ヨーロッパ人のテロ訓練が進行中

2010.10.5

 military.comによれば、ヨーロッパ国の市民権を持つ大勢のイスラム武装勢力がパキスタン北西部に隠れ、ヨーロッパ国の首都でテロ攻撃を行う任務の訓練を行っていると信じられています。

 欧米とパキスタンの情報当局者は、イギリスやその他のヨーロッパ諸国とつながりがある武装勢力を追跡するため、アフガニスタン国境に沿った地域で、盗聴や音声追跡ソフトウェアを用いています。彼らは西欧の都市を自由に出入りできるので、アルカイダはそうした過激派をヨーロッパの計画のために変化させようとしているようです。

 そうした攻撃が計画段階にあるという恐れから、米国務省はヨーロッパを旅するアメリカ人に注意するよう警告しています。パキスタン軍統合情報局の匿名を希望する高官はAP通信に、多くはパキスタン出身の、数ダース分のヨーロッパの市民権を持つ人たちが、無法の国境地帯のイスラム過激派の中にいると信じられていると言いました。外国人には、チェチェン人、ウズベク人、アラブ人、トルコ人を含み、一人はトルコ空軍の元F-16パイロットです。「これは、やって来た人々が高い教養のある人たちであることを示しています」と彼は言いました。パキスタンは同国に家族を連れて潜入したロシア人戦士を逮捕したと言います。「我々には驚きでしたが、彼らは探し求めていた純粋な(イスラムの)イデオロギーだと考えていました」。

 イギリスの政府通信本部「the Government Communications Headquarters(GCHQ)」は、約20人のイギリス生まれの武装勢力が国境地帯、特にCIAによる無人攻撃機のミサイル攻撃の焦点である北ワジキスタン地区にいると見積もっています。携帯電話の通信は国境地帯からイギリス、特にパキスタン移民の住民が多いミッドランドまで追跡されていると、匿名を希望するイギリス政府当局者は言います。声紋鑑定ソフトウェアは、イギリス情報部がテロ計画につながる特定の個人を追跡し、特定するのを可能にしたと彼は言います。さらに、ドイツ連邦刑事警察局は先週、70人がドイツからパキスタンとアフガンに準軍事的訓練を受けるために行き、その3分の1がドイツに戻ったという「確固たる証拠」があると言いました。

 米政府当局者によれば、ヨーロッパの計画を知ってから、CIAはパキスタン北西部で無人攻撃機による空襲を行いました。9月には少なくとも21回の攻撃があり、これは月あたりの最大値の2倍以上です。

 パキスタン当局は、計画に関する情報はカブール北部のバグラム空軍基地の軍刑務所で尋問を受けた容疑者アーメド・シディクィ(Ahmed Siddiqui)から得られたと言います。彼は、アフガン生まれのドイツ国民で、7月にアフガン国内で逮捕されました。計画は、ドイツ、イギリス、フランスに散開した数人のガンマンがムンバイ襲撃に似ているだけでなく、武装勢力がカブールやその他のアフガンの都市で行う、いわゆる「集団攻撃(swarm attacks)」を行うとみられます。その戦術は、自動ライフル銃、グレネード・ランチャー、自爆ベストを持つ小さなチームが都市のいくつもの目標を同時に攻撃し、死ぬか捕まるまでできるかぎり多くの破壊を行います。

 記事には、過去にイスラム武装勢力に参加し、テロ攻撃を行った者の事例が載っていますが、すでに報じられているものが多いので省略します。

 military.comの別の記事は、こうした外国人がミサイル攻撃で死亡したことを報じています。匿名を希望するパキスタン情報当局者によれば、月曜日の遅く、北ワジキスタンのミル・アリ(Mir Ali)にある家をミサイルが攻撃し、5人のドイツ人武装勢力が死亡しました。犠牲者2人は、この地域でテロの訓練を受けていたドイツ国民とみられます。3分の1は外国人とみられますが、詳細は得られませんでした。(ドイツ人5人死亡と書かれているあとに、2人と書かれているのが解せませんが、そのままにします)


 この記事は特に重要です。

 現在、パキスタン国内で外国部隊の補給品を運ぶ車へ攻撃が続いているのは、このテロ計画の発覚が原因だったのです。計画の露見でCIAが無人攻撃機による空爆を激化、それに怒ったパキスタン政府が北部のアフガン国境を閉鎖、それに乗じてタリバンが車両を攻撃しているという構図が明らかになりました。これで、最近、パキスタンで無人攻撃機の空爆が連続した理由が分かりました。

 しかし、単純に大騒ぎするのは止めて、得られた情報を少し検討してみましょう。

 テロ計画の証拠はシディクィの供述しかありません。もし、彼が混乱を引き起こすために嘘をついているのなら、作戦は大成功だったことになります。彼の供述と、通信傍受で得た情報がどれだけ合致しているかが気になります。この種の捜査は情報を基に推測を繰り返して行うので、時として、大変な勘違いを生むこともあります。

 記事からは、通信傍受の結果は、各国が独自に分析した結果で、シディクィの供述とどう噛み合っているのかが分かりません。記事のストーリーは、両者は同じ一つの計画だと説明していますが、よく読むと、そう確信できる証拠は書かれていません。それぞれが別々の計画の下に動いている可能性も考えるべきです。

 サスペンス小説の場合、こうして露見したテロ計画の欠片は、常に計画全体に正しくつながっていきます。そうしないとストーリーにならないからです。しかし、現実は違います。具体的に情報がつながった時にだけ、関連性を認識するようにすべきです。

 ここでCIAによる無人攻撃機の空爆は、実態が隠されていて危険だと考えるべきではない。こんなにテロリストを駆逐しているじゃないかと考えるべきではありません。この空爆が功を奏するかどうかは分かりません。計画の露見を知ったアルカイダは、テロ志願者を別の場所に移して訓練を続けるからです。無人攻撃機の空爆によって、無関係の者が死傷している可能性もあるのです。この空爆の実態は、通信記録から隠れ家を突き止め、その家を狙ってミサイルを発射しているだけです。その時に、家の中に誰がいるかまでは確証はないのです。本来なら、空爆は軍が行うべきです。しかし、通信傍受は情報機関が行っており、彼らは縄張り意識から、無人機による空爆を軍に渡したくないのでしょう。

 それにしても、イスラム過激派に同調する人たちが、これだけ多国籍に渡るとは驚きです。今後、こうした傾向はどんどん広がるでしょう。特に、戦闘の意味を理解できない未熟な米兵などが、イスラム教徒を殺害するような事件が起きれば、問題はもっと大きくなります。幸い、東南アジア人は、このテロ訓練には無縁のようです。今のところ、テロ志願者はイスラム教国で生まれ、別の国で育った人たちに限られています。しかし、将来的に日本人が参加するようなことも、今から想定しておくべきかも知れません。問題は大きくなってから対処するのではなく、小さいうちに芽を摘み取ることが大事です。


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