研究報告:パキスタン情報部がタリバンと関係

2010.6.15

 military.comによれば、パキスタンの中心的な情報機関が、タリバンに武器提供と訓練を続けており、アメリカの圧力にも関わらず、このグループの指導者評議会に代表と大金を送っていると、研究報告は結論づけました。

 米当局者は過去に、統合情報局(Inter-Services Intelligence agency: ISI)が、タリバンを批判する2001年の政府の決定にも関わらず、彼らとの接触を維持していると示唆しました。日曜日にロンドンスクール・オブ・エコノミクス(the London School of Economics)が発表した報告書(pdf版はこちら)は、タリバンへの援助はISIの公式な方針で、パキスタン政府の最高レベルにすら及ぶという最も重大な実例を提供しました。

 「このスケールでの裏表のある行動へのパキスタンの目に見える関与は、重要な地政学的意味合いを持ち、アメリカの対抗政策すら引き起こし得ます」と報告書はいいます。この報告書は、タリバン指揮官、元タリバン当局者、西欧の外交官などへのインタビューに基づいています。「パキスタンの行動が変化しない限り、国際軍とアフガン政府が武装勢力に対して進展を見ることは困難か、あるいは不可能かも知れません」と、報告書の著者でハーバード大学・ジョン・F・ケネディ行政大学院のマット・ウォールドマン(Matt Waldman)は書いています。

 パキスタン軍のアタル・アザル・アッバス少将(Maj. Gen. Athar Abbas)は報告書を「ばかげている(rubbish)」として否定しました。「過去に、この手の根拠のない、証拠立てられていない主張が表面化しましたが、我々は認めませんでした」。少将はISIが国内で武装勢力と戦って、多くの犠牲を出してきたことを指摘しました。しかし、パキスタン軍の活動は、アフガニスタンでNATO軍と戦うアフガンのタリバンではなく、同国内で攻撃を行うパキスタン人のタリバンに焦点があてられています。パキスタン軍はアフガン人のタリバンが隠れ家として使っている国内の地域に対する攻勢を求めるアメリカの圧力に、アメリカによる軍民への何億ドルもの支援に関係なく、抵抗してきました。

 多くのアナリストは、NATO軍が撤退した後で大敵インドのアフガンへの影響力に対抗するためにタリバンは最良の仲間なので、パキスタンがアフガン人のタリバンに対抗するのを渋っていると見ています。報告書は「インタビューはパキスタンは、資金、弾薬、補給品など、広範な支援を武装勢力に与え続けていることを示唆しています」「ISIは、武装勢力の訓練基地と制度がアフガンで戦うことを活発に奨励する多数の(イスラム学校)を認可して支援し続けています」と書いています。パキスタンの支援は、パキスタンのクウェッタ市に拠点を置くと考えられているムラー・モハンマド・オマール師(Mullah Mohammad Omar)が指揮するアフガン人のタリバンと、タリバンと同盟していますが、ほとんど独立して活動しているハッカニ・ネットワーク(Haqqani network)の両方につながっています」。ハッカニ・ネットワークはパキスタンとの国境にある北ワジキスタンに拠点を置きます。パキスタンの情報機関は、両方のグループをかなり支配しており、クウェッタ・シューラ(the Quetta shura)」として知られるタリバンの指導者評議会に代表者すら置いていると、報告書は言います。「インタビューはISIがシューラに、参加者かオブサーバーとして代表者を置いており、このために情報機関は運動の最高レベルに関与しているということを強く示唆します」。

 報告書で最も驚く主張のひとつは、パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領(President Asif Ali Zardari)とISIの高官が、この春に同国内の秘密の刑務所に拘束される約50人の高位のタリバン戦士を訪問し、彼らにアメリカの圧力で逮捕しただけだと述べたことです。大統領の訪問から3日後に釈放された一人であるタリバンのメンバーによれば、ザルダリ大統領は、彼らが釈放され、パキスタンは彼らの活動を支援すると述べました。大統領広報官ファラナッツ・イスファーニ(Farahnaz Ispahani)は、「ウォールドマン氏が熟練した研究者なら、彼の報告書なるもののバランスを取るために、パキスタンでインタビューを行っただろう」と言って報告書の主張を否定しました。ほとんどのインタビューはアフガンで行われたようですが、研究者はクウェッタで少なくとも3人の武装勢力と話しました。「国際的な同盟が、パキスタンを盟友や「有効なパートナー」とみなしつづけるのは困難です。しかし、パキスタンの振る舞いに対する攻撃的なアメリカの対応は、さらなる不安定を、特に陸軍のパキスタン人の武装グループとの進行中の戦いに生み出し、国民の反米感情を拡散するだけです」と報告書は書いています。


 報告書の原本はpdfファイルで提供されているので、読むことができます。時間を見つけて目を通そうと思いますが、記事に書かれているだけでも、かなりの衝撃です。この実態は、主軸をパキスタンのアルカイダに移すというオバマ大統領の政策と正面からぶつかります。いよいよ対テロ政策は行き詰まったという印象です。

 アメリカがパキスタンで攻撃的な軍事活動に出れば、パキスタン人の中にアルカイダに加わる者が出るかも知れません。しかし、ほっておけば、タリバンがアルカイダを匿う形が続きます。タリバンにはパキスタン政府と対立するグループもあり、組織の実態はあまりにも複雑です。ちょっと言葉が出てきません。

 やはりすでに時間切れなのかという気がします。2001年にブッシュ政権が正しく問題に対処していれば、状況が変わったかという疑問が再燃します。


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