン人の間で一番の不満となりました。国連は今月、政府側の軍隊による一般市民の死亡率が昨年減少したと述べ、タリバンが多くの一般人を殺していると批判しました。それでも、アフガン人は一般市民が間違って狙われていると主張します。木曜日には前夜、4人がカブール南西の村で夜襲によって死亡したと、約500人のアフガン人がデモ行進を行いました。NATO軍は死亡した4人は武装勢力だと主張しましたが、村人は一般市民だと主張しました。目撃者のムサ・ジャライ(Musa Jalali)とその他の住人は、外国の軍隊が午後10時にヘリコプターでガズニ州のカラ・バグ地区、バラム村(the Baram village)に降下し、2軒の家を襲撃し、武装していないジャライの父と2人の息子、隣人1人を殺害したと述べました。地元警察も、死亡した4人は武装勢力だと主張します。ジャライは、殺された父親は携帯電話の会社で働いており、誰もが良人であることを知っていたと主張し、NATOに情報を提供した者が、襲撃を引き起こすために嘘をついたと思っていると述べました。こうしたアフガン人の不満に応えるため、夜襲のやり方を変えることになったのです。過去にも、アフガンやその他の地域で、情報に基づいて空襲したら、その情報が誤っていたと判明したことがあります。未だに、こうした不完全な情報で空爆を続けているNATOの体質も問われる必要があります。


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