キルギス共和国の米空軍基地閉鎖に関して、各報道機関の見解が異なっており、興味深い内容となっています。
先に紹介したmilitary.comの記事は米軍の機関紙であるスターズ・アンド・ストライプス紙(Stars and Stripes)からの引用です。毎日新聞はロイター通信社の見解を引用し、この動乱にロシアが関与していると報じました。重要な論拠は、野党勢力の指導者の一人テケバエフ氏が述べた「(ロシアが)バキエフ大統領の追放にロシアが役割を果たした」「(大統領の追放を)ロシアが喜んでいる」「米軍の駐留期間が短くなる可能性が高い」などの言葉です。また、米露首脳会談のためプラハにいるロシア高官が「キルギスにはロシア軍基地だけがあればよい。バキエフ(大統領)は米軍基地を排除する約束を守らなかった」と述べたとしています。産経新聞は同国にロシアが自国のカント空軍基地にいる自国民を保護する名目で、空挺部隊150人を派遣したと報じています。
ロシアが動乱の背後にいてもおかしくはありませんが、マナス基地を完全に閉鎖するようなことになれば、アメリカとロシアの関係は一気に冷え込むことになります。マナス空軍基地なくして、アフガン増派と撤退は完遂し得ません。ロシアが派遣した150人の空挺部隊では、空港を厳重に警備するくらいしかできません。三交代とすれば一度に警備につくのは50人、二交代では75人です。これが既にいる警備隊と共に動乱が起きている国の空港周辺で不穏な動きを警戒し、基地を防衛するのは、特に不自然ではありません。この部隊は自動火器を搭載した装甲車などを持ってきており、暴徒が大挙して押し寄せた場合、群衆に向けて発砲し、一気に蹴散らす役目を負っていると推測できます。プラハでロシア高官が述べた言葉も具体的に何を意味するのかは不明です。「キルギスにはロシア軍基地だけがあればよい」という言葉は、酒の席で口が滑った程度の話にも聞こえます。ロシアの男性は大言壮語する者が多いので、この言葉がどういう状況で出たのかを確認しないと何とも言えません。
ここでロシアがマナス空軍基地を完全に閉鎖するように新政府に圧力をかけた場合、アメリカのアフガニスタン戦略は根底から覆ることになり、対テロ戦に関しては堅く手を握り合う現在の大国同士の戦略とは相反します。アメリカはロシアが悩むアフガン産の大麻対策に協力しなくなるでしょうし、ソチ・オリンピックを控えるロシアに、ソチの間近にあるグルジア共和国に対するロシアの武力介入を蒸し返して圧力をかけることもできます。中央アジア諸国でのイスラム武装勢力の拡大、ソマリア沖の海賊対策など、アメリカとロシアは協調関係を維持した方がよい事柄が山積しています。現在、大国同士は対テロ戦で歩調を合わせる振りをする一方で、自国の利益拡大を考えています。アフガンから米軍とNATOが撤退すれば、マナス空軍基地は必要性を減らし、最終的には撤去されるわけですから、ここで無理に閉鎖して、他の分野での協力関係まで失うのが、ロシアの国益にかなうとは思えません。