海に落ちた90発に疑問が浮上

2010.11.26
追加 同日22:30


 徐々に初期情報が修正され、砲撃の実態がさらに詳しく分かってきました。

 今日になり、主な砲撃地点を示したイラスト地図が新聞などで報じられました。あまり正確な地図ではないのですが、これで北朝鮮の砲撃を評価できます。私の手元にあるのは新聞に掲載された地図だけで、残念ながらここにリンクできる地図は見つかっていません。

 評価のためには韓国軍の施設がどこにあるのかを確定する必要があります。そこで、Google Earthから韓国軍の施設と考えられる場所にマークをつけました(kmzファイルはこちら)。ファイルをダウンロードしたら、Stuffit Expanderを使って解凍し、それをGoogle Earthで開いてください。(Google Earthは無料のデジタル地球儀ソフトです。入手先はこちら

図は右クリックで拡大できます。

 なお、この部隊配置は私の観察によるものであり、公式な情報に基づいていません。誤りを含んでいる場合がありますから注意してください。

 開墾地は砲座です。「韓国軍施設(2、5、6、7)」が開墾地に大きな建物が隣接している場合があります(同6、7)。これらは自走砲の格納庫でしょう。他にも小さな開墾地がありますが、これらは予備の砲座かも知れません。破壊された場合に備えたり、多くの砲座を持つことで、敵の照準を迷わせる意図があります。ほとんどの砲座とそれらをつなぐ道路が山に隠れて北朝鮮側から見えないことに注意してください。車両自体や、移動時の排気煙や発砲の煙が北朝鮮から視認され、平射砲による直接照準射撃で破壊されないための工夫です。

 山頂部にある小さな施設(同1、3、4、11、12、15、16)は砲撃観測所と思われます。観測所は見通しのよいところに設ける必要がありますが、これは同時に敵に破壊されやすいので、予備をたくさん設けているのかも知れません。

 「同14」は弾薬庫かも知れません。

 各施設は道路でつながっており、連絡や移動に使えるようになっています。延坪島の砲兵隊は非常に合理的に配置されていると言えます。

 北朝鮮の砲弾は「同2、4、5、6、7、9、16」の付近に命中しています。「同16」を狙ったと思われる砲弾は目標を大きく外しているように見えます。

 民間人への被害が増えたのは「同9」周辺に多くの命中弾があったためです。イラスト地図ではこの周辺に3ヶ所の命中マークが書かれています。各命中マーク周辺にどれだけの弾痕があるのかが分かりませんから、正確な評価はできないものの、ある程度は北朝鮮の砲撃能力と意図を考えることができます。

 軍人と民間人の死傷者は同6、7、10周辺で出ており、この辺への砲撃が激しかったことを暗示します。狙った場所のほとんどが内陸部分であり、海岸付近を狙った砲弾が少ないことから、韓国軍による170発が発射され、陸上に80発が命中との発表は疑問視されるべきです。海に落ちた90発の候補となるのは、港を狙った砲弾です。港の被害は火災が70棟、負傷者が3人です。負傷者が少なかったことは、砲撃の数が少なかったことを暗示します。少なくとも、海が写り込んだ監視カメラの映像では、海に落下する砲弾はないように見えます。よって、90発も海に落ちたとは考えにくいのです。今後、さらに調査が進むと、この数字は大きく変化するかも知れません。

 分析からは、北朝鮮軍は定石に則って砲撃をしたことが分かります。「同6、7」にはK-9自走砲が堅固なコンクリート庫に隠されています。これらに被害を与えたり、行動不能にするため、砲撃はここに集中されたのです。しかし、本気で攻撃するには、観測所をすべて砲撃していないことから中途半端な感じがします。観測所を破壊しても、車両で移動し、仮設の観測所を設けることはできるものの、本気で破壊するのならすべての観測所を破壊しようとしたでしょう。

 気になるのは港近くにある「同9」を狙った砲弾です。この施設は海兵隊の宿舎かも知れませんが、民間人の居住区でもあります。こころロケット砲で攻撃すれば、民間人に被害が出ることは容易に分かります。延坪島は港に居住区が集中し、他はほとんどが軍の施設となっています。港は避けて、他の軍施設だけを狙うという選択肢もあります。基本的には港のような交通の要所は攻撃対象になるので、定石に従っただけかも知れません。港を集中的に狙っていた場合、かなりの砲弾が海に落ちる可能性はあります。

 もっと正確に検証するには、今後出されるはずの弾痕の調査結果を待つ必要があります。とりあえず以上のように報告します。

 一つ修正を書いておきます。

 先ほど、テレビニュースを見ていたら、韓国軍施設の「1」と「16」(もしくは「15」)は観光用の展望台であることが分かりました。しかし、北朝鮮軍は「15」か「16」を狙ったらしく、近くに砲弾が落ちています。もちろん、展望台も即席の観測所になります。また、「1」を狙ったと言えそうな位置にも弾着しています。いずれにしても、結論を出すにはもっと正確な地図が必要です。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.