米軍内部に関する問題が何件か報じられています。米軍について考える上で興味深い記事なので、いくつかの記事をまとめて取り上げます。
military.comによると、米陸軍のティモシー・ヘネス二等軍曹(Master Sgt. Timothy Hennis)が1985年に、キャスリン・イーストバーグ(Kathryn Eastburn)と彼女の2人の子供を殺害した件で、死刑を宣告されました。判決は自動的に上訴されました。ヘネスの州裁判所での一審で有罪になりましたが、控訴して二審では無罪となりました。再び彼を裁判にかけることができないので、ヘネスのDNAが事件と結びつけられた後で、検察官は事件を陸軍裁判所へ持ち込みました。ヘネスは除隊しましたが、裁判のために強制的に軍務に戻されました。この5年間で、フォート・ブラッグ基地で死刑を宣告されたのは、これで2回目です(2005年4月、ハサン・アキバ三等軍曹(Sgt. Hasan Akbar)が友軍への銃撃と手榴弾攻撃のために死刑を宣告され上訴中)。死刑を宣告される兵士はカンザス州、フォート・レヴェンワース基地の米国教化隊(the U.S. Disciplinary Barracks)へ送られます。ヘネスの死刑は致死量の薬物を注射して行われ、執行には大統領の承認が必要です。最後の処刑は1961年に行われました。ヘネスは3人の死体が発見される数日前にイーストバーグの犬をもらい受けました。イーストバーンの夫(ゲイリー)は、その時、空軍の飛行中隊将校訓練学校にいました。二審は一審での証拠が不十分だったために、州最高裁によって行われ、二審ではヘネスが殺人が起きた時に現場の家の中にいたことを証明できなかったので無罪になりました。軍事裁判では、イーストバーグの身体から得られた膣スワブ上の精液がヘネスのDNAと一致し、精液が別の白人男性のものである確率は1京2,100兆分の1だと科学捜査分析官が証言しました。しかし、ヘネスの弁護士、フランク・スピンナー(Frank Spinner)は、ヘネスと結びつく、髪の毛、指紋、血がついたタオルなどの物的証拠が家の中から見つかっていないと主張しています。
これだけの情報からヘネス二等軍曹が有罪か無題かを判断するのは避けた方がよいでしょう。DNA鑑定が間違っていることがあるからです。髪の毛は特に現場に残りやすい証拠で、現場から見つかっていない点は気になります。犯罪報道は実際に集まっている証拠のごく一部しか報じていない場合がほとんどで、単純な事件以外は即断すべきではないのです。特に、テレビのワイドショー感覚で語るのは非常に危険です。一方で、軍人による性的暴行は、一般人の場合とおなじく珍しくないという事実もあります。士官候補生による強姦事件は、割とよく目にします。この事件は、米軍の裁判制度を知る資料のひとつとして、記憶に留めて置いて欲しいと思います。
military.comによれば、シアトル地区の米沿岸警備隊を指揮する、23年の隊歴を持つスーザン・E・エングルベール大佐(Capt. Suzanne E. Englebert)が指揮能力の欠如を理由に解任されました。第13管区の指揮官ゲイリー・T・ブロア少将(Rear Adm. Gary T. Blore)は解任の理由について「受け入れがたい指揮環境のため、この指揮官には、もはや有効な部隊を指揮すると私には信じられません。私はこの決定が部隊と沿岸警備隊にとって最も利益になるためになされたと確信します」。この地区の渉外担当者マーク・マッカデン中佐(Cmdr. Mark McCadden)は、「良好な指揮環境」とは、「上官と部下の開放的な意思疎通、年下の隊員への助言、同僚間の相互的な敬意があることだとしています。
また、海軍関係で指揮官が解任されたわけです。いずれも、指揮官の指揮能力や公私混同、横暴さが原因でした。今回の解任もその一種かと思わされます。米海軍・沿岸警備隊の将校は全員がこんな感じなのかと疑いたくなる話です。これは 日本周辺で海の仕事をしている方には、頭に入れておくべき情報です。米海軍指揮官の物の考え方を知っていれば、米海軍の艦船の近くに行った時に無用なトラブルを防げるかも知れません。
military.comによると、フォート・フッド基地で13人が死亡した銃撃事件の影響で、米軍は軍人の銃を軍施設で保管する広範な方法を検討しています。この事件で、犯人のニダル・ハサン少佐は2丁の銃を買って、基地へ持ち込みました。ロバート・ゲーツ国防長官が命じた臨時の武器指針は6月までに施行され、来年の初期までには恒久化されます。新方針では、現時点で一部の軍施設で行われている制限を反映する見込みです。たとえば、基地に持ち込む武器は憲兵隊に登録する必要があります。
武器を司る米陸軍としては、こんな制約は恥でしかありません。でも、実際に事件が起きた以上、必要な措置と言わざるを得ません。これは特に、志願した民間人が建国の礎となったアメリカ人にとっては屈辱的なはずです。自由意志を持つ市民が武装して戦うのがアメリカのよき伝統で、軍はその見本を示さなければならないからです。
military.comによれば、ペンデルトン基地の海兵隊員、ゲーリー・スタイン三等軍曹(Sgt. Gary Stein)は自分のフェイスブックを削除しました。スタイン三等軍曹は、上官から国防総省の政治活動に関する指令を再考するよう求められました。彼は3週間前にフェイスブック「Armed Forces Tea Party Patriots」上でオバマ大統領の健康保険政策を批判し、今週、MSNBCケーブルテレビのインタビューを受けることになったからです。スタイン軍曹は、上官から弁護士にこの問題について相談するよう言われました。同基地の広報官ガブリエル・チェイピン少佐(Maj. Gabrielle Chapin)は、海兵隊は彼を告発することを検討しておらず、単に彼が違反しないために規則に気がついていることを望んでいると言いました。国防総省の指令では、軍人は政治的な理由で投票を要請するためにいかなることも書いてはならず、政治的な集まりを発起してはならず、政治運動を促進するいかなる集会でも講演してはなりません。チェイピン少佐は「海兵隊員は海兵隊員を守ります(Marines take care of Marines.)。スタイン軍曹の上官は彼の活動が海兵隊がそのグループやメッセージを支持しているという体裁や印象を与えることを心配していました」と述べました。スタインの発言は、軍隊に最高司令官(大統領)の政策について発言権があるかどうかについて、フェイスブックのファンの間で400件以上の激しい議論を起こしました。元海兵隊の弁護士パトリック・キャラハン(Patrick Callahan)は、国防総省の指令は軍人が公的なプロセスを妨害しようとしたり、クーデターを計画することを防ぐことを狙っていると言います。「時、場所、方法に制限があります。たとえば、軍人は軍服を着て政治集会に行くことはできません」。彼はこう付け加えました。「私は政治家を軽蔑する発言をしたために軍が下級の軍人を追求するのを見たことがありません」
military.comによれば、その後、スタイン三等軍曹はフェイスブックを再開しました。彼のページは水曜日に再開され、木曜日までには500人のファンが集まり、ほとんどが彼を称賛しました。第1海兵遠征軍の広報官リース・A・エヴァンズ上級曹長(Master Gunnery Sgt. Rhys A. Evans)は、国防総省の指令に違反しない限り、スタイン軍曹がフェイスブックを管理し続けられると言いました。「我々はまったくスタイン軍曹を検閲しようとしていません。なによりも、さらに踏み込んだ行為を行って、何かの違反を犯さないようにするために、我々は彼が知らされたことを確認したいだけです」。エヴァンズ上級曹長は、スタイン軍曹がページを削除するように脅されたり、命じられたことはなく、捜査されたり、懲罰を受けることはないと言い、「海兵隊員は海兵隊員を守るということです」と述べました。
時間がないので、スタイン軍曹のページまでは確認していません。彼がどんな発言をしたのかは、この問題を考える上で重要ですが、そこまでは分かりません。以前に、懸賞論文で「日本は侵略者ではない」と主張したことが問題にされ、憲法上の「表現の自由」を持ち出して反論した自衛隊幹部がいました。私は自衛官が政府の方針を異なることを主張するのに「表現の自由」で対抗することに強い違和感を感じます。また、この事件のように海兵隊の下級隊員ならばともかくも、上級隊員が公的であれ、私的であれ、政府方針と著しく反することを主張するのは、公務員としての立場を忘れていると感じます。何でも自由に発言してよいはずだと考えている自衛官は、この事件をよく研究してみるべきです。そして、日本ではどんな規則が好ましいかも考えてみて欲しいと思います。私もそれを聞いてみたい気がします。