天安事件が普天間問題へ影響?

2010.5.25


 military.comが天安事件に関する政治面での動きを報じています。一つの記事はヒラリー・クリントン国務長官の動きを報じています。この記事から、アルカイダやイラク・アフガニスタン問題を抱えるアメリカは、事態の拡大を望んでいないことを示しているように思えます。また、別の記事は鳩山総理の方針転換に事件が影響しているという見方を伝えています。

 military.comによれば、クリントン国務長官は記者に「我々は交戦と挑発の拡大を防ぐために動いています」「これは北朝鮮がこの地域で引き起こした非常に不安定な状況です」と語りました。また、アメリカが何をするかについては述べませんでしたが、オバマ大統領が米軍指揮官に北朝鮮からのさらなる武力侵略に対して準備し、阻止することを確実にするよう命じました。李明博大統領は、北朝鮮に外交的、経済的に反撃するために、貧窮化した体制に対して、すべての貿易を取りやめると言いました。また、天安沈没に関して国連安保理に制裁を求めることも明言しました。ホワイトハウスとクリントン国務長官は、李大統領の動きを強く支持すると言いました。国連で拒否権を持つ中国の支持を得ることは重要ですが、中国は相変わらず中立のままです。

 後半は大幅に省略しましたが、要するに中国はアメリカが共同歩調をとるように求めているのに対して消極的な答えしか返していません。相変わらず、中国は北朝鮮を守りたいようです。アメリカもアルカイダを相手にしながら北朝鮮と本格的な戦争をすることは望んでいません。韓国も本格的な戦争となれば、国土への甚大な被害を免れず、それは韓国経済に深刻な打撃を与えます。しかし、北朝鮮はそれを理解し、それを利用してテロ攻撃を仕掛けてくるのです。そこで、テロ攻撃が割に合わないことを理解させるために経済制裁が必要になります。ところが、そのためには中国の協力が必要です。そこで、クリントン国務長官が北京まで行って、彼らを説得しているわけです。一方で、military.comによると、米国防総省広報官ブライアン・ホイットマンが、時期は特定しませんでしたが、近い将来に韓米合同演習を行うと発表しました。この演習は潜水艦を撃退したり、違法な活動を監視して、妨害する能力をテストします。地上部隊を動員する演習だと緊張を激化させる恐れがありますが、北朝鮮による小規模な武力行使に対する対応をテーマとした演習なら効果が期待できるというわけです。ここにも必要以上に緊張を激化させたくないアメリカの意図が表れています。

 military.comは、朝鮮半島で高まる緊張が鳩山由紀夫首相に選挙公約を破らせ、海兵隊基地を沖縄に置くことを示唆させたと報じました。アナリストは、中国軍の増強も関係したかも知れないと言います。東京を訪れたクリントン国務長官に同行している米政府当局者は、北朝鮮が犯人とされる3月の天安撃沈が沖縄への米軍駐留の重要性を日本の当局者に理解させたと言いました。中国軍の増強も鳩山総理の考えを変える要因となったかも知れません。この決定は、鳩山総理が数週間後、数ヶ月後に支持率の低下による辞任をもたらすかも知れません。「天安の撃沈は疑いの余地がありませんが、おそらくより重要な1ヶ月以内に中国が2回領海侵犯をしたことが、彼によい政治的な口実を与え…普天間問題の早期解決を見出すことが日本の国家利益になることを明らかにしたのです」と、シドニーに拠点を置くシンクタンク「レービ研究所(the Lowy Institute」)のマルコム・クック(Malcolm Cook)は言いました。「それは道程を避け続けることができない差し迫った問題であることも示しました」。本当の理由がどうであれ、最近の出来事は鳩山総理が日本国民に論拠を述べるのを簡単にします。鳩山総理は、最近の出来事が彼の考察で役割を果たしたとほのめかしました。「朝鮮半島とアジアでの最近の状況を考えるとき、私は日米の信頼関係を揺るぎないものにすることが最も重要だと考えます。これが私が決定を下した理由です」。上智大学の野孝一教授は「それは激しい反対を生じる非常に難しくて、ほとんど実行不可能なこと」「アメリカ人でさえ、それを理解すると思う」と言いました。一部の専門家は、鳩山総理が7月に開催される参議院選挙の間、その座に留まると考えています。彼は民主党が選挙に負けるか、おそらくは9月にありそうな民主党の党首選挙のあとで辞任するかも知れません。党首選挙ワシントンに拠点を置く「外交問題評議会(the Council on Foreign Relations)」のシーラ・スミス(Sheila Smith)は「彼の時代は非常に限られています。私はそのシナリオ以降も彼が日本の指導者であるとは考えません」と言いました。アメリカと日本、韓国が先週末に北朝鮮による天安撃沈に対してとった方法は、普天間に関する議論が50年来の日米軍事同盟を麻痺させなかったと、スミスは言いました。「先週のグッドニュースは、それが重要なとき、この関係が危機を管理する側に集中できるということです」。

 最もまずい状況になった、と私は考えます。

 鳩山さんは自覚していないでしょうが、その発言は沖縄の人々を激高させるはずです。目の前で起きた無関係な出来事を理由に普天間問題を決着しようとしているからです。先の解説で述べたように、北朝鮮の潜水艦は日本にとって脅威にならないのです。沖縄の海兵隊は北朝鮮の潜水艦を攻撃する能力は持ちません。中国の領海侵犯も大した話ではありませんし、海兵隊にはこれを撃退する能力はありません。この程度の理由を根拠に、沖縄に海兵隊が必要と主張することはできません。鳩山総理の発言は、米政府関係者に安堵をもたらしたことでしょう。これで普天間問題は先へ進める見通しが立ったのです。海兵隊は北朝鮮にキスしたいでしょう。しかし、アメリカは事態が極めてまずい方向へ動いたことを理解していません。アメリカの専門家たちは、単に問題が簡単になったっと喜んでいるだけです。沖縄側は普天間問題をこのまま終わらせるつもりはありません。それは海兵隊基地の撤退が実現するまで続くかも知れませんし、海兵隊以外の米軍基地も追い出す運動へ発展しかねないと見るべきです。鳩山さんはそうしたことを意図していませんが、最悪の決断を行い、それを自覚していません。繰り返しますが、アメリカもそれに気がついていないことが問題です。

 今後、メディアも政府寄りに転じるはずです。もちろん、沖縄の人たちが気の毒という姿勢は残しますが、基本的には全体主義的発想を優先させます。北朝鮮や中国の脅威は日本全体の問題だから、沖縄の人の意見ばかり聞いていられないという考え方です。この場合、これは非常にまずい考え方です。多数が少数を犠牲にすることになりますし、沖縄の人たちのより強い反発を招きます。

 2009年4月に北朝鮮がテポドン2号を発射したとき、当時の自民党国防部会はその恐怖感を利用して、巡航ミサイルの導入を党に提出しました。テポドン2号を防ぐのに巡航ミサイルは役に立ちません。このように、過去の日本の防衛問題の多くは、偽の脅威を利用する詐欺のようなものでした。民主党政権になったとき、私は北沢防衛大臣にメールを送り、こういうことをなくしてほしいと要請しました。しかし、歴史は繰り返されました。政府は偽の脅威論を持ち出して国民を納得させようとしているのです。この根本には悪意や野心よりは軍事的無知があるということが、国民を絶望的にさせます。

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