アルカイダの弱体化と不可視化

2010.3.29


 military.comが、最近のアルカイダの活動傾向を報じました。アメリカとパキスタンによる取り締まりと、人的資源の減少によって、アルカイダは911型の攻撃を演出するのではなく、主に西欧の標的に対する、本来の目的から外れた攻撃の犯行声明を出していると、アナリストは言います。

 これは弱さの兆候ですが、新しい危険をもたらしかねない適応能力を示すと、アナリストは言います。アルカイダは無人攻撃機による空襲と、パキスタン軍の攻勢にさらされています。オバマ大統領は昨年、パキスタンをアルカイダとの戦いの中心にしました。オサマ・ビンラディンのネットワークは、世界的な聖戦を行うよりは、生き残りで忙しいのです。アルカイダはパキスタン軍の一部によって保護されていますが、人的資源と手段に問題を抱えていると、フランスの対外治安総局のアラン・チュエット(Alain Chouet)は言います。「彼らは十分な人員と通信手段を持っていません。攻撃が行われる時、攻撃の場所、実行犯が誰で、いつかに関係なく、誰もが明確なつながりの可能性がなく、パキスタンから犯行声明を出す2〜3人のジョーカーがいます」。記事は実例として、クリスマスイブにアメリカの航空機を爆破することに失敗したウマル・ファルーク・アブドルムタラブ(Umar Farouk Abdulmutalab)とフォート・フッドで乱射事件を起こしたニダル・ハサン少佐(major Nidal Hasan)をあげています。「The Nine Lives of Al-Qaeda」などを書いた研究家ジャン・ピエール・フィリゥ(Jean-Pierre Filiu)は、「このグループは犠牲者の数と妨害行為の価値を拡大するために、個人によって行われた攻撃の犯行声明を出している」と言います。彼は、ジハード運動への個人のつながりと関係なく、攻撃が世界的な脅威の証拠と解釈する傾向があると言います。チュエットは、組織的に犯行への関与を主張することにより、このグループは、よりよい時期が来るのを待つ間、一定の重要性を維持し、気前よい資金提供者を保持し、一定の影響力を発揮すると言います。どんな攻撃でもイスラム急進派と結びつけがちなメディアと西欧の当局者は、実際にはこのグループを助けていると、2人の専門家は言います。孤立した工作員は、いまや情報当局の仕事を難しくしているとフィリゥは言います。「彼らが組織とコンタクトし、旅行したり通信を確立する時が、彼らを観測できる時です。何も警告を発しない一匹狼はまさに悪夢です」。

 この記事は12日付けで紹介した別の記事を裏づける内容となっています(前の記事はこちら)。

 アルカイダが弱体化したのかどうかは、私には確信が持てません。最近、彼らは大きな活動をしていません。タリバンとの連携は適宜行われていますが、アルカイダ本来の活動はアメリカやヨーロッパなどの西欧諸国に対して、大規模なテロ攻撃を仕掛けることです。それが難しくなっているのは確かですが、見えていない部分も多いはずで、それらをまとめて評価しないと、実際の勢力は見えないのです。パキスタンから幹部が数名抜けて、別の国で資金調達などの活動を行う可能性もあるわけです。それでも、当初から見ると、若干力が弱まったようには見えますし、最近は個人の犯行を組織としてのテロ攻撃として宣伝する傾向は認められると考えます。12日に私が書いたように、完全に孤立した個人に、アルカイダがテロ活動の技術を独習する教材をインターネットなどで流し、彼らが組織に接触することなく、個別にテロ活動を行う可能性が心配されます。もはや、訓練基地を作って、小火器の扱いや徒手格闘を教える必要はありません。それらは手間がかかる上に、敵の攻撃を招くのです。それよりは、爆弾の作り方や起爆方法、狙うべき場所を教える方が、より簡単です。フィリゥ氏が言うように、個人のテロリストはアルカイダと接触するときに見つけられる可能性があります。完全な一匹狼には、そのチャンスがありません。自分の企画でテロ攻撃を行い、アルカイダの犯行だという証拠を残すようになれば、アルカイダは自ら手を下さなくても存在価値を示せます。こうしたテロリストは今のところ確認されていませんが、将来、登場する可能性はあります。問題は、西欧を攻撃したいというイスラム教信者のモチベーションが今もなくなっていないことです。これを断つことは、アルカイダの存続を断つことです。残念ながら、そのための政策はどの政府にもありません。大統領の声明レベルでは不十分なのです。 最近制作されるアメリカ映画のいくつかが、世界の融和をテーマにしていることには驚かされます。クリント・イーストウッドの「インビクタス/負けざる者たち」は南アフリカの話ですが、それを通じて、現在の世界情勢を顧みさせる内容です。すでに、映画界は飲むべき方向に舵を切っていますが、現実の政治が追いついていないのです。よって、孤立した一匹狼が大規模なテロ事件を引き起こす可能性は大きいと考えておくべきです。


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