訓辞の内容で連隊長が注意処分に

2010.2.14


 陸上自衛隊第44普通科連隊長、中沢剛1佐が10日から始まった日米共同訓練の開始式で「同盟は政治・外交上の美辞麗句で維持されるものではない」と訓示する予定だったのに、「同盟は美辞麗句で維持されるものではなく、ましてや『信頼してくれ』などという言葉だけで維持されるものでもない」と述べたことで、北沢防衛大臣が12日に「訓令に基づく注意処分」としました。(読売新聞)

 最近、田母神俊雄前航空幕僚長みたいに、自衛隊からこの種の発言が出ることが増えていますが、まったく情けないと感じます。まして、中沢一佐は鳩山総理の発言を引用したのではないと、明らかな言い訳を行っています。自らの信念で発言したのなら、このような言い訳をすべきではありませんでした。誰がどう見ても、これが総理の発言に対する批判であることは否定しようがありません。「政治・外交上の美辞麗句」の部分は「鳩山総理は八方美人」と言っているのに等しく、普天間問題に対する日本政府の動きを揶揄したものと断定できます。その点、一切自分の非を認めない田母神氏の方が、行き過ぎているとは思うものの、まだしもマシです。自衛官に限らず,最近の日本人は自分の発言を臆面もなく修正して恥じるところがありません。自説を主張するためには嘘をつくことも避けません。その上、突っ込まれると言い訳をするなんて最低です。

 本当に意見を持っているのなら、反論に対して「待ってました」とばかりに反論を提示してみせるはずです。それができなかった時点で中沢一佐の発言は主張として失当と言わざるを得ません。これまでアメリカの言いなりに済ませてきた基地問題を、粘りに粘って交渉を続けている鳩山政権の方が、中沢一佐の言いっぱなしよりもずっと建設的です。

 読売新聞の記事は「日米関係が政治的に不安定だからこそ、現場レベルで協力を維持していかねばならない。発言はそういう危機感の表れではないか」という自衛隊幹部の発言を引用していますが、私には到底納得できません。日米関係が危機的状況であるはずはありません。他国とアメリカの間には、普天間問題以上の難題が山積しており、普天間問題はごく軽度のトラブルに過ぎません。日本は周囲を海という障害物に囲まれていて、外国からの圧力は陸続きの国に比べて各段に弱いのです。あまりにも弱いので、ちょっとしたことでも大騒ぎする癖があり、政治家はそれを自説を通すためだけに利用し、マスコミは記事を飾るためだけに利用しているのです。その程度の話を自衛官までが真に受けて、部下を混乱させるのでは話になりません。

 自衛官には建設的な意見を期待しています。小泉総理が定着させたワンフレーズ型の意見が定着してしまったのか。テレビ番組が国民に単に怒ることだけを教え込んでしまったのか。最近は、日本人の発言に感銘を受ける機会が減っています。上層部に疑問を感じて軍や政府組織を去り、民間人として警鐘を発している人たちの話は,このサイトでも何度か紹介しています。残念ながら、そうした潔い人たちはアメリカ人ばかりで、日本人にいないことに,私は失望を感じています。これ以上、失望させないで欲しいと思います。


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