パキスタンのタリバンをテロ指定すべきか?

2010.5.13


 military.comによれば、タイムズスクエア爆破未遂事件のあとで、アメリカはパキスタンのタリバンをテロリズム組織のブラックリストに載せるかどうかを検討しています。

 国務省による指定は、テリク・エ・タリバン・パキスタン(Tehreek-e-Taliban Pakistan)のアメリカ資産を凍結し、アメリカ人がこの組織に資金を与えたり、援助するのを禁止し、組織のメンバーがアメリカに入国するのを禁止します。国務省広報官フィリップ・クローリー(Philip Crowley)は「我々が通過する意図的に慎重なプロセスがあります。指定されるどんなグループも非常に特別な法律の条件を満たさなければなりません」「(失敗した)タイムズスクエア爆弾事件によって、それは浮き彫りになりました。これが我々が実際に考慮していることです」と記者に言いました。彼は事件の調査がタリバンをブラックリストに加えるかどうかをはっきりさせるかも知れないと言いました。上院議員のグループは、パキスタンのタリバンをブラックリストに加えることを要求しました。ニューヨーク州選出のチャック・シューマー上院議員(Sen. Chuck Schumer)は「このグループは海外で戦っている我々の兵士だけでなく、家にいるアメリカ人にも現実の脅威をもたらします」「我々が使えるすべてのツールで彼らと戦う時です」と言いました。シューマー上院議員は、4人の仲間の民主党上院議員と共に、クリントン国務長官に、テリク・エ・タリバンをブラックリストに載せるように求める手紙を書きました。政権はパキスタンとの関係を考慮することもあって躊躇しました。パキスタンでは反米主義が広まっており、パキスタン政府は自分の力でタリバンと戦うことに傾倒しています。シューマー上院議員は、2001年の同時多発テロの前にアルカイダを保護した強固な体制の残存者であるアフガニスタンのタリバンは、海外で活発であるようには見えないと言いました。「パキスタンのタリバンは別のストーリーです」「我々の国土への攻撃によって、彼らはアメリカの市民に宣戦布告しました。我々は適切に対応しなければなりません」とシューマーは言いました。アメリカは、2008年のムンバイ籠城事件を立案指揮したラシュカー・イ・タイバ(Lashkar-e-Taiba)をブラックリストに記載しています。他には、パレスチナのイスラム教徒グループ・ハマス(Hamas)、レバノンのシーア派の運動ヒズボラ(Hezbollah)、アイルランド共和国軍(the Real Irish Republican Army)とスリランカのタミル・イーラム解放の虎(Tamil Tigers)がテロ組織に指定されています。クローリーは、国務省がいつパキスタン・タリバンをブラックリストに載せることを検討し始めるかを、正確には言いませんでした。「それは我々がここしばらく、関心を寄せてきたグループですが、タイムズスクエア爆破未遂事件を踏まえると、私はそれは我々が間近に見ている重要なものだと思います」。

 現段階で、テリク・エ・タリバン・パキスタンをテロ指定すべきではないと、私は考えます。調査が進行中であることもありますが、彼らが事件を実行したとしても、計画があまりにも稚拙で、恐れるに値しないような内容だからです。

 爆弾は、プロパンガスボンベ3個、ガソリン携行缶(約19リットル入り)2個、花火、時限装置でした。おそらく、時限装置によって花火に点火し、それによってガソリンを爆発させ、その熱によってガスボンベを起爆する仕掛けだと想像できます。これはいかにも確実性のない装置で、普通、テロ組織が使う手法ではありません。花火が無事にガソリンに点火するかどうかも不明ですし、実際、この過程の途中で発見されたはずです。さらにガソリンがガスボンベを爆発させるかどうかも不明です。熱が十分でも爆発する前に消防隊が火を消してしまうと失敗に終わります。これに比べると、自爆ベストの方が数段洗練されています。

 すでに一度、アメリカはアルカイダの挑発に乗ってイラクに乗り込んで失敗しています。こうしたテロ組織の挑発に一々反応していれば、敵は増えていくばかりで、いずれソマリアの海賊もテロ指定することになります。シューマー上院議員らの判断は最悪の選択です。これはブッシュ政権が宣伝した「世界はより安全になった」という主張が間違いであることを世界に認識させることになります。確かに、世界はまったく安全になっていませんが、敵の攻撃によってそれを追認するような形には、できる限りすべきではありません。

 当面、テロ指定にはせず、FBIの捜査を強化することで対応するのが相当でしょう。しかし、オバマ政権も国内の圧力を無視することはできません。「本土が攻撃されたのに、黙っているのか」という声は、アメリカでは受け入れられやすいことだからです。敵を小さく評価することで優位に立つという考え方は通りにくいでしょう。

 まずは事件の捜査結果をよく検討し、その上でテロ指定を検討するのが大事です。

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