昨日になって、Google Earthの衛星写真が11月25日付けの高解像度の写真に差し替えになり、stratfor.comに延坪島砲撃に関する分析結果と衛星写真が掲載されていることが分かりました(記事・pdfファイル)。今回は、これらを検証した結果について書きます。
Google Earthの写真は砲撃による火災にあった延坪島の住宅や北朝鮮領内の弾着も確認できるほどです。完全に解析に使用できるレベルではないものの、前回までは誤解していたことが明らかになり、推測しかできなかったことも特定が可能になりました。たとえば、弾薬庫の可能性があると指摘した「韓国軍施設14」は地下タンク施設のようです。
STRATFORの衛星写真を元に、弾着が確認できるところや、私が検証した場所をマークし、kmzファイルでまとめました。ここをクリックして圧縮ファイルをダウンロードし、Stuffit Expanderを使って解凍し、Google Earthで開いてみてください。
なお、前回低解像度の写真による分析のデータはファイル名が記事と一致しておらず、分かりにくかったので、ファイル名を修正して再アップロードしてあります(ファイルはこちら)。
この分析は依然進行中です。言うまでもありませんが、衛星写真で確認できる被害がすべてではありません。この分析は確認できたことだけで成り立っています。地下燃料タンクの東側の山にも焼けたような場所がありますが、今回の分析では除外しました。
延坪島
韓国軍の砲座1 |
西岸から150mの場所にあると報じられた砲座です。実際には180mほど海岸から離れています。
自走砲の格納庫と車体の方向を変えるための円形の場所が隣接しています。
多分、これは訓練用の砲座です。2門分の砲座があるのが確認できます。ここから南南西4.8kmに向け、無人島付近の洋上を狙って射撃訓練をしていたのです。
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韓国軍の砲座2 |
砲座1にあるのと同じ形の砲座が6門分あります。マスコミに公開された砲座は恐らくここです。通常、自走砲はここに待機し、砲座1で訓練を行っているのです。 |
北朝鮮軍の弾着 1〜8 |
STRATFORのデータを元にマークしました。 |
北朝鮮軍の弾着?A〜F
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私が認めた弾着です。弾着らしい場所は他にもありますが、明確なものだけにしました。 |
最初に見積もったのよりは、遙かに北朝鮮の多連装ロケットが正確であることが、ようやく納得のいく形で確認できました。
韓国軍の砲座1を狙った砲撃は大半が西岸の洋上に落ちたと報じられていますし、砲座1付近に大きな被害はないように見えます。しかし、砲座2を狙った砲撃は北東に100m程度ずれたとは言え、僅かながら戦果を生みました。 また、弾着は比較的緊密です。
しかし、それ以外の砲撃はかなり拡散したようです。山の中腹にある自走砲部隊の施設の全体を狙ったように見えます。見えていない着弾もあるでしょう。街に命中した砲撃は、やはり山中の自走砲部隊を狙ったのが、飛びすぎてように思えます。
茂島
茂島の弾着は私の判断で印をつけてみました。塹壕帯にも着弾があるように思われましたが、着弾と言い切れないので除外しました。韓国軍が主張するような建物の近くへの着弾は確認できませんでした。しかし、確認できた2ヶ所の着弾の間隔は約55mで、緊密でした。 見える範囲での評価ですが、事前に建物の位置を確認し、座標を確認していたとしては成果が薄いように思われます。
自走砲は攻撃を受けた砲座から移動し、安全を確保してから発砲したのでしょう。座標が明確な砲座から発砲すれば、より正確な弾着があったはずです。 移動すると、現在地の座標をその場で取得し、目標への方位と距離を計算するので、多少、照準は不正確になります。航空機を飛ばして弾着を確認し、砲撃と修正を繰り返していれば、北朝鮮軍の砲陣地は完全に破壊できたはずです。強いて言えば、これが韓国軍がやるべき正しい対処だったかも知れません。
ケモリ
北朝鮮軍の海岸防衛施設 |
北朝鮮軍の砲座の可能性があるとした2ヶ所の施設の内、東側の方は防衛施設でした。 |
北朝鮮軍の他連装ロケットA〜C |
25日にロケット砲部隊がここにいたことを示します。北朝鮮軍が砲撃態勢を解いていないという韓国軍発表は、こうした衛星写真の分析結果でしょう。もちろん、偽装用の張りぼてである可能性もあります。
なお、BとCを結ぶ直線上に、6門分の空の砲座がありますから探してみてください。 |
韓国軍の弾着 |
多連装ロケットがいる場所にタイヤ痕が確認できます。同じものが韓国軍の弾着の場所にもあれば、多連装ロケットがいた場所を正確に攻撃したと言えますが、それらしいものが確認できません。空の砲座にはタイヤ痕がありますから、延坪島を攻撃したロケット部隊は砲座から発射したと考えた方がよさそうです。 |
韓国軍の弾着?A〜C |
確認された弾着は14発のみとされていますが、私は他に3発の弾着を確認しました。 |
結論
砲撃の成果としては、建物を破壊したり炎上させた北朝鮮軍に成果があったように見えます。しかし、死傷者数は韓国側しか明確になっておらず、最終的な戦果は不透明なままです。見た目の派手さで戦果を判定するべきではありません。
北朝鮮軍がどこを狙ったのかは不透明です。砲座1と砲座2を狙ったことは確実ですが、すべてがそこを狙ったのか、他にも照準していたのかが分からないので、ロケット砲の正確性は正しく判定できません。しかし、島の中央部に集中している自走砲部隊の施設に後半に着弾していることから、北朝鮮が主張するように砲座を狙ったのではなく、自走砲部隊全体を狙ったように見えます。多分、衛星写真では見えていない弾着が、延坪島の中心部に多数あるはずです。それらの一部が約500m遠くへ落ち、市街地に被害を及ぼした可能性があると私は考えます。北朝鮮ならば、国際的な批判を承知で市街地に焼夷弾を用いるはずですし、サーモバリック弾だけを使ったのは、堅固な軍施設を破壊するためと推察できます。もちろん、砲座を狙ったという北朝鮮の主張が嘘で、市街地を狙った可能性もありますが、明らかになった情報からは大量虐殺の意図はなかったと、私は判断します。
この事実はこれから始まるかも知れない国際司法裁判所の調査に大きく影響します。民間人を直接狙った大量虐殺なのか、軍施設を狙った結果として民間人に被害が出たのかでは、調査の結論は大きく異なります。
当サイトで攻撃の詳細にこだわったのには、こうした理由があります。世界中に報じられた延坪島砲撃事件は、実は被害の実態が明確に報じられませんでした。北朝鮮軍がどこから発砲したのか、韓国のどこが攻撃を受けたのかは、ごく大ざっぱにしか報じられず、攻撃を評価するためには不十分でした。しつこく情報を集めて、ようやくこれだけのことが分かっただけです。十分な程度に真相を知るには、まだ時間がかかるでしょう。
このように当たり前に思えることでも、本気で考えると分からないことが沢山あるものです。最近は、メディアの発達で世界中の事件がリアルタイムに報じられます。我々は何でも分かっている気になっていますが、実は分かっていないのです。常に謙虚に情報を読み解く努力を忘れるべきではありません。