military.comが、タイムズスクエア爆破未遂事件の容疑者に関する記事を報じました。簡単にまとめて紹介します。
空軍将校を父に持ち、特権的な生活を送ったファイサル・シャザッド(Faisal Shahzad)とおなじく、容疑者6人はすべて都市部のエリートでした。
サルマン・アシュラフ・カーン(Salman Ashraf Khan)
ハニフ・ラジプット・ケータリング・サービス(Hanif Rajput Catering Service)の共同所有者。他の2人の容疑者がこの会社が料理を配送する外国人の集まりを爆破するのを手伝って欲しいと頼まれて徴用されました。カーンはこの地域でのアメリカの政策に異議を持っていたものの、国に対する憎しみはなかったと、彼の父親ラーナー・アシュラフ・カーン(Rana Ashraf Khan)が言いました。カーンの父親は、息子は4年間、アメリカの学生として幸福に暮らしたビジネスマンであり、告発に当惑していると言いました。カーンはフロリダでホテル経営、ヒューストンでコンピュータサイエンスを学び、2001年に家業を継ぐためにパキスタンに戻りました。「このようにビジネスに深く関わる者が、野生動物だけが考えるような活動に及ぶことができるでしょう?」「彼は、我々が過去10〜11年間、この地域で続いてきたことに何であれ、異議を持っていたかも知れません。我々はすべて異議を持っているのです」「(しかし、彼は)アメリカには何の感情も抱いていませんでした。彼はそこで幸せに暮らし、そこで学びました」と父親は語りました。サルマンは5月10日に事務所に現れず、家族は行方不明だと彷徨しました。隣人の警備員はサルマンが出勤した1時間後に、男がカーン家の前でサルマンの車から降り、数名と共にタクシーで急いで去るのを見たと、父は言いました。ハニフ・ラジプット・ケータリング・サービスは、外国大使館とパキスタンの裕福な企業や個人に人気があります。米大使館は、この会社がテログループと関係が疑われるため、米外交官が利用するのを禁じました。
元パキスタン陸軍少佐(氏名不詳)
陸軍司令部があるラワルピンジ出身。軍広報官は軍の関係者は逮捕されておらず、退役少佐だけが懲戒処分で逮捕され、調査されていると言います。パキスタン軍は過去に、アフガンスタントカシミールのイスラム武装勢力を支援しているため、このつながりは注目に値します。軍にいる間にシャザッドとの関係が進行中だったかどうかは不明です。
タイムズスクエア事件の容疑者像が少しずつ明らかになってきました。報じられたことは、これまでも知られるテロリストのイメージから特に逸脱していません。比較的、裕福で教育も高い者がテロリストになる可能性は非常に高いのです。
さらに、イエメンのイスラム聖職者アンワル・アル・アウラキ(Anwar al-Awlaqi)は、基地で銃を乱射したハサン少佐を称賛し、米軍に勤めるすべてのイスラム教徒に彼に続くよう求める声明を出したとmilitary.comが報じています。アウラキはデトロイト行きの航空機を爆破しようとしたウマール・ファルーク・アブドゥルムタラブ(Umar Farouk Abdulmutallab)も称賛しました。
対テロ戦は、アメリカ国内の対立を直接誘う方向へ展開しました。ベトナム戦争時に起きた反戦運動は、ソ連の工作によって扇動されない、自発的な運動でした。第二次世界大戦時に、日経米人が収容所に入れられたのは、彼らがスパイ活動や破壊活動をすると考えられたからです。日本政府は国籍を変えた日本人移民に対しても、日本に対する忠誠を求めました。なにより、日本人の文化はアメリカを建国した人たちとはかなり違っていたので、こうした人種偏見的な措置が容認されたのです。現在の対テロ戦はこれに近い状況になっています。実際、アメリカはテロ容疑者と無関係なのに容疑者と疑われた人たちを収容所に入れました。日系人が収容所で拷問された話は聞きませんから、対テロ戦は第二次大戦時以上にアメリカの人権意識が低下していると言えます。また、これほど露骨に敵対勢力が米国内に対して、反旗を翻すことを要請する戦いは珍しいことです。第二次大戦時にも、米国内の第五列の活動が懸念されましたが、実際には大勢に影響を与えるような活動はありませんでした。ところが、対テロ戦では、自発的なテロリスト志願者が、心理的な打撃を与え得る攻撃を行っています。軍事的には戦いの流れを変えるようなものではなくても、ハサン少佐のように、米陸軍の基幹基地の中で乱射事件を行うといった、象徴的な事件として記憶されるテロを引き起こすのです。タイムズスクエア事件も、これに類する事件と言えます。
アルカイダが始めた戦いには、アメリカ人を怒らせ、戦いの中に引っ張り込むやり方が使われています。単純素朴なブッシュ政権は、それに引っかかってしまいました。アメリカは、2001年の段階で、敵と同じ方法を敵に対して用いる戦略を採用すべきだったのかも知れません。いまは、彼らが選んだ方法でやられっぱなしです。折しも到来したインターネット時代は、これらの記事に象徴されるような一匹狼型テロリストをもっと増やすはずです。特に、サルマンは攻撃対象に食事を提供する会社の御曹司で、現場に出入りしても怪しまれない人物だったとは、まるで映画や小説の筋書きを見るようです。こういう見えにくいテロリストが一定の数まで増えると、治安当局には対処できない状況になります。これが最も心配される状況です。なぜなら、「武力を目標に対して集中する」という軍事的な手法では解決できないからです。最終的には、政治的手法で「世界的な和解の流れ」を作るしか方法はありません。和解は敗者が求めるものという風潮の中で、これを実現するのは容易ではありません。また、そのための戦略は従来型とは著しく異なり、果たして現在の政治環境に合致するかどうかも不明です。