米軍によるジャーナリスト殺害疑惑が再燃

2010.4.7


 2007年7月12日に、イラクのバグダッドで米陸軍のアパッチヘリコプターが、ロイター通信社の社員2人を含む人々を機関砲で殺害した事件がありました。military.comによれば、内部告発情報サイト「Wikileaks」に、アパッチヘリコプターが撮影した事件の映像がアップロードされました。(フルバージョンの映像はこちら

 「Wikileaks」はこの映像を「巻き添え殺人(Collateral Murder)」と呼び、負傷したロイター社員と彼を助けた者に対するいわれのない殺人を明確に示していると主張しました。7月19日の調査は、米兵は適正に行動しており、ロイター社員は武装勢力の中に混ざっていて、彼らの装備品が理由で識別は難しかったとしました。調査報告書は「武装勢力はしばしば、友軍の活動や武装勢力が友軍を攻撃するビデオ映像や写真を、彼らの能力を育てたり強調するために、訓練用のビデオやプロパガンダに使用する目的で撮影することは注目に値します」と結論しました。オンラインで入手できる宣誓供述書(兵士などを特定できないように編集済み)は、兵士は第227航空連隊に配属されており、友軍の支援のために呼ばれて、市内の武装勢力からの攻撃を受けたと言います。ヘリコプターのチームは地上にAK-47を持った男多数を目撃し、1人はRPGを持っていたように見えました。「Wikileaks」によると、RPGはロイターのカメラマンナミ・ノーリ・エルデーン(Nami Noor-Eldeen)が持ったカメラでした。兵士は調査官に事件後、彼らはエルデーンが、ある時点で建物の背後にかがみ、通りをくだって活動中の米軍に対して何かの狙いをつけたように見えたので、武装勢力と疑ったと語りました。兵士はエルデーンが立ち上がり、方向を変えて、数名の男たちに向かって歩き始めると発砲しました。この攻撃で、ロイター通信の運転手サイード・チマグ(Saeed Chmagh)も殺しました。2人は米軍が建物を攻撃するのを取材するためにその場にいました。

 現在、イラクのジャーナリスト連合代表のモウヤッド・アル・ラミ(Mouyyad al-Lami)はビデオ映像を犯罪の証拠と呼び、政府に発砲を調査するように要請しています。ロイター通信はこのビデオは社員が死んだのを特定できないけど、カメラを肩に担いだ男が殺されたように見えると言います。攻撃から2週間以内に、軍当局者はロイター通信の編集者に、この事件のビデオ映像を見せましたが、コピーは渡しませんでした。ロイター通信は自身の調査の一環としてビデオ映像を要望しましたが、陸軍は渡しませんでした。「Wikileaks」は「ロイター通信は事件後に情報公開法を使ってビデオ映像を手に入れようとしましたが、失敗に終わりました」と述べています。米軍中央軍広報官は、陸軍がロイター通信が情報公開法で要求したビデオ映像を公表していないことを認めました。ジャック・ハンズリック海軍大佐(Navy Capt. Jack Hanzlik)は中央軍は「Wikileaks」が公表したビデオ映像を調査中で、それが疑いなく本物であるとか、細工されているとかを言うことはできないと言いました。「我々は(ビデオ映像の)正確な出所を知りません…今日、映像を編集する方法は沢山あります」とハンズリック大佐は語りました。「Wikileaks」が公表したビデオ映像は、1ダースほどの死体が地上に散乱しているのを写しています。負傷した男性1人が這って逃げようとしていて、兵士が「頼むぜ、相棒…お前がやらなくちゃいけないのは武器を手にすることだ」というのが聞こえます。ビデオ映像はバンが現場にやってきて、ロイター通信社の社員が助けられるのを写しています。ビデオ映像の声はバンに発砲する許可を求めており、許可が下りると、機関銃を撃って、車内の全員を殺すのを写しています。兵士は供述で、バンは兵器と負傷者を回収していたと述べました。陸軍の調査の一環で兵士を尋問した中佐は、ビデオ映像は男性が負傷した男を非武装のバンへ運んでいるのを写していると指摘しました。

 一部の記者は、現場から発見された怪我をした子供2人はバンの乗員だったと主張しました。地上軍が到着したとき、ビデオ映像は車両から子供が運ばれ、米兵が子供を地元の病院へ運ぶべきだと言っているのを写しています。「戦場に子供を連れてきたのは彼らの間違いだ」とコックピットの声が言うのが聞こえます。

 ワシントンの上級防衛研究センター(the Center for Advanced Defense Studies)で教える、現在は予備役のトニー・シェーファー陸軍中佐(Lt. Col. Tony Shaffer)は、4月5日にMSNBCのディラン・ラティガン・ショー(Dylan Ratigan show)で放送されたビデオ映像の一部を見て、彼が見た物に基づくと、交戦規定に違反するように見えると言いました。「最も重要なのは、バンが負傷者を連れ去ろうとしているのを見たとき、降伏したり、病気や負傷により戦闘から外れた者は誰でも狙ったり、攻撃できないということです。だから、明らかに人が倒れていて、人がそこへ行こうとしていることを懸念します。」と述べました。上級の軍当局者は、バンへの発砲は陸軍の調査で完全に解明されていないことを認めました。

 上に掲載した映像はmilitary.comの短縮バージョンです。フルバージョンのビデオは「Wikileaks」(無線交信の字幕付き)で見られます。

 まず第1に、このビデオが本物かどうかを検証しなければなりません。しかし、本物を手に入れることはできないので、ビデオ映像を見たところで判断するしかありません。見た目には、後から付け加えられた映像や何かを消去したような痕跡は見えませんが、確定はできません。分からないように修正することは可能です。ここではビデオ映像が本物だと考えることにします。アップロードされた映像は不鮮明な部分もあり、状況を確認しきれません。オリジナルはもっと鮮明なのかもしれません。

 エルデーンとチマグが肩から下げていたのはカメラだったわけですが、それを兵士が武器だと報告しているのが確認できます。 彼らの後方に見える4人のうち2人が長い物体を手にしているのが確認できます。多分、それは銃でしょうが、はっきりとは分かりません。この時、兵士は5〜6人がAK-47を持っていると報告しています。誰かが曲がり角で何か構えて前方を見ており、それを兵士はRPGだと報告しています。私には、この映像ではRPGだと確信はできません。エルデーンがカメラを構えていたのが見えた可能性があり、記事もその解釈を採用しています。この状況でロイター通信の記者が攻撃されたとしても、それは好ましいことではありませんが、やむを得ない部分があります。問題はその後です。地面を這うサイードは明らかに負傷しており、兵士もそれは認識しています。兵士はサイードを攻撃したがり、上官から攻撃の許可をもらいます。武器を回収しようとしているところは見えず、兵士は武器が見えたら攻撃すると言っています。また、バンは人を回収しようとしているとは言いますが、武器を回収しようとしているとは言いません。しかし、いつの間にか武器と人を回収しようとしているという認識に変わったようで、発砲の許可が出ます。これは戦場でありがちな誤認です。何度も「撃たせてくれ」という兵士がいて、それが上官の判断を誤らせた可能性もあります。 このように主観的な報告しかしない部下は、上官が発言を禁じるべきです。

 陸軍の調査報告書の結論は明らかな誤りです。2人はロイター通信との契約の下で働いていたのであり、武装勢力の宣伝係ではありませんでした。全文と見ないと完全な評価はできないものの、調査が不適切だった可能性もあるように思えます。

 ジャーナリストは紛争当事者両方の側で取材することがあり、記者が武装勢力と共にいたとしても、中立の立場を維持する限り、おかしくはありません。また、この事件を見ても、遠目にはカメラが武器に見えるという問題があります。カメラを白く着色すると、少しは識別しやすくなるかも知れません。


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