military.comによれば、北朝鮮は韓国が砲兵隊の周辺の民間人を「人間の盾」として使ったと非難し、砲撃を正当化しようとしています。
北朝鮮の国営通信は、その声明の中で「非常に遺憾ながら、延坪島で民間人の犠牲が出たのが真実なら、その責任は砲兵の位置に民間人を配置して人間の盾を作った敵の非人道的な行為にあります」「敵たちはいま、身を守れない民間人が北からの突然の無差別な砲撃にさらされたというプロパガンダの一環として、民間人の犠牲を脚色するのに懸命になっています」「米韓合同演習は、アメリカが意図的に事件を計画し、陰で糸を引いた大犯罪人であることを示しています」と言いました。
長い記事ですが、すでに報じられていることが中心なのでほとんどを省きました。
頭にくる声明ですが、冷静に考えてみましょう。
軍事的な面から見れば、北朝鮮にとって、この声明は恥の上塗りでしかありません。
延坪島の自走砲部隊は居住地から切り離されており、部隊が攻撃されても山の斜面により遮られ、市街地に被害が及びにくくなっています。普通、「人間の盾」とは、軍施設の中や極めて近い場所に民間人を置くことを言います。タリバンが女性や子供を家の屋根や窓に立たせ、そこから外国部隊を攻撃するようなやり方を指します。韓国自走砲隊の砲台から中学校までは一番近いところでも750mあり、その間に山があるのです。精度の悪い弾道ミサイルならともかく、射程10km程度の砲撃がここまで狂うとは誰も考えません。
北朝鮮が砲台を狙ったのなら、砲弾はその周辺一帯に緊密に落ちなければなりませんが、島の南端から北端にかけて散開しています。しかも、90発が海中に落下したかも知れません。
元々、精度の悪い誘導装置のないロケット砲で、精密射撃をしたと宣言すること自体が非合理的です。
毎日新聞の27日付けの記事(下)は、北朝鮮軍の砲兵隊が韓国軍の応射で混乱した可能性を暗示しています。
23日午後2時半すぎ。自宅で妻とキムチを漬けていた農業、サ・サンヒさん(75)は、軍施設の方角で最初の着弾に気づいた。「何か変だ」。すぐに近くの退避所に避難した。間もなく韓国側の対応射撃が始まると、北朝鮮の砲弾は村の市街地に着弾し始めた。
この記事は最初の砲撃は砲座付近に落ち、応射後に精度が落ちたことを示しています。原因が北朝鮮側にあったことを暗示しています。
攻撃は奇襲であり、それを予期しなかった韓国に人間の盾を作ることはできません。
しかし、こうした北朝鮮の妄言も、政治的な面から見ると、よく考えられています。ボズワース北朝鮮担当特別代表が中国外交当局者と会談した際、「(アメリカが北朝鮮と対話しないから、こういう事件が起きた」という発言が中国側からあったと報じられています。中国メディアが北朝鮮の砲撃を非難する記事も掲載していることから、中国が「明らかに北朝鮮が攻撃したと分かるような挑発は駄目(逆に言えば、実行者が明確でない挑発なら黙認)」という意向であることが推測できます。
北朝鮮はすでに自分が砲撃をしたと宣言しており、これを修正することはできません。だから、民間人の死傷者は自分のせいではないという声明を出して、中国をなだめているわけです。
戦争は戦い自体に意味があるのではなく、それが達成する政治目的に意味があるのです。北朝鮮はそれを忘れていないところに注意しなくてはいけません。
なお、Wikipediaに砲撃を概説するイラスト地図が掲載されていますので、ご覧下さい。(地図はこちら)