砲撃の詳細が部分的に判明

2010.11.24

 今日1日の報道で、延坪島砲撃事件について、やっと詳しい情報が出てきました。まだ不十分ですが、明らかになった情報を整理してみました。

米空軍のスタンス

 military.comによると、米空軍参謀長ノートン・シュワルツ大将(Gen. Norton Schwartz)は、すべての米空軍のジェット戦闘機は通常の警戒態勢にあり、アメリカは北朝鮮を抑止するのに十分な戦力を持っていると言いました。

 シュワルツ大将はワシントンでの記者との朝食の席で「明らかに、我々は西太平洋の沢山の場所、朝鮮半島のオサンとクンサン、嘉手納(日本)、さらに西方のグアムに十分な空軍資産を持っています」と言いました。「これらの資産は確実に準備され、太平洋司令部指揮官スキップ・シャープ大将(Gen. Skip Sharp)は必要になったらこれらの資産を使う用意ができています」。

 以下は朝鮮日報から引用しました。

砲撃の時刻と発砲地点

時刻
午後2時34分〜2時55分
午後3時10分〜3時41分

発砲場所
黄海道カンリョン郡
ケモリ基地 ムド基地(茂島・kmzファイルはこちら

※「ケモリ」の位置は確認中です。(延坪島周辺の地図はこちら、朝鮮半島全体図はこちら

使用した砲の種類

 朝鮮日報によると、北朝鮮が使用したのは平射砲(直射砲)の海岸砲と曲射砲とみられます。一般的に、砲身の角度が20度以下なら平射砲、20度以上なら曲射砲に分類されます。

 韓国軍は北朝鮮が使った砲を、射程12kmで、1分間に8発撃てる76.2mm砲(海岸砲)と射程54kmの170mm自走砲(曲射砲)と推測しています。

 北朝鮮軍の攻撃は、複数の砲が特定の場所に向け一斉に砲撃する「同時弾着射撃(TOT)」でした。


 記事は砲撃事件を「skirmish」、つまり小競り合いと書いています。攻撃の内容はその通りですが、核兵器の製造を背景とした恫喝の一環であり、中国の対応を計算した戦略的行動であり、判断を誤ると大事に至ると考えるべきです。

 シュワルツ大将のコメントは一般論を述べただけで、特に重要な意味はありません。どんな場合でも、初期段階では、こういうコメントが普通です。シュワルツ大将は事態に冷静に対処していると安心できるコメントと見るべきです。

 平射砲と曲射砲は弾道の特質で分けた分類です。弾道は放物線になるものですが、高速に撃ち出される弾の弾道は直線により近く、そういう砲を平射砲と呼んでいます。曲射砲は弾道が弓なりの放物線を描く砲です。自走砲は砲の移動を迅速にするために車両に載せたものです。平射砲を載せた車両が戦車で、両者は形は似ていても、運用は全く違います。簡単に言うと、平射砲は車両や建物を狙い撃ちし、放物線は敵を地域単位で狙います。

 北朝鮮で170mm自走砲というと、西側でM-1978とM-1989、または「コクサン」と呼ばれているカノン砲を搭載した機種があります。北朝鮮はカノン砲を榴弾砲と同じように使うようです。

 普通、カノン砲は平射砲として運用され、戦車くらいにしか搭載されておらず、自走砲には榴弾砲が載っているのが普通です。カノン砲と榴弾砲の区別は、口径(砲弾の直径)と砲身の長さの比で決まり、簡単に言うと口径に比べて砲身が長いのがカノン砲です。口径が170mmもあれば、砲身はかなり長いわけです。これは移動や所在の秘匿にはかなりの支障になります。同じことができるなら、砲身が短い榴弾砲の方が使いやすいはずです。

 大延坪島には山もありますが、高いところでも100mくらいで、大した障害物にはならないようです。

 朝鮮日報によれば、最初の30発余りは、砲兵中隊(2個中隊)とレーダーサイト、民間の村などに落下したとのことです。初期の攻撃的でK9自走砲2両が被害を受けました。1両は直撃したも不発弾で、もう1両は射撃統制装置が壊れましたが、修理して、後で攻撃に参加しました。戦果を考えると、2個中隊で約6門。破壊できたのは1門。もともと車両は狙えない間接砲撃としては幸運でした。しかし、これは北朝鮮軍の実力を図る材料にはなりません。やはり、砲弾が落下した範囲を見ないといけません。

 今日になって、海上に170発が、陸上には80発が着弾したと報じられました。半分近くは狙いを大きく外し、海に落ちたのです。これを評価するには、砲兵隊と海兵隊の基地を正解に知る必要があります。砲兵隊は山の中腹に基地があると報じられています。海兵隊基地は海岸近くにあるでしょう。正解な位置は分からないものの、これは外れすぎです。

 同時弾着射撃(Time on Target)が用いられたのは、多分、初期の砲撃だけだったと思われます。奇襲効果のために行ったのでしょう。ニュース映像は通常の斉射を映し出していました。

 韓国軍の反撃が適切だったかは、朝鮮日報が報じているように限定的だった可能性があります。「北朝鮮の海岸砲陣地は、岩盤に狭い穴を掘り、射撃に使う砲口だけが開いている構造」では、精密誘導弾か地下施設用のバンカーバスターを使わないと砲を破壊でしません。北朝鮮が韓国軍の自走砲を破壊したように幸運を祈るしかないのです。自走砲も地下の掩蔽壕から発砲したと考えられますが、巨大な170mm自走砲は隊員を乗せたまま移動できないので、捕捉できたかも知れません。

 韓国軍はすでに戦果を航空偵察により調べ、初期分析を終えているはずで、近日中に発表するでしょう。あまりにも戦果がない場合、航空機による精密爆撃が行われるかも知れません。

 ロシアが北朝鮮を非難したのは当然です。ロシアは天安撃沈事件で独自の報告書を出すと調査員を派遣したのの、未だに結果を出せていません。今度文句をつけたら、国際社会から「先に報告書を出せ」と言われるだけです。ロシアにも、北朝鮮をそこまで庇う理由はありません。

 まとまっていませんが、今日分かったことは以上です。



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