海賊対策の進歩と襲撃の激化

2010.3.5


 military.comによれば、RPG(携帯型ロケット弾)を持つソマリアの海賊がスペインの漁船アルバカン号(Albacan)をケニア沖合で襲撃しましたが、民間の警備員が船上から反撃しました。

 この反撃の成功は、アフリカの角沖合の水夫と海賊の2つの傾向を示しています。より訓練され、保護された乗員が攻撃をより撃退できるようになりました。数百万ドルの身代金を求める海賊は、船を捕らえるために、より強い暴力を行使しています。国際海事局に届けられた攻撃をAP通信が分析したところ、アデン湾をパトロールする戦闘艦を使わずに、ソマリアの海賊による攻撃の3分の2は船の乗員によって撃退されています。昨年、民間の警備請負会社が撃退に成功したのは少なくとも5件です。ほとんどの乗員は見張りを増やし、海事当局に登録し、対海賊訓練を受けています。船速をあげ、より波を蹴立ててジグザグに航行することで、海賊の銃撃を難しくします。国際海事局は法的な問題と海賊との武装競争が始まって船員の危険が増すため、武装警備員を用いるのを推奨していません。アルバカン号の船主は、33人の乗員と3人の警備員の誰も怪我をしなかったと声明しました。海賊も怪我をしなかったとみなされています。当局者はこの春に、より多くの発砲事件が起こると考えています。船主の多くは、有刺鉄線を張り巡らしたり、高圧の消火ホースを追加したりして、一部の船は電流を流すフェンスを設置しています。一部の船は、乗員がラダーをのぼってくる海賊にドラム缶や木の板を投げつけたり、犬が吠える音をスピーカーで流して海賊を撃退しました。犬はイスラム教で不潔と考えられ、ソマリ族はほとんどが犬をペットとして飼いません。海運業界は、リスクの大きな船に番犬を乗せることを検討しています。多くの海賊は日和見主義的で、抵抗に遭うと、別の楽な目標を追いかけます。2009年は、217件という記録的な海賊の攻撃があり、ほとんどは成功しませんでした。111件の攻撃があった2008年とほとんど同じ、47隻が乗っ取られました。昨年、20隻以上の船がRPGで攻撃され、それらはタンカーやケミカルタンカーを含みました。ある事件では、2発のRPG弾が、船長が操船するブリッジのドアにあたりました。多くの船は小火器によって損害を受けました。2009年中、4人の乗員が死亡し、10人が負傷しました。イエメン軍の救出活動の最中に1人、フランス軍のそれでは1人が死亡し、1人は捕らわれている最中に死亡し、もう1人は攻撃の最中に銃撃で死亡しました。乗員が処刑されたことはありませんが、攻撃はより凶暴になっています。昨年の平均的な身代金は約200万ドルでした、2009年は総額で1億ドルが海賊に渡りました。今年支払われた2件の身代金は、300万ドルと700万ドルでした。

 これらの数字を見る限り、ほとんどの海賊の襲撃は船舶側の工夫で防げると言えそうです。対策が進むにつれて、海賊が成功する確率は減っており、海軍の艦艇や民間請負業者が使われる事例も減りました。海賊は攻撃を激化していますが、RPG以上の武器が使われたことはありません。彼らが使うのは小型のスキフで、より大型の武器を積むのは無理と考えられます。この環境なら、船舶側の簡単な対策によって、大半の海賊は防げるのです。今後は海賊の成功率ではなく、成功数を減らすことができるかどうかが焦点になります。当初、海賊問題は深刻と考えられましたが、その後、海運業界が基本的な対策すら行っていなかったことが判明し、対策が進んだ結果、成果が出つつあることが確認されたのです。各国がこぞって海軍艦を派遣したのはコメディみたいなものでした。日本でも海上自衛隊を派遣しろと騒いだ人たちがいましたが、彼らは問題をよく見ていなかったのです。

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