依然として全面戦争を宣言した北朝鮮には大した動きはなく、朝鮮半島の情勢は信じられないほど静かです。中央日報の「北、停戦協定破り対空砲をDMZ搬入」という記事には、北朝鮮の動きがいくつか書かれていますが、いずれも通常通りとは言えないまでも、全面戦争の準備とは思えません。
- 鉄原(チョルウォン)近隣の北朝鮮側GP 14.5mm防空重機関銃4丁を持つ対空砲を持ち込む。
- 漣川(ヨンチョン)近隣の中部戦線 砲兵夜間火力誘導訓練を実施。
- 休戦ライン付近の哨所の下段に設置していた銃眼(銃器射撃のための穴)を開閉。
- 遮湖(チャホ)海軍基地 出航して行方不明だった潜水艦4隻の内、2隻が帰港。
- 京畿道坡州(パジュ)付近 未確認飛行体が確認され、戦闘機が緊急発進したが、低速でやがて消失したことから鳥の群れだったと推測された。
14.5mm対空砲は韓国軍が復活すると宣言している宣伝放送に使うスピーカーを破壊するために使うのでしょう。あるいは「破壊するぞ」という態度を見せるためだけに持ってきたのでしょう。この記事で残念なのは持ち込まれた対空砲の数が書かれていないことです。それも状況を判断するために重要な材料となります。14,5mm機関銃1丁でも、スピーカー24個を連結した巨大な装置を破壊するには十分な威力がありますが、それを連結した対空砲を使うところに、北朝鮮の焦りがあります。朝鮮日報によると、このスピーカー装置は10〜12km先まで音声を聞かせ、夜間には24km先まで届くといいます。軍事境界線は南北それぞれ2kmですから、この放送は北朝鮮の領内10km程度には軽く届くのです。宣伝放送が復活すると、国民の士気が著しく萎えると北朝鮮が考えているわけで、慌てて機関砲を移動したのは、彼らの弱気を示す材料です。強力すぎる兵器でスピーカーを粉微塵にして、国民に宣伝したいのです。
砲兵夜間火力誘導訓練は、韓国領内が見える場所まで前進観測員が潜入し、暗視ゴーグルで韓国軍の防衛拠点を確認し、無線機で砲兵部隊に座標を知らせる訓練です。この無線交信を米韓軍に傍受させ、いつでも攻撃できるという態度を示すのが目的です。いかにも侵攻を考えているかのように見せかけるつもりでしょうが、これだけでは全面戦争がはじまるとは思えません。銃眼の開閉も同じです。あまりにもナイーブな対応です。
東海岸の基地から出航したサンオ型潜水艦は2隻が戻りました。通常の航行・戦闘訓練だったのでしょう。事件後、韓国海軍は海上警戒を続けていますから、こういうことも記事になるみたいです。日常的に、北朝鮮軍の艦艇は動いているわけで、この程度の動きなら特別ではありません。
また、米韓軍がようやく監視態勢「WATCHCON」を1引き揚げ、5段階の上から2番目に設定したと報じられましたが、防衛態勢「DEFCON」が変更されたという報道はありません。北朝鮮は、これからまいた種を刈り取る活動、つまり支援を得るための恫喝外交に入るつもりでしょうが、韓米は一致して応じないでしょう。韓国政府は、天安事件で完全に方針を変えました。
次の段階として、北朝鮮が何をするかが問題です。天安事件と同様の軍事テロは無理です。攻撃の発進地を攻撃すると韓国が宣言した以上、海軍にしろ空軍にしろ、何かやればたちまち発進地を突き止められ、空爆などの攻撃を受けます。そして、これは北朝鮮の防空能力の低さを世界中に暴露するのです。北朝鮮は韓米軍に勝てないという評価を世界にまき散らしますし、北朝鮮軍の兵器の能力の低さも露呈します。
北朝鮮の意欲のバロメーターを測るのは、開城工業地帯にいる約800人の韓国人を人質に取るかどうかです。現在、南北間の交通は切断されており、800人は自力では帰国できませんが、人質ではありません。北朝鮮が彼らを帰さないと宣言すれば、この紛争は一気に緊迫感を増します。すでに、こうした事態に対して米軍は非公式に大規模な攻撃を検討していることを明らかにしており、それは北朝鮮としては避けなければなりません。同時に、北朝鮮としては、800人は格好の交渉材料です。また、帰国を許すと、このまま開城工業地帯が事実上の閉鎖となる危険もあります。北朝鮮としては、ここは絶対に手放したくないわけですから、判断はかなりむずかしいものになります。