ロシアが北朝鮮関与の完全な証拠を要求

2010.5.28


 spacewar.comによれば、ロシアは北朝鮮が天安を撃沈したことを示す100%の証明を受け取らない限り、北朝鮮を罰する努力を支援しないと主張しました。

 ロシア外務省広報官、イゴール・ライアキン・フローロフ(Igor Lyakin-Frolov)は「我々はコルベット撃沈の北朝鮮の役割の100%の証明を受け取る必要があります」「我々の専門家が現在、調査の資料を研究しているところです。我々は何が起こったのかについて我々自身の結論を出す必要があります。すべては状況と証拠の量次第です」と述べました。このコメントはロシアが専門家の一団を韓国に派遣したと発表した翌日に出されました。ロシア海軍筋は、ロシアが調査団に含められていないことに不満を抱いており、「ロシアの専門家の参加で、事件調査の結果は、より完全に、客観的になったかも知れません」と述べました。

 これはロシアが反対するための口実を探しているのではなく、調査結果次第で協力を惜しまないことの表明をしていると考えるべきです。ロシアは単に報告書を読むだけでなく、専門家を派遣して、証拠である天安を調査させ、間違いなく北朝鮮製の魚雷による被害かを特定したいのです。ロシアと北朝鮮にはかつてのような協力関係はありません。調査結果に納得さえすれば、北朝鮮を批判する側に回ると考えてよいでしょう。問題は中国です。中国政府が韓国寄りの態度を見せていることは確認できていますが、北朝鮮の崩壊を招くような制裁に同意するかどうかは疑問です。

 同じページの記事に、開城(ケソン)工業地区で働いている北朝鮮人労働者は約42,000人、工場の数は110ヶ所と書かれています。工場は韓国が経営しているので、彼らの協力なしに、工場は稼働しません。北朝鮮人労働者の給料は韓国政府が北朝鮮政府に支払い、そこから先はどこへ行っているかは分からないのですが、とにかく、これがなくなるわけです。その他の韓国、アメリカ、日本による独自制裁。国連による経済制裁が加わると、今度こそ北朝鮮は干上がることになります。これまで韓国がためらってきたことを、北朝鮮は自ら招致してしまったわけです。最悪の場合、開城から韓国人を帰国させ、工場の施設を世界に切り売りして現金に換えるという非生産的な話になる可能性もあります。

 ところで、フローロフ広報官のコメント中で、「コルベット」と述べています。これは天安の艦種のことです。国内報道では天安の艦種は「哨戒艇」とされています。海軍マニアは、この呼称は誤りだと言いたいでしょうが、そう断定する必要はありません。「哨戒艇」は沿岸でパトロールを任務とする艦の名称で、そのサイズは、ボートと呼びたくなるような小型船から海上保安庁の巡視船まで様々です。「コルベット」は主に船の排水量から決まる艦種です。globalsecurity.orgでは「天安」を「哨戒戦闘コルベット(Patrol Combat Corvette: PCC)」と、両方が混在する形の名称で紹介しています(記事はこちら)。哨戒艇と書くとどれくらいのサイズかが分からないという問題はありますが、間違いとはいえません。毎度のことですが、軍事用語の定義は曖昧です。兵器の分類は国によって違い、艦種の定義も厳密な国際基準はありません。さらに訳語が不完全な場合が多いという問題もあります。たとえば、「cruiser」には「巡洋艦」という定訳がありますが、「corvette」は「コルベット」というカタカナ表記しかありません。「コルベット艦」と書くこともありますが、これは誤記だと主張する人たちもいます。訳語も不完全なのです。よって、あまり細かく議論しても、特に意味のないことなので、当サイトでは報道に合わせて哨戒艇と書いています。

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