military.comに
よれば、オバマ大統領などを批判したスタンリー・マクリスタル大将(Gen. Stanley
McChrystal)が辞任しました。
オバマ大統領はホワイトハウス内のローズ・ガーデンで、デビッド・ペトラエス大将(Gen. David
Petraeus)を後任に指名すると発表しました。記事は、これを中央軍(CENTCOM)の指揮からISAFを引き継ぐための異動という降格みたいなもので、例外的だ
と評しています。「私はこの決定をマクリスタル大将との政策の相違に基づいて決定しませんでした。我々は(アフガニ
スタンの)戦略において完全に合意しています」「(マクリスタル大将は)常にとても礼儀正しく、私の命令を忠実に実
行しました」とオバマ大統領は述べました。しかし、オバマ大統領は「軍隊の指揮系統の厳密な順守」がマクリスタルの
解任を必要としたと述べました。マクリスタル大将はオバマ大統領が発表したときにはホワイトハウスにはおらず、声明
で「任務の成功をみることを望む」という理由で辞職したと述べました。「私は大統領のアフガン戦略を強く支持しま
す」。大統領と大将の会議は約30分間行われ、会議の一部では2人だけで話しました。陸軍特殊作戦軍で軍歴を開始し
たウェストポイント士官学校卒のマクリスタル大将は、政権の内外の多くの人から、アフガンの対武装勢力活動を導く完
璧な指揮官とみなされていました。
この記事には、やれやれという徒労感しかありませんね。マクリスタル大将は、米軍の中ではアフガン戦を指揮する
のに適した資質を持つ人だと思っていました。状況から見て、辞任ではなく事実上の解任です。この大事なときに、現地
の最高指揮官がくだらない発言が理由で解任されるとは最悪です。しかし、シビリアン・コントロールの観点からは大統
領の判断は正当です。似たような状況で「表現の自由」を叫んだどこかの空軍指揮官もいましたが、少なくともマクリス
タル大将は、こうした発言が周囲に悪影響を与えることを知っており、誤りを認めることで、最後の名誉は守ったようで
す。
湾岸戦争の時、空軍参謀総長のマイケル・J・デューガン大将が似た間違いをやりました。彼はサウジアラビアに向
かう飛行機の中で記者を相手に10時間もしゃべりまくったのです。近くには5人の将官がいました。統合参謀本部議長
だったコリン・パウエルは、それが危険で愚かな高位であることは下級広報担当官だって知っていると感じたと、ボブ・
ウッドワードが「司令官たち」に書いています。
以下に、「Rolling Stone」誌の記事を読んだ感想を追加します(記事はこ
ちら)。
先に、デューガン空軍参謀総長の事例を示しましたが、マクリスタル大将もまったく同じ間違いをしたようです。
記事は、マクリスタル大将がNATO軍に自分の戦略を説明するためにパリのホテルに滞在中、執務中に記者を同室
させ、大将が部下に軽口を叩くところまで見せています。この状況は、デューガン参謀総長の場合よりも危険です。公務
中とはいえ、私的な感覚で口にしたことが公にされるからです。特に、こうした職業の人たちは、緊張を解くために軽口
を叩くことがありますが、これは部外者にはとんでもない会話に聞こえるものです。そんなことくらいマクリスタル大将
は分かっていると、私は信じていましたが、記者が録音していると知っている環境で、大将はお気楽すぎる会話をやった
のです。しかも、記事の問題点は、国内報道では報じられていない部分の方が大きいと私は感じました。それらは前半部
分に書かれています(後半部分は、マクリスタル大将の経歴やアフガン戦への取り組みを解説)。ここでは、それらを取
り上げます。
記事はマクリスタル大将がフランス政府関係者と夕食をとる日の模様から描いています。マクリスタル大将は、パリ
のような街は嫌いで、高級ディナーも苦手なようです。記者の前で、マクリスタル大将は副官のチャーリー・フリン大佐
(Col. Charlie Flynn)と、次のような会話をやってみせます。
大将「どうやって俺はこのディナーに突っ込まれたんだ?」
副官「ディナーは、お立場につきものです」
大将「(中指を立てて)おい、チャーリー。こいつも、つき
ものか?」
これは、平素から大将が部下に中指を立てるゼスチャーをしていることを暗示します。
大将は他にもこんなことを言っています。
「ディナーに行くよりも、ここにいる人たちにケツを蹴られている方がいいな」
「残念ながら、ここにはそれをできそうなのはいないな」
また、記者が大将の側近にディナーの出席者を尋ねたら、側近が「フランスの大臣が何人か」
「ゲイ野郎です」と答えています。これでは、マクリスタル大将が公務を拒絶し、
彼の部下たちが外国の要人をバカにしているようにしか見えません。いくらジョークでも言ってよいことと悪いことがあ
り、それも昔からアメリカと相性がよい国であるフランスの大臣を、日頃から小馬鹿にしていることが分かったわけで
す。しかも、米軍がオバマ政権の主導で同性愛差別撤廃に向けて動いている最中に、この発言は考えられません。
日本国内の報道では、大統領の他、バイデン副大統領やアイケンベリー特使、ホルブルック大使がマクリスタル大将
の批判の矛先となったとされていますが、記事にはアフガンのカルザイ大統領も対象だと書いてあります。たとえば、2
月にマルジャ戦がはじまる前、大将は大統領宮殿へ赴き、カルザイ大統領からマルジャ攻勢について承認をもらおうとし
ましたが、大統領の側近たちは、大統領は風邪で寝ているので起こせない、と言いました。この部分は記者が書いた形に
なっていますが、マクリスタルが話したことをまとめたものと推定できます。
オバマ大統領が怒った理由が分かりました。私が大統領の立場でも解任するでしょうし、辞職の形をとるような温情
は与えないかも知れません。マクリスタル大将を推薦したゲーツ国防長官は面子を失ったことでしょうし、同性愛差別撤
廃を指導中のマレン統合参謀本部議長も失望したことでしょう。マクリスタル大将は、対テロ戦がはじまってから、最も
まともな発言をしたと私が考えた指揮官でした。その彼がこのレベルでは、もはや米軍にはこの戦争を戦い抜く指揮官は
いないのかも知れません。
アメリカの高級将校は、優れたハイテク兵器を導入し、戦場でイニシャティブをとることを夢見ています。戦果をあ
げて国民から感謝されるか、新兵器の導入で武器産業界から感謝されるか、どちらかで評価されたいのが、彼らの夢で
す。私の目から見ると、彼らは手っ取り早く英雄になりたがるのです。ところが、アフガン戦は非効率的な作戦を繰り返
すしかない戦いで、それが彼らに短気を起こさせるようです。イラクやアフガンに侵攻して、国家を民主的なものに変え
て、テロリズムを根絶するというアイデア自体が、初手からとほうもない代物なのです。ちょっとうまく行かないくらい
で、「信じられないな。アメリカじゃ、こんなことはあり得ないゼ」というようでは、作戦を成功させようがありませ
ん。「耐え難きを耐える」覚悟がないと指揮官は務まりません。マクリスタル大将は荷物をまとめて帰国するしかありま
せん。後任は、先日、米議会で脱水症状を起こして倒れたペトラエス大将です。