もう一度、Google Earthを用いて延坪島への北朝鮮軍による砲撃を検証しました。今回は、島全体をくまなく調査しました。
なにぶん、解像度が十分ではない衛星写真を用いた調査のため、正確性に万全を期すことができないのが残念ですが、手元の資料では、これが精一杯です。
順序としては、まず延坪島の韓国軍施設をできる限り確認し、その後、被害状況を評価します。これによって、北朝鮮軍の狙いやロケット砲の能力が一層明らかになるはずです。
前回同様、ここをクリックして圧縮ファイルをダウンロードし、Stuffit Expander(無償ダウンロードできます)を使って解凍し、Google Earthで開いてみてください。
再度繰り返しますが、この分析は韓国軍の公式な情報ではなく、私個人の評価に基づいています。当然、誤りが含まれる可能性があります。評価には次のような基準を用いました。
- 韓国軍施設か民間施設かを判別し、できれば施設の種類も特定しました。
- 韓国軍施設の周囲には、敵兵の接近を拒むための壕が巡らされている場合があり、判別の材料になります。
- 施設同士はほとんどが自走砲が装甲できる道路で接続されていますが、生活道路と兼用の道路もあります。
- 建物の形も判別の手がかりになります。
マーカーの種類は以下のとおりです。種類の文字色はマーカーの色分けと一致しています。
種 類 |
数 |
説 明 |
民間施設 |
7 |
役所や学校など |
韓国軍施設 |
24 |
適当にまとめてマーカーを設定 |
砲座 |
13 |
格納庫と円形砲座 |
火災 |
20 |
焼けた山林と家屋 |
弾痕 |
11 |
平地に確認された爆発跡 |
島の地理
島の地形に関して多くの発見がありました。
海岸には絶壁もありますが、まとまった部隊の上陸が可能な砂浜もあります。そうした場所には障害物が設置されています。対岸の北朝鮮側の砂浜にも同種の施設があります。大きな川はありませんが、山から得られる地下水があるようです。小さな川の近くには田畑が確認され、一部に人工的な農業用の水路がみられます。水源となる大きな湖はないようですので、地下水を利用しているのかも知れません。
韓国軍施設
「韓国軍施設3」は射程300mの銃砲器用射撃場のようです。「韓国軍施設4」もそうかも知れません。「砲座5〜10」に隣接して拳銃用の射撃場らしいのもあります。「韓国軍施設9」は兵舎のようです。北朝鮮が見えるところにあるのは、隊員の士気を高めるためかも知れません。センターラインがある舗装の仕様がよい道路周辺にあるのは重要施設です。「韓国軍施設10」は部隊司令部のようです。近くには地下壕への入り口らしい場所があります。「韓国軍施設19」はヘリポート。「韓国軍施設20」は燃料などの地下タンク。
自走砲部隊2個中隊の施設としては、施設が大規模で、訓練施設や大きな兵舎もあります。ここは単なる自走砲基地ではなく、西海5島の部隊がやってきて訓練をする場所でもあるようです。
砲座
自走砲の砲座はさらに5ヶ所が見つかりました。こうした砲座はなくても、自走砲はどこにでも走って移動し、発砲できます。しかし、位置があらかじめ分かっている場所から砲撃した方が正確なのは間違いなく、そのために砲座を用意しているのでしょう。この方法には敵に攻撃すべき場所を事前に教えるという問題もあります。
火災
ここは火災が起きたと考えられる地域です。通常の山火事も、ロケット弾による火災と同じに見えるという問題は念頭に置く必要があります。また、岩の色が灰の色に近い場合、火災の跡と誤認する可能性があります。
火災の面積は攻撃の程度を必ずしも表現していません。消火が早くて大事に至らなかったところもあるでしょうし、僅かなロケット弾で大火災になったところもあるはずです。
火災の位置はフェリー船上から撮影されたと考えられる写真やビデオも参考にしました。フェリー乗り場は港の外側にあり、これらの映像は戦死したソ・ジョンウ兵長が休暇のために乗船した船である可能性があります。砲撃を見たソ兵長は部隊に戻ろうとして下船し、防波堤の上の道路を島へ向かい、帰隊する前に死亡しました。
弾痕
地表に見える爆発の跡です。近くに火災が起きた地域がある弾痕もあります。「弾痕8」は韓国軍施設の屋根を直撃しているように思われます。
以上から、北朝鮮軍の狙いを考えてみます。
北朝鮮は砲座を狙ったのであり、民間施設は狙っていないとし、民間人への被害は韓国側の責任にしました。しかし、着弾場所を見る限り、北朝鮮軍は砲座だけでなく、自走砲部隊の中枢を狙って攻撃していることが確認できます。
全体的に狙いは東側に逸れており、それによって韓国軍は大損害を免れました。ロケット砲は風に弱いという欠点がありますが、そうした要因が関係しているのかも知れません。
北朝鮮軍が狙ったと考えられるのは次の韓国軍施設です。
- 砲座3・4
- 砲座5〜10
- 韓国軍施設5〜7
- 韓国軍施設10〜13
- 韓国軍施設19
- 韓国軍施設20
砲座は韓国軍が自走砲4門で砲撃訓練を行っていたとされる場所であり、これらは第一の標的です。「砲座3・4」に対する攻撃は大半が海に落ちたとされ、効果らしいものは見えません。「砲座5〜10」でも訓練を行っていたはずで、ここがマスコミに公開されました。ここでは自走砲に直撃弾があったほか、「火災14・15」のような被害がありました。
「韓国軍施設5〜7」への攻撃は、「火災1〜7」の被害を生みました。全体的に狙いが東に逸れたようです。
「韓国軍施設10〜13」への攻撃は、「火災8〜11」「弾痕8〜10」の被害を生みました。これは自走砲部隊の指揮系統を破壊することにより、部隊の活動を遅延させたり、不可能たらしめるためと考えられます。この攻撃の不正規弾が港町に落下し、「火災17〜20」を生んだと考えられます。市街地を狙った場合、もっと緊密な弾着があるはずです。
「韓国軍施設19」への攻撃は、「火災12〜13」「弾痕11」の被害を生みました。明らかにヘリポートを狙った攻撃であり、増援を阻止しようという意図が見えます。この攻撃も東へ逸れました。
「韓国軍施設20」への攻撃は「火災16」の被害を生みました。明らかに燃料施設で火災や爆発を起こし、部隊の活動を阻止しようとする意図があります。この攻撃も東へ逸れました。
北朝鮮軍の砲撃は明確な軍事行動だったと言えます。砲撃訓練を行う砲座だけでなく、部隊の機能そのものを失わせるための攻撃が行われました。北朝鮮が「正確に砲座を狙って命中させた」というのは、誇張した主張に過ぎません。自走砲部隊の機能を失わせるために火力を集中した攻撃であり、完全な軍事行動です。哨戒艇「天安」への攻撃と同じように、戦力を無力化する目的を認めます。
その結果として民間人に被害が及んだと考えるべきです。市民が疑いを持つのは当然ですが、スパイがいて砲撃を市街地へ誘導した可能性は否定してよいでしょう。この砲撃ならスパイなしにも実行できます。
砲撃の精度は当初考えられたよりは精度が高いことが分かりましたが、それほど幸運に恵まれなかったようです。重要な砲撃がすべて東側へ逸れて、期待したほどの戦果は生みませんでした。
間接砲撃では常にこういう現象が起こると考えるべきです。第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦で、オマハ海岸で連合軍は多数の犠牲を出し、「血のオマハ」という言葉が生まれました。連合軍は事前にオマハ海岸を猛爆撃したのですか、不幸にして重要な防御施設にほとんど被害が出ず、ドイツ軍の反撃が可能になりました。結局、連合軍は海岸の上陸部隊が再度の艦砲射撃を要請し、防御施設を破壊して、海岸を占領したのです。
榴弾砲を使わなかった理由は未だに不明です。攻撃を行った第4軍団に自走砲が配備されていないとは考えられません。何か興味深い理由が隠されているように、私には思えます。
韓国が「人間の盾」を用いたという北朝鮮の主張は通りません。北朝鮮側の衛星写真を見れば分かるとおり、この国は国土全体が要塞化されており、至るところに塹壕や砲座があります。韓国はまだしも軍と民間を分離しようとする意図が感じられるのに対して、北朝鮮は国民は全員が兵士と思える防衛態勢を敷いています。ロケット砲の精度から考えて、北朝鮮には民間人が死んでも構わないという意図があったのです。