イエメンからシカゴに向けて発送されたトナーカートリッジから爆発物が発見された事件について、military.comには国内報道より詳しいことが報じられています。記事から必要な部分だけを抽出します。
爆薬はコンピュータ用プリンタのトナーカートリッジの中で発見されました。装置は電気回路に取り付けられていました。さらに、携帯電話のチップがプリンターの内側の見えないところにありました。トナーカートリッジに詰められていた白い粉は「PETN」でした。この化学物質は、クリスマスのアメリカ行き航空機爆破未遂事件で使われたのと同じです。これがアルカイダにつながる「顕著な特徴」として報じられたのです。
ドバイ警察は、この装置について、海外から知らせを受けたと言いましたが、国名は言いませんでした。警告は、イエメンから発送されドバイに向かったFedExの航空便の郵便貨物に爆発物が隠されている可能性があるというものでした。
テストはプリンタカートリッジが、爆弾の起爆剤に使えるアジ化鉛(lead azide)も含まれていたことを示しました。
「PETN」は「四硝酸ペンタエリスリットペンスリット(ペンスリット、ニペリットとも呼ばれます)」のことです。これはプラスチック爆弾の原料に使われる高性能爆薬です。
しかし、軍用の爆薬の代表的存在であり、実に多くの武器に用いられていますから、これだけからアルカイダの犯行と決めるのは総計です。もちろん、アルカイダが過去に何度も「PETN」を使ってきたのは確かです。
今日になって、トナーを発送して逮捕された女子学生が釈放されました。別人が女子学生の名前で発送したことが確認されたからです。このように、捜査段階で間違いは生じるものです。今日、爆弾を製造したとされる男の名前も発表されました。これはおそらく、事前に得られた情報により、犯行グループが分かっており、そのグループの爆弾担当者の名前を出しただけだと想像できます。そのグループにまだ知られていない爆弾専門家が参加した可能性も考えておかなければなりません。
アジ化鉛は起爆剤ではなく、「PETN」に混ぜられていたかも知れません。アジ化鉛は見た目は透明な結晶か、白い粉末です。
また、記事を読む限り、トナーカートリッジはプリンタの中から見つかったようです。携帯電話のチップがプリンタの中身から見つかっているからです。国内報道からは、荷物はトナーカートリッジではなくプリンタだったとしか読み取れませんが、CNNの映像(下)は、プリンタも映し出しています。
また、この映像から、別の報道の携帯電話のチップは「SIMカード」だという説明がおそらく間違っていることが分かります。電子回路の写真は、それが携帯電話から取り出された基盤であることを思わせます。また、SIMカードだけでは動作しません。このように、外国語から翻訳する際、「携帯電話のチップだからSIMカードのことだろう」のように誤訳することがよくあります。
気になるのは、トナーカートリッジの中にある銅線の先に雷管の役目を果たす装置がついているはずなのに、その写真がないことです。また、装置を動かすためのバッテリーの写真もありません。映像すべてから、この爆弾が起爆可能かどうかは判断できません。もちろん、当局の検査はそれが可能であることを証明していることでしょう。
荷物が送り先に届くか、これが搭載された航空機が離陸したころを見計らって、爆弾の携帯電話にダイヤルすると、基板が着信の処理を始め、回路に電気が流れ始めます。そういう回路を特定しておけば、それを電子スイッチの代わりに使えます。そうしたところからもらった電気で雷管の役目を果たす電子回路を起動するのです。多分、そんな仕掛けでしょう。
この事件の教訓は、貨物の荷物に携帯電話を入れるのを禁止するということです。事前の情報がなければ、計画は成功していたでしょう。
携帯電話を出荷できるのは、製造元や販売店などに限定する必要がありそうです。携帯電話はイラクやアフガニスタンでIEDを起爆するのにも使われていて、もはやテロの道具となっています。貨物業者や空港は携帯電話の電波が荷物から出ていないかをチェックアウトすべきです。空港の手荷物検査でも、携帯電話が積まれた荷物は預からず、乗客に持ってもらうようにすべきです。それでも、この裏をかく方法を考え出す奴がいるでしょう。もちろん、その方法は、ここには書きません。