トナー爆弾は本当に脅威だったのか?

2010.11.3

 military.comによれば、米当局者は9月にイエメンからシカゴへ送られた3つの荷物を、先週の爆弾未遂事件の予行演習だったと見ています。

 荷物は目的地へ着く前に米当局が押収し、捜索しました。現在、それらは航空貨物システムの物流をテストするために、アラビア半島のアルカイダが送ったとされます。

 「我々は数週間前に、これらの荷物が潜在的にアラビア半島のにつながっているという情報を受け取りました。箱は輸送中に阻止され、捜索されました。紙、本、その他の物がありましたが、爆弾はありませんでした」と事情を知り、匿名を希望する当局者は言いました。

 当局者は、2つの貨物爆弾はどちらも携帯電話の技術を使った起爆器につながっていましたが、未だにこれらの起爆器が電話をかけたり、内蔵のアラームで作動するかは明確ではありません。

 2つの爆弾は300gと400gの「PETN」を含んでいました。昨年のクリスマスのデトロイト行き航空機でテロ容疑者の下着には80gの「PETN」が含まれていました。

 米英の当局は、彼らは標的は航空機で、住所に記されたシカゴのシナゴーク(ユダヤ教の礼拝堂)ではないと考えています。

 爆弾の機能は正確に分かっていませんが、捜査官は注目しています。航空機が空中にある間に携帯電話で爆弾を起動する方法は信頼性がありません。携帯電話のサービスは高い高度ではまばらだったり、皆無だったりです。どの航空機が爆弾を積み、いつ離陸するかを、イエメンのテロリストが知る可能性は低そうです。

 インターネットに詳しいイエメンのアルカイダを含め、この爆弾未遂事件の犯行声明はありません。


 爆弾の構造は解明済みでの発表と思ってましたが、まだだったとは驚きです。1日の記事で、私は当局は解明済みなのだろうと書きましたが、そうではなかったのです。つまり、世界は本当に爆発するかどうか分からない爆弾で大騒ぎしているわけです。

 これは大変な問題です。軍事科学の基本は敵の脅威や目的をできるだけ正しく把握するところからスタートするからです。いまや、テロというだけで話を膨らませる世界的な傾向が顕著になっており、今回の事件でもそれがみられると言えます。

 昨日、爆弾が飛行中に爆発するようになっていたとする国内報道がありました。読売新聞は、イギリスのメイ内相が議会で、爆弾は「空中で起爆するよう作られており、仮に爆発していれば(運搬する)貨物機は墜落していただろう」と報告したと書いています。

 しかし、爆弾の写真を見る限りは、そんな仕掛けはなさそうでした。高度や気圧、温度を計測して起爆するには明らかに部品が足りません。

 BBCのウェブサイトにメイ内相の下院での発言が載っています(記事はこちら)。この記事を読むと、意味が微妙に違います。

「装置はおそらく、空中で起爆し、それらを輸送中の貨物機を破壊することを意図していました」。

 メイ内相の主旨は犯人の意図にあり、読売新聞は爆弾の能力を述べています。犯人が意図しても、爆弾にその能力がなければ事件は起こせません。武器の性能が悪く、効果を生まずに終わるのは、テロ事件で珍しくありません。

 さらに、記事はこう続きます。

彼女は「イースト・ミッドランド空港の装置の分析は、それが『実行可能』で、航空機を墜落するのに成功し得たことを見出しました」と言いました。

 メイ内相は断定していますが、起爆装置の分析は済んでいないのですから、分かっているのは爆薬の量だけです。起爆装置の仕組みに関する説明は記事にひとつも書かれていません。多分、内相が言いたいのは、爆薬の量は航空機を破壊するのに十分ということです。爆薬だけでは爆弾は爆発しません。起爆装置が本当に動くかどうかを慎重に検討しなければいけないのです。

 military.comの記事も、飛行中の起爆は難しいと書いています。確かに携帯電話のネットワークは高い高度にはほとんど存在しません。私は、この問題は、起爆装置に電話をかけ続けることで解決されると考えていました。イエメンからシカゴまでは、かなりの時間飛行する必要があります。たとえば、頃合いを見計らって、パソコンを使って電話を数分おきにかけ続ければ、高度がさがっている時に爆弾に取り付けられた携帯電話に着信します。ある程度の確率で、航空機が飛行中に起爆できるはずです。ベタなやり方ですが、一応は可能です。

 メイ内相の発言は先走りすぎです。読売新聞の記事は、その内相の発言をさらに単純化して紹介しています。読者は爆弾が完全なものだったと勘違いするでしょう。

 問題はさらにあります。先のBBCの記事によると、イギリス政府は、同国の航空路で500gを超えるトナーカートリッジの機内持ち込みを禁止するつもりです。

 最近見たコメディドラマに、悪いことが起きた時に必ずズボンを履いていたから、ズボンを履かないと決心した男が登場しました。

 イギリス政府の対応は、これと同じです。トナーカートリッジは爆発しません。単に爆弾の容器に使われただけです。ある程度の容積がある物なら、なんでも爆弾の部品になります。トナーカートリッジを禁止するなら、テロリストは粉ミルク缶に爆弾を仕込むでしょう。

 そもそも、トナーカートリッジを手荷物で持ち込む人はほとんどいない上に、今回の未遂事件では、貨物室に入れられた荷物に爆弾が仕掛けられていたのです。

 必要なのは、爆発物探知犬や起爆器と、それを遠隔操作する電波を探知する方法です。

 テロは危険。だから、脅威は大きめに見積もって当然。こんな考え方は無意味です。



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