延坪島にスパイの噂で警察が捜査

2010.11.30

 military.comによれば、韓国軍の統合参謀本部当局者は、は火曜日の延坪島での実弾砲撃演習を中止したと記者に言いました。匿名の当局者は、理由を明かしませんでした。

 もう一点気になる記事がありました。朝鮮日報は、延坪島で北朝鮮を手引きした者がいるとの噂が住民の間に広がり、警察が捜査していると報じています。

 住民は、農協、村の事務所、派出所に近い主な建物がすべて砲撃を受けたので、主な施設の位置を北朝鮮に教えた者がいると言います。また、こういう噂がインターネット上で広まっています。


 定例の訓練を今回は中止するのは当然です。以前と同じように行えば、砲撃を何とも思っていないというメッセージを北朝鮮に送りかねません。しばらく間を置いて再開するのが妥当でしょう。

 スパイの話は、スパイを心配するよりも、疑心暗鬼になっている住民の心理こそ問題です。以前に書いたように、スパイが砲撃を誘導した可能性はあります。しかし、これまでの情報を見る限り、そうしたスパイはいなくても、砲撃は実行できたと考えられます。

 韓国軍が私の推測通りに「韓国軍施設12」にいたとすると、北朝鮮から視認できたでしょうし、発砲音でも位置を特定できたはずです。韓国軍は示威行動として、意図的に北朝鮮から見える場所を選んでいるのかも知れません。

 命中精度が悪いロケット砲では、特定の建物が集まった狭い地域を確実に攻撃できません。これは敵の前線に穴を開けるために、大量に用いる兵器です。北朝鮮が言うとおりに砲座を狙ったにせよ、民間施設を狙ったにせよ、ロケット砲という選択は最悪です。また、主な施設の位置なら、韓国の地図を使えば分かります。スパイを使うまでもありません。住民が言うような砲撃の状況は偶然にでも起こるものです。

 特に根拠なく、こうした噂が広がることには警戒すべきです。関東大震災で、朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだという噂が広がりましたが、これに似た話です。映画監督の黒澤明氏は、子供の頃に震災を体験し、大人たちが井戸に描かれた印を見て、毒を入れたという目印ではないかと話し合っているのを見たと述べていますが、実はこの印は黒沢氏が遊びで描いたものでした。

 韓国人の反応をみていると、朝鮮戦争の教訓を完全に忘れていると感じました。「砲撃してくるなんて、同じ民族とは思えません」と言った若い韓国人男性をテレビニュースで見ました。気持ちは分かりますが、朝鮮戦争は民間人を巻き込んだ戦争としては世界でも屈指であることを忘れています。そういう戦争を僅か60年ほど前に自分たちの先祖がやったのです。北朝鮮軍が交替しながらスパイを残置していったので、韓国人は疑わしい者を拘束して、殺害しました。韓国でも「銃後の狂騒」と呼ぶべき現象が起こりました。殺害された人の中には無実の人もいたといわれます。こうした処刑に米軍が関わっていた可能性があることが、最近、公開されたフィルムで明らかになっています。大佐の階級章をつけた米軍将校が処刑の現場に立ち会っている映像が見つかったのです。こうした悪しき歴史から学ばないと、憎しみだけで突っ走ることになります。



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