鳩山総理の普天間発言が米で誤報?

2010.1.26

 military.comが、普天間基地問題について、鳩山首相が首相官邸で記者に述べた言葉について報じました。しかし、その内容は微妙にずれているように思えます。ここに日米の認識の差がくっきりと出ています。

[原文]
Japan's prime minister said today he may nix a key military deal with Washington on relocating U.S. troops, after a local election in Okinawa showed that residents oppose any new Marine base in their region.

[訳文]
日本の首相は今日、住民が彼らの地域内に、どんな新しい海兵隊の基地でも反対することを示した沖縄の地方選挙の後で、米軍の再配置に関するワシントンとの重要な軍事協定を拒否するかも知れないと述べました。

 これでは、鳩山総理は方針を変え、すでに協定を反故にする決心をしたと受け取れます。鳩山首相はこんなことを言っていないはずですし、今回の発言はこれまで述べてきたことの繰り返しに過ぎないはずなのですが…。

 首相は「ゼロベースで国が責任を持って5月末までに結論を出す(読売新聞)」とも言いました。その部分は以下のように訳されており、ひとまずは妥当な訳になっています。

[原文]
The country will start from scratch on this issue and take responsibility to reach a conclusion by the end of May.

 しかし、政府が盛んに使う「ゼロベース(zero-base)」という英語は、この文にも記事のどこにも登場しません。政府は意味があって使っているのに、これでは意図が伝わりません。

 「当然、選挙の結果は名護市民の一つの民意の表れだ(産経新聞)」に該当する訳文は以下の部分と思われます。

[原文]
Prime Minister Yukio Hatoyama said the results of Sunday's election reflected the will of the people, and that Japan would completely re-examine its accord with the U.S.

[訳文]
鳩山由紀夫首相は、日曜日の選挙の結果は民意の表れであり、日本はアメリカとの協定を完全に再検討するだろう。

 「一つの民意の表れ」が「民意の表れ」と、鳩山首相の微妙な言い回しは無視されています。「民意の表れ」と書くと、鳩山首相もその民意を理解し、支持しているように聞こえますが、首相はアメリカに気をつかって「一つの」を加えることで、選挙結果が沢山ある考え方の一つであることを表現しています。ですが、まったくアメリカには聞こえていないようです。後半はどの発言を訳したのかが不明です。近いのは「平野長官を中心に(政府・与党の沖縄基地問題)検討委員会で精力的に活動している。」ですが…。

 他に、「あらゆる可能性がまだ含まれている」「5月末までに、必ず米政府も日本政府も理解できるような形でまとめていく」「万一みたいな議論は私には不要だ」などは省略されていて、全体として鳩山首相の意向は伝わっていないという印象です。完全な誤報とは言えないと思いますが、読者の認識違いを誘発しかねない記事です。

 興味深いのは日米安保条約に関する解説です。

[原文]
Under a security pact signed in 1960, U.S. armed forces are allowed broad use of Japanese land and facilities. In return, the U.S. is obliged to respond to attacks on Japan and protect the country under its nuclear umbrella.

[訳文]
1960年に調印された安全保障条約で、米軍は日本の土地と施設を幅広く使う自由を与えられました。見返りに、アメリカは日本への攻撃に対応し、核の傘の下で日本を保護することを義務づけられています。

 日米安保は「日本を守るためのもの」という日本人の認識と違い、アメリカ人は「土地と施設を使わせてもらうためのもの」と考えているようです。ならば、土地と施設が使えないのなら、アメリカに日本を守る義務もないという理屈です。これくらいはっきり言ってもらうと、逆に気持ちいいですね。日本に米軍を駐留させているのはアメリカの国益のためなのです。小泉総理が定着させた、「三国軍事同盟」を連想させる「日米同盟」という言葉の真相はこれです。自民党はこの日米同盟を日本も血を流すものにしたがりましたが、それは理屈に合わないことなのです。日本はもっとビジネスライクになるべきかも知れません。もっと積極的に日米同盟を分析し、日本に有益なことを見つけたら、アメリカに要求していくのです。


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