米軍の裁判に関する記事が2件あります。海軍特殊部隊シールズの虐待事件で、4人の被告の1人に無罪判決が出ました。
military.comによると、2004年にイラクのファルージャを攻撃する理由となった、4人の民間軍事会社の警備員殺害事件の犯人を殴打した件で、海軍特殊部隊シールズの隊員が無罪となりました。フリオ・ハータス1等海曹(Petty Officer 1st Class Julio Huertas)は職務怠慢に関して起訴されました。この判決は他の被告の裁判に影響するとみられます。6人の陪審員は2時間で評決に達しました。被告は懲戒処分だけを受ける可能性もありましたが、潔白を証明し、軍歴を守るために軍事裁判を望みました。虐待を訴えたイラク人、アーメド・ハシム・アーベッド(Ahmed Hashim Abed)は、バグダッドのビクトリー基地で、頭に袋をかけられ、椅子につながれた間、米兵に殴打されたと証言しました。囚人の取り扱いと輸送のために配属されたケビン・ディマーティノ3等海曹(Petty Officer 3rd Class Kevin DeMartino)は、シールズ隊員1人が囚人の腹を殴り、囚人が口から血を吐くのを目撃したと証言しました。ディマーティノ3等海曹は、その時、ハータスと別のシールズ隊員が狭い拘留部屋の中にいたと付け加えました。弁護団は、殴打されたあとで撮影されたアーベッドの写真では、唇の内側を切ったのが見えるだけで、痣や傷がどこにもないと主張しました。弁護人は、ディマーティノ3等海曹の証言とその他の海軍の目撃者との証言が一致しないことを指摘し、陪審員にアーベッドのテロ容疑を思い出させ、米兵への非難を再燃させるためにアベッドが自分自身を傷つけたかも知れないと主張しました。検察官は、殺害された民間軍事会社の警備員2人が元シールズ隊員であったため、被告たちはアーベッドに復讐したがっていたと主張しました。
記事には裁判にかけられるのはシールズ隊員3人と書かれていますが、説明があるのはハータス1等海曹ともう1人の氏名不詳のシールズ隊員だけです。こうした裁判では、最も重要な被告の裁判を先に行い、そこで出た証拠が残りの裁判でも使われます。今回、無罪判決が出たことで、残りの裁判が無罪になる可能性が高まりました。多分、3人目のシールズ隊員がいるとすれば、アーベッドを連行してきて、事件当時、室内にいなかった者がいるのでしょう。この記事は事件のごく一部しか説明していないので、早計に判断すべきではありませんが、口からの出血に関する証言に疑問を感じます。腹を殴って胃壁が損傷して出血し、その血が食堂を逆流して口から出るとは考えにくいのです。おそらく、何度も猛烈な力で殴らない限り、こうした状況は生じないでしょう。殴れた時に口を家具や壁などにぶつけ、唇が切れて血が出ることはありそうです。多分、この辺の証言の弱さが無罪判決に影響したのだと考えられます。
military.comによると、クウェートの2ヶ所の米軍基地で食堂施設を監督した米陸軍のレイ・スコット・チェース軍曹(Ray Scott Chase)が、民間契約者から140万ドルの心づけを受け取っていたことで有罪を認めました。チェース軍曹は、2002〜2003年にクウェートのドーハ基地(Camp Doha)とアリファン基地(Camp Arifjan)で食物の入手、準備、供給に従事しました。また、米陸軍が様々な民間業者と行った、特定の毛布の購入契約の命令を調整しました。彼は「Tamimi Global Company Limited」「LaNouvelle General Trading and Contracting Corporation」などの会社から約140万ドルを受け取ったことを認めました。検察官は軍曹がお返しに何を提供したかについては特定しませんでした。判決は8月6日に出され、最大禁固5年の刑罰が科されます。また、彼は賄賂で得た金に関するすべての資産が没収されることに同意しました。
この事件で異常なのは、チェース軍曹が受け取った金額が極めて高額であることです。米軍関係の事件で、こんなに高額な賄賂は聞いたことがありません。明らかに、軍曹から業者へ何らかの利益供与があったはずですが、なぜか検察官はそれを明らかにしていません。また、チェースの階級は「軍曹」としか書かれていません。普通、これは軍曹の最も下位の「三等軍曹」を表す単語です(英語では軍曹から曹長までの総称としても使われます)。この階級にそれほど大きな決裁権が与えられているとは考えにくく、多分、この事件にはさらに何か背後があると考えます。それが何かは分かりませんが、上層部の誰かが関わっている可能性があります。今後、この事件で別の裁判が行われる可能性もあります。もし、下級の隊員に巨大な決裁権を与えて、上官が何の管理もしていなかったのなら、その上官の管理責任も問われるべきです。かつて、米軍で毛布の受注に関して不良品が大量納入され、国防長官が引責辞任したという話を聞いたことがあります。この種の汚職は戦争にはつきものです。戦争では特需が発生し、それを受注した業者に多額の利益をもたらします。民間企業にとって、どうしても欲しい契約であり、そのためには手段を選ばない売り込み合戦が展開されるのです。そこで、米軍では納品される品物の品質を厳重に管理し、仕様を満たしている物にだけ気前よく金を払い、前線での物資調達に支障が出ないようにしています。つまり、十分な報酬を、早急に業者に支払うのです。こうした環境では、汚職も起こりやすいのです。