繰り返される戦地派遣とPTSDの関係

2010.4.12

 military.comが繰り返される戦地への派遣が、PTSDを増大させていることを報じました。

 アフガニスタン戦は9年目、イラク戦は8年目にあり、200万人以上の男女が両方の戦いに参加するために派遣され、軍の記録では、隊員の40%以上が少なくとも2回派遣されました。300,000人近い兵士は3〜4回派遣されました。兵士の半数は現在、少なくとも2回目の派遣の渦中にあります。大半の派遣は6ヶ月以上続きます。兵士がどのように複数の派遣に反応するかについて、明確に知る方法はありません。一部の者は4回派遣されて、何の問題も示しません。何度か派遣されると、途端にそれは永遠に変化します。アメリカを発つことなく、PTSDを発現する者もいます。ヴェンダービルト大学准教授で、湾岸戦争で海兵隊を担当した海軍の心理学者ポール・ラーガン博士(Dr. Paul Ragan)は、兵士は警察官や消防士とおなじく、繰り返されるストレスに直面し、それは積み上げられていくといいます。「肝心なのは、トラウマは累積されると言うことです。それは脳の中にそれ自身を埋め込み、振り払うことが出来ないのです」。2009年のアフガン駐留陸軍の報告では、精神的な問題は派遣の回数と共に大きく増えることが明らかになりました。3回の派遣では31%で、1回だけの場合の2倍以上の率です。イラクでは、2回派遣した陸軍兵士の15%が鬱病、不安神経症、心的外傷性ストレスにかかり、1回だけの派遣の2倍でした。PTSD単独では、2回の派遣では1回の派遣に比べて2.5倍になります。ウォルター・リード陸軍研究所の精神科学と神経科学部門の責任者ポール・ブリーズ中佐(Lt. Col. Paul Bliese)は、「我々はそれが、戦闘にさらされること、繰り返して家族と離別していること、(不十分な)休養のどれかは分かりません。これらのすべては理にかなった説明です」と言います。数学的なモデルに基づくスタンフォード大学の研究は、1回の派遣によるPTSDのリスクは帰国してから5年後の時点で24%、2回の派遣では39%、4回目の派遣では64%へ跳ね上がります。イラクとアフガンに派遣されたニュージャージー州軍の隊員についての研究では、イラクに再派遣された隊員の5人に1人がPTSDでスクリーニング陽性を示しました。この研究は、これらの兵士が戦闘に戻る直前に、PTSDとアルコール中毒で極めて高い率を示したことも見出しました。

 記事の大半はPTSDになった兵士の実例ですが、長くなるので省略しました。苦痛に満ちたPTSDの具体例を知りたい方は原文を読んでください。ここに訳出したのは、客観的な事実を示すデータのみです。

 ここに書かれているPTSDの実態は、これまでも言われてきたことの裏づけになっています。 戦地に派遣される回数が増えると、PTSDの危険は大きく増えるのです。ブリーズ中佐が原因がよく分からないと言っているのは、PTSDに関する情報がまだ十分に集まっていないことに原因があると考えられます。PTSDは兵器の殺傷力が増えた近代以降、繰り返し報告されているのに、軍隊は臆病者がかかる病気とか単なる仮病とみなして、真剣に研究してこなかったのです。最近になって、PTSDの研究に予算がつけられるようになり、米軍は真剣に対策に取り組むようになりました。しかし、以前として古い認識は改まっていません。この記事にも、ある下士官がPTSDになったことを上官に告白したところ、単なるアルコール中毒だから、イラクに連れ戻して治療してやると言われた事例が紹介されています。イラクの兵舎では飲酒が禁止されていますから、上官はアルコール中毒が自然と治ると言いたかったのでしょう。さらに、彼は部隊の民間人精神科医からも、派遣を逃れるためにPTSDを装っていると診断されました。埒があかないので、彼は自分で精神病院に入院して、軍を除隊しました。対テロ戦が長引くにつれて、こうした問題を起こす軍人が増えていき、最終的には社会的な問題へと発展し、この戦争を続けられなくなる理由になります。しかし、精神的な問題は定量化しにくく、評価が難しい上に、政治的な問題としても取り上げにくいのです。このため、歴史上も戦争を止める理由として浮上することはありませんでした。さらに徴兵するのは無理なので戦争を止めた例はありますが、精神病者のために戦争を止めた実例はないのです。先見的な視点では、PTSDの増加を懸念しつつ、将来的に戦争の解決を模索するべきなのですが、そういう政治的環境にある国は存在しません。政治家は常に勇敢さを装わなければ、大衆の支持を受けられないからです。しかし、そろそろこうした問題に目を向けるべき時です。麻薬問題も、元兵士が苦痛を和らげるために用いることに原因のひとつがあります。人間の弱さに目を向けないと、戦争は解決できないのです。現代には、その障害が多すぎます。


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