しばらく報道が沈静化していた天安事件に関して続報が出たので、日曜日にも更新します。military.comによれば、韓国の哨戒艇「天安(チョンアン)」が沈んだのと同じ日、米軍当局者が、現場から75マイル(120km)離れた場所で、米韓が共同の対潜水艦演習を行っていたことを認めました。
記事から気になる部分だけを抽出しました。
軍当局者によれば、天安は演習には参加しておらず、係争水域の近くで通常のパトロールを行っていました。演習は北朝鮮の潜水艇を探知できませんでした。沿岸の浅瀬では、近くにいる船ですら小型潜水艇を探知するのはかなり困難です。シンクタンク「GlobalSecurity」の代表ジョン・パイク(John Pike)は、「浅瀬の小型潜水艇を見つけるのは非常に困難」だと言います。130トンの小型潜水艇が、9〜10倍大きな戦闘艦を予告なしに倒したことは、専門家を驚かせました。米国平和研究所の韓国専門家ジョン・パーク(John Park)は「我々にとって、ステルスは兵器に何億ドルもの研究開発費を注ぎ込んだ最新技術を意味します」「ステルスの北朝鮮バージョンは最新の探知手法を回避する旧式のディーゼル・バッテリー駆動の潜水艇です」。
韓国は北朝鮮の仕業と結論しましたが、西側の専門家は白翎島(ベンニョントウ)沖で、その夜に正確に何が起きたのかについて、依然として疑問が残ると言います。ある米政府当局者は個人的に、沈没がまったく意図的な攻撃ではなく、勝手に行動した指揮官の行為、事故、演習がうまく行かなかった可能性があると言いました。この当局者は事件を公的に議論する権限を与えられなかったので、匿名を希望しました。それは北朝鮮の説明を支持することになるだろうと当局者は言いましたが、平壌はいまのところ否定し、憤激しただけでした。
米韓軍は北朝鮮の潜水艦が水上で活動するときは容易に動きをモニターできます。水中では潜水艦を追跡するにはアクティブ式またはパッシブ式のソナーに頼ります。パッシブソナーは潜水艦の行動する音を聞くのにマイクロフォンを使います。アクティブソナーは音を発し、水中の物体に反響するエコーを聞きます。在韓国連軍報道官によると、天安は当時、アクティブソナーを稼働させていました。なぜ天安が潜水艇を探知できなかったのかは明らかではありません。爆発の後、韓国軍指揮官は潜水艦を探すために哨戒艇を派遣しました。しかし、おそらくは天候、潮流、寒い3月の夜間という悪条件のため、艦船は何も見つけられませんでした。これらの要素は、浅瀬の岩礁や岩棚と同様にソナーの信頼性に影響を及ぼしうると専門家は言います。ソナー技術は伝統的に深水域で動くように作られていて、沿岸防御よりも船団の防護のために使われてきました。「深い海で大きな潜水艦に対してよく機能する装備は沢山ありますが、浅瀬で小型の潜水艦に対してはよく機能しません」とパイクは言いました。「我々は同じ懸念をイランとペルシャ湾に対して持っています」。
天安が沈没する前の夜間、2隻の米軍駆逐艦とその他の艦船が標的役を演じる韓国軍の潜水艦を追跡していました。在韓米軍広報官によれば、この米艦対潜水艦演習は3月25日の午後10時に始まり、翌日の午後9時に終わりました。演習は天安の爆発のために終了されました。潜水艦演習は、朝鮮半島で別の大きな戦争が起きたときのために戦力を維持するための「Key Resolve」「Foal Eagle」とよばれる米韓の年次軍事演習の一環でした。「Key Resolve」はその月の早くに始まった11日間のコンピュータシミュレーションでした。「Foal Eagle」は中旬から後に続き、米海兵隊による実弾演習、空爆演習、対潜水艦戦演習の他、市街戦やその他の訓練を含みました。
色々なことを考えさせられる記事ですが、ごく一部に絞って考えてみます。
記事中の米軍当局者の、意図的な攻撃でないという私見は無視して構いません。この人は事件を詳しく知らないのではないかと思われます。事故なら、天安から火薬成分は検出されません。間違って味方に魚雷を撃たれたのなら、船のどれかから魚雷が1発なくなっているはずです。
事件時、米韓軍が演習を行っていたことは報じられていましたが、今回の記事はその詳細を説明しています。
米韓軍がいた演習海域は正確には分かりませんが、仁川よりも少し南の西方沖合と想像できます。現場海域から120km離れたところで、北朝鮮の潜水艦を探知する可能性は常にあります。もちろん、探知できない可能性もあります。ソナーは環境によって探知能力が大きく異なりますし、その能力は秘密にされているので、実際にどの程度かは正確に分からないのです。最新式のソナーを積んでいる潜水艦でも北朝鮮の小型潜水艇を探知できなかったとしてもおかしくはありません。
演習を行っていた艦船はパッシブソナーを使っていたはずですが、天安はアクティブソナーを使っており、それでもごく近くにいる潜水艇を探知できませんでした。これは非常に恐るべきことです。ローテクでも、小型潜水艦なら最新式のソナーをかいくぐれることが証明されたのです。小型なのでソナーの探知音を反響しにくく、騒音も小さいので、パッシブソナーでも探知しにくいのです。見事なローテクによる問題解決法です。
海上自衛隊で潜水艦の艦長を務めた中村秀樹氏によれば、最近の潜水艦は探知が非常に難しい上に、魚雷はほとんど探知できず、命中するまでは分かりません。もし、分かったとしても至近距離まで来たときだといいます。130トンの潜水艇が探知できないのですから、もっと小さな魚雷が探知できないのは不思議ではありません。1発で護衛艦程度なら轟沈、大型の空母でも航行不能になるといいます。
どうやら、映画や小説で描かれているような潜水艦戦は現実的ではないらしいということは分かりますが、実際どうなのかは部外者には分かりません。想像できるのは、戦争になれば双方の艦艇が活動し、お互いに自分に「見えている」敵を攻撃し合い、最初の戦闘結果を出すということです。残った艦艇が次の戦闘を行い、これを繰り返して、先に手持ちの艦船がなくなった方が負けということです。結果は神のみぞ知るということになりますが、単純にいえば、船を沢山持っている方がより有利です。それで北朝鮮はせっせと小型潜水艇を造っているわけです。しかし、米韓軍には優勢な航空戦力がありますから、開戦と同時に北朝鮮の海軍基地を破壊し、ディーゼル潜水艦のメンテナンスをできなくするでしょう。こうなると、北朝鮮の潜水艦隊が活動できるのは、ごく初期のうちだけということになります。反対に、北朝鮮の航空戦力が韓国の港湾を攻撃できる可能性はほとんどなく、命中率の悪い弾道ミサイルで博打をするしかありません。つまり、北朝鮮にとって、手持ちの潜水艦を出動させて、米韓軍を先制攻撃するのは不利で、「北進してくるなら、潜水艦で迎撃するぞ」とすごんでいる方が得策ということになります。今回の事件は、こういう北朝鮮軍の能力をデモンストレーションするのに非常に効果がありました。
海の防衛網が簡単に破られることを立証された韓国は、小型潜水艇を探知する方法を至急、実現する必要があります。韓国政府はその方針でいますが、どれだけの効果が見込めるのかは不明です。水中マイク網を構築すれば問題は解決するのでしょうか?。米海軍が実現しているように、イルカやアシカといった海洋哺乳類に侵入者を教えてもらう方法まで検討されるかも知れません。(関連記事はこちら)