北アフリカに新しいテロの脅威

2010.3.2


 military.comによると、北アフリカのアルカイダのネットワークが活発になり、新しい志願者を惹きつけ、すでに脆弱なサハラ地域をさらに不安定にすると、アメリカの防衛・対テロ当局者が警告しています。

 「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(Al-Qaida in the Islamic Maghreb: AQIM)」を名乗る北アフリカの派閥は、いまだに小規模でほとんど孤立し、数百人の戦士を擁し、ほとんどマリ北部の砂漠を拠点にしています。しかし、徐々に成長する兆候と地域に詳しい点が懸念されています。イエメンのアルカイダの急速な高まりは、クリスマスの航空機への攻撃を生み、アメリカ当局者に北アフリカの戦士が聖戦を行い、アメリカやヨーロッパの同盟国に深刻な脅威となる証拠とされています。マリを拠点にする戦士は、こうした外国での攻撃を始める能力を示していませんが、誘拐、麻薬取引、テロ活動へ拡張するのに用いる利益の獲得への関与を拡大していると、当局者は言います。AQIMが拡大し、北アフリカのイスラム諸国を脆弱な政府を不安定にすることが懸念されています。マグレブは、北アフリカのモロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビア、モーリタニアを含む北アフリカの地域です。アメリカはマリの弱い防衛力を高めるため、500万ドルをトラックやその他の装備品を軍に提供し、訓練を提供するために国防総省の資金も承認されました。ラス・ファインゴールド上院議員(Sen. Russ Feingold)は非軍事援助も必要だと主張し、これらの地域にはアメリカ大使館がほとんど存在せず、それがテロリストの隠れ家となった地域を理解するのを不利にしていると言いました。

 AQIMは、1990年代初期にアルジェリアの武装勢力として誕生し、大敗した後に政府の支配が及ばない、フランスの面積に匹敵する、マリ北部の砂漠地帯に追いやられました。同時多発テロ以降、このグループは生き残るためにアルカイダに参加し、AQIMはアイマン・ザワヒリ副官(Ayman al-Zawahri)によってアルカイダと公式に認定されました。アメリカと欧州連合はAQIMをテロ組織に指定しました。このグループは道路爆弾や自爆攻撃のアルカイダの技術をいくらか吸収し、時折、聖戦に関するインターネット・フォーラムでビデオと声明を出しました。2007年12月、彼らは国連のアルジェリア本部を襲撃し、37人(国連職員17人を含む)を殺害しました。彼らは要員採用の努力を増し、モーリタニア、ナイジェリア、チャドから志願者を得ています。志願者はその後、祖国へ戻り、攻撃の計画と実行を行います。武装勢力はしばしば、地元住民と組みます。地元住人は観光客を誘拐してAQIMに売り、AQIMは身代金を要求します。先週、フランス人の人質、ピエール・カマッテ(Pierre Camatte)を3ヶ月間拘束した後に解放しました。これはマリの裁判所がAQIMのメンバーを釈放する判決によって刺激を受けました。国連特使2人を含む3人と共に誘拐されたイギリス人観光客エドウィン・ダイアー(Edwin Dyer)を含む一部の人質は死亡しました。イギリスはこのグループに身代金を払うのを拒否しました。専門家は、AQIMは以前として砂漠地帯に留まっていますが、アルカイダの世界的な聖戦を支援するために、誘拐以上の行動を起こさなかったと見ています。

 今度は、マリなど北アフリカでのアルカイダの脅威が報じられたことになります。これまでは、アフリカの角が新しいアルカイダの拠点とされてきましたが、北アフリカも大規模なテロ組織の牙城となるかも知れません。ブッシュ政権なら「先制攻撃」のコンセプトを用いて、これらの組織が拡大する前に壊滅しようとするでしょう。短期的にはそうした攻撃が必要な場合があるかも知れませんが、長期的にはテロ組織の存在価値がなくなるような戦略が必要です。つまり、経済的な問題を解決し、北アフリカ諸国の地位を向上させることで、戦わなくてもよいと感じられる地域を作ることです。ファインゴールド上院議員の発言には、その萌芽が感じられますが、到底、十分とは言えません。これまで、国家戦略は国家を相手として、その正規軍と戦うことを想定してきました。このため、軍事的な手法で敵の軍を打ち破る方法ばかりに目が向けられてきたのです。また、国家レベルのテロ組織は政府軍によって打ち負かすことができますが、これらの組織が広範に結びついた国際的なテロ組織との戦いは、これまでほとんど実例がありません。「国際テロ組織」は映画や小説の中にだけ登場する存在でした。また、こうした組織は成立しても、まれに共同行動をするだけで、まとまった力にはならないとみられてきました。しかし、ある程度成長すれば、共同して行動する可能性もあると、私は考えるようになりました。こうした国際テロ組織は打倒しがたく、むしろ非軍事的な手法を用いた方が効果があると考えます。

 そこで考えられるのが、大規模なプロパガンダを併用する、支援政策です。残念ながら、世界の指導者になれると見られたアメリカ、その僕であるかつての超大国イギリスには、その素養がなかったことを認めるところから始めなければなりません。国連も銃弾をばらまくだけで、到底、世界政府になり得るとは思えません。これまでの国家戦略のコンセプトは捨てて、政治とビジネスを発展途上国に向けるのです。これまで価値がないとされて、見向きもされなかった発展途上国が経済的に成功できるように、技術や考え方を開発していきます。発展途上国とのビジネスで儲けが出るような方法を実現するのです。文化的な交流も進めて、互いの中にある差別感を撤廃します。こうした動きをプロパガンダを用いて、対象国へ宣伝するのです。努力しても、大衆に認知されなければ意味がありません。テレビ、ラジオはかなり普及しています。インターネットはまだ不十分ですが、利用している人たちはいます。こうした変化が人々の話題にのぼるようにするのです。国防総省と国務省が中心となって来た国家戦略に、他の省庁も大いに参加することになります。これを、軍産複合体が誕生したときのように、国家的レベルで推進するのです。軍産複合体は戦いを目標にしたものですが、その平和版と考えればよいでしょう。途方もない話ですが、これくらいやらないと、テロの拡大は防げないのです。


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