同性愛の配偶者にも軍の恩典を!

2010.3.27


 この数日間で、米軍の同性愛問題に関する記事をmilitary.comが立て続けに報じています。

 ロバート・ゲーツ国防長官(Defense Secretary Robert Gates)が、同性愛者を除隊させるのをより難しくする新しい規則を承認しました(記事はこちら)。この規則は既に実施され、すでに公になっているケースに適用されています。

 この新方針は「聞かない、言わない政策(don't ask, don't tell)を廃止するオバマ大統領の要請を議会が決定するまでのつなぎ措置とされます。新方針では、実態調査を開始する権限を持つ将校のレベルと、調査を行い、解任を決定する将校のレベルを引き揚げます。漏れ聞こえた言葉やうわさが使われることを阻止するために、今後、第三者が誰かが同性愛者だと暴露する場合、宣誓が必要となります。これには恋愛の進展を拒絶した女性を通報した男性兵士、捨てられた恋人が元恋人を通報した事例が含まれます。同性愛者が弁護士に述べた言葉、聖職者、精神療法士、医療専門家に対して述べた言葉など、秘密の情報は使えなくなります。各部署は新しい規則に沿うよう規則を変更するため、30日間与えられています。同性愛差別禁止を支持する「パーム・センター(the Palm Center)」のナサニエル・フランク上級研究員(Nathaniel Frank)は、軍事がすでに第三者の申し立てを制限しているので、新しい方針がどれだけ影響を持つかは不明だと述べました。

 さらに、同性愛者のパートナーは軍隊が提供する様々な恩典を享受できるかという問題が取り上げられました(記事はこちら)。

 徴兵制が1973年に終わり、配偶者の恩典は入隊者を維持し、有効な軍隊を維持するための誘因として使われてきました。今日、半数の隊員が結婚指輪を身につけています。結婚した隊員の恩典には、配偶者が大学の授業料を受けられるとか、負傷した隊員のベッドサイドにいる権利を含みます。配偶者は軍の医療サービスと購買部も利用でき、結婚した隊員はよりよい住宅と出征すれば臨時の給与も受け取ります。こうした恩典を得るのには結婚証明書が必要です。同性の結婚は5州とワシントンD.C.だけで有効です。1996年の結婚防衛法(Defense of Marriage Act)は連邦政府が同性同士の結婚を認めるのを禁じています。ナサニエル・フランクは、軍が結婚していないパートナーに恩典を与えることにおいて、政府の中で前に出ようとすると考えるのは非現実的だと言います。しかし、オバマ大統領は結婚防衛法を撤廃することを要求し、一部の連邦の恩典を同性のパートナーに拡張するため活動しています。国務省は、同性愛者の外交官に、家庭内のパートナーが外交旅券を持ち、海外駐在の行き来に旅費を支払う権利などの恩典を拡張しました。1980年代初期に国防副長官だった米国進歩センター(Center for American Progress)のラリー・コルブ(Larry Korb)は、軍が克服しなければならないのは、国務省や一部の連邦機構がしたことと似ていると言いました。米軍は、同性愛者の隊員とその家族に門戸を開くと、徴募が減ることを懸念しています。南部のキリスト教信者に階級を満たすのを重く依存しており、彼らが変化に抵抗することを心配しています。一方、退役軍人組織「AMVETS」広報官のライアン・ガルーチ(Ryan Gallucci)は、恩典の問題に十分に立ち向かわないと、家族の面倒を見る準備を整えられないため、同性愛者の隊員が軍を去ると指摘します。

 海兵隊の最高位の将校ジェームズ・コンウェイ大将(Gen. James Conway )は、同性愛の禁止が撤廃されるとしても、独身下士卒宿舎(bachelor enlisted quarters: BEQ)の2人部屋に、異性愛の隊員と同性愛の隊員を一緒に入れるのは望まないと述べました(記事はこちら)。「我々は(2人部屋を)継続したいが、避けられるならば、私は海兵隊員に同性愛の者と一緒に住めと要請したくはない。私には、これはBEQを建設し、1人部屋を持つことを意味します」と述べました。陸軍のベンジャミン・ミクスン中将(Lt. Gen. Benjamin Mixon)は、3月8日にスターズ・アンド・ストライプス紙に寄せた手紙で政策転換への反対意見を示しました。「現在の政策を維持することに賛成する人たちが声をあげないならば、現在の政策を維持するチャンスはありません」。同性愛差別撤廃に賛成するマイク・マレン統合参謀本部議長(Joint Chiefs of Staff Chairman Adm. Mike Mullen)はミクスン中将のこのコメントについて、辞任を考えるべきだと言いました。コンウェイ大将はすでに現行法の撤廃に反対していますが、ミクスン中将に比べると強くはありません。コンウェイ大将は、法律が変われば、海兵隊は彼が起きると信じる混乱を軽減する方法を見つける必要があり、兵士用宿舎はその問題の1つだと言いました。「この場合、私は、彼または彼女が(同性愛者と部屋を共有すること)を望まないと考える海兵隊員の権利を保有したい。繰り返すが、そうしたくないと言う人々の数は…圧倒的です」。海兵隊は2人部屋が部隊の結束のためのよいと信じており、今日、軍隊の中で唯一2人部屋を採用しています。しかし、同性愛の海兵隊員が異性愛の海兵隊員と部屋を共有することが逆効果を生むのなら、海兵隊は他の軍隊で標準の1人部屋を採用するでしょう。「軍事即応センター(the Center for Military Readiness)」のエレイン・ドネリー(Elaine Donnelly)は、「問題は軍が同性愛者が公言して勤務する禁止令なしに、同じ施設の中に同性愛者と異性愛者を混在させるか、同等の施設に分離して置くかどうかです」と言いました。ラリー・コルブは、コンウェイ大将が提示したような懸念は、すでに同性愛を解禁した軍隊では支持されていないと述べました。「イギリスとフランスの経験では、施設を分離し、シャワーを分離することで、問題は起きていません。彼らは以前からの方針を変えませんでした」。カールトン・ケント海兵最先任上級曹長(Sgt. Maj. of the Marine Corps Carlton Kent)は、隊員の大多数に同性愛者が公言して勤務することに本当の懸念があると言います。彼は通常、隊員に3つの質問をすると言います。「現行の政策を撤廃することが良好な秩序と規律に逆効果だと信じますか?」「撤廃は部隊の結束に逆効果ですか?」「彼または彼女が同性愛者だと宣言した海兵隊員と部屋を共有したいと思いますか?」。コンウェイ大将は、「圧倒的大隊数の海兵隊員がこれらの問題に重大な懸念を持っています。認識が正しければ、我々は海兵隊は変化を望んでいないと考えます」。

 これらの記事で重要なのは、同性愛のパートナーに異性愛のパートナーに与えられてきた軍の恩典が与えられるべきかという問題だと、私は考えます。他の問題は、まだ具体的な方策が決まっていないために出てくる、当然の不安と不満と言うべきです。こうした反対意見は、事態が進展するにつれて消えていくものです。

 米軍では、軍人の配偶者と家族に様々な恩典を与えています。恩給、医療サービスなどは、その代表です。このため、復員軍人援護局は、毎年多額の予算を使っています。また、名誉勲章をもらった軍人がアーリントン墓地に埋葬されることを希望した場合、家族が一緒に埋葬されることもあります。よって、新方針以降は、アーリントン墓地に同性愛者の夫婦が埋葬される可能性もあり、名誉勲章の授与式に同性の配偶者が出席して、大統領から勲章を授けられることもあるわけです。こうした式典はテレビニュースで報じられ、大勢がそれを見ることになります。こうした変化を保守層が受け入れるかどうかは、確かに疑問です。差別を撤廃する以上、同じ条件にするのが原則ですが、どこまでそれを実現できるかが問題です。同性愛を軍が認める場合、私が最初に気になったのが、この恩典の問題でした。米軍が自慢の種とする、手厚い恩典は同性愛の配偶者にも平等に与えられるのかという問題です。これを考えるには米国の法律に精通する必要があり、深い部分での問題は正直なところ分かりません。

 やっかいなのは結婚の認定で、州の権限が結婚を認定し、結婚防衛法により連邦政府が結婚を認定できない以上、同性愛者の結婚を認めていない地域の軍人はどうやって同棲と結婚するのかという問題があります。日本とアメリカとでは社会通念が大きく違い、米中部・南部の州で、同性愛の結婚を認めることは極めて難しいはずです。こうした法律問題を解決する必要があるわけです。

 一方で、同性愛だと宣言するのは軍の中では事実上公認されていて、海軍では指輪の色で同性愛だと宣言する方法が半ば黙認されています。誰が同性愛者かは艦内の誰もが知っているのです。そろそろ、変化が起きるべき時期に来ているのは間違いないのです。これから、様々な出来事が、この問題に関して起きてきます。何が起きるかについて、非常に関心が湧きます。


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