パキスタン国境の閉鎖は無理

2010.12.29

 military.comによれば、コースト州(Khost province)を含むアフガニスタン東部で米軍を指揮する米陸軍のベト・ロング大佐(Col. Viet Luong)は、伝統的な感覚で国境を守ろうとすれば、途方もない資源を必要とすることになると言いました。

 彼は、それにはタリバンに安全な通行を提供しているパキスタン国内の部族がもっと沢山協力する必要があるとも言いました。別の米軍高官は、パキスタン軍がタリバンの隠れ家を閉鎖するためにもっと多くのことをして欲しいと言いました。ロング大佐は、彼の兵士がいまでも国境を管理しようとしていると言いましたが、彼は最近「戦闘前哨スペラ(Spera)」という小隊規模の検問所を閉鎖しました。ロング大佐は、小隊がより人口の多い地域を守るためにより役立つと考えていると言いました。

 military.comによれば、アフガンにいる国際部隊の今年の死者が700人に届きました。2009年には504人が殺されました。これはほぼ10年間の戦争で最大です。


 ロング大佐の主張は正しく、こんなことは最初から分かっていたことです。先日、オバマ大統領は武装勢力をしゃがみ込ませたと宣言しましたが、これはアフガン撤退に向けた政治的なメッセージであり、大統領自身も信じてはいないでしょう(関連記事はこちら)。

 国境を閉鎖できないのだから、パキスタンに逃げ込んだ武装勢力は態勢を整え、いつでもアフガンに戻ってこられます。人数不足を補うために、米軍は現地人で編成した部隊を使い、入国ルートで待ち伏せしています。それでも、軍隊が伝統的に認識している程度の警備は不可能なのです。

 国際部隊の死者が増えたのは米軍を中心とした増派で、アフガンにいる兵士の数が増えたからです。この増派は以前から指摘しているように、撤退に向けた世論作りのためであり、皮肉な言い方をすれば、その目的を達したのです。兵士を多く配備したところで、成果が得られないのであれば、それは無益な犠牲にしかなりません。アメリカ国内にもアフガン撤退に反対する者が少数派になるためには、こうした犠牲が必要なのです。これは人間の頭の硬さを示すことであって、我々が再考すべき問題です。

 このように、戦略のない戦いはいくらやっても成果があがりません。イラクやアフガンへの侵攻に安直に賛成した者たちは反省する必要があります。私が同時多発テロ直後に検討した時は、アフガンへの派兵は必要ながらも、その成果は極めて難しいという結論でした。まして、イラク侵攻などは必要のないものであって、頭に浮かぶことすらありませんでした。

 戦略は常に敵の抵抗力を直接奪うものでなければならず、短期間で決着がつくものが理想です。やっても成果は不透明だとか、長期間かかるといった場合は、別の方法を検討すべきなのです。

 この点で、西欧の軍事思想は2001年以降、まったく機能してきませんでした。ブッシュ大統領の負のエネルギーのお陰か、軍人たちの考察力は明らかに失われ、「力の浪費」が繰り返されてきました。オバマ政権中に賢明な軍事哲学がアメリカに復帰しなければ、対テロ戦争はアメリカの指導的な立場を転落させるきっかけになることでしょう。

 島国日本は、まったく平和な環境にあるため、こうした厳しい国際情勢の波から守られています。小泉総理はイラク侵攻に賛成し、ブッシュ政権に取り入ることだけで、アメリカからの支持と日本国民の支持を取り付けました。日本人はアメリカにぶら下がることで安心感を得ようとしたのです。そのアメリカの軍事思想が堕落していることを、日本人は理解していません。対テロ戦争以降、イギリスはまったく信用できないところにまで凋落したと、私は考えています。彼らはアメリカに付き従う方針を貫こうとするだけで、何も考えてはいません。結論ありきの行動ですから、理由を尋ねたところで無意味です。

 旧与党の自民党の国家戦略とはこういう程度のものでした。現与党の民主党はなぜかそれを継承しようとしています。この傾向は今後も大して変わりそうにはありません。こういう環境下で、極東情勢が急変した場合、日本国民が被る被害は少なくないかも知れません。



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