イエメン政府がアウラキの引渡しを拒否

2010.6.9
追加 同日 11:40

 military.comによると、イエメン当局者は、国の法律が市民の引き渡しを禁止しているので、イスラム聖職者アンワル・アル・アウラキ(Anwar al-Awlaki)をアメリカに引き渡さないと言いました。

 急進的なイエメン系アメリカ人のアウラキは、2004年以降、イエメンに隠れていると信じられています。アウラキはアメリカの市民権を持っていますが、CIAは暗殺のリストに入れています。イエメンのアルカイダは、先月、アメリカ人の殺害を求めるアウラキのビデオを公表しました。また、彼はフォート・フッドの銃撃事件、タイムズスクエア爆破未遂事件、クリスマスに起きた旅客機の爆破未遂事件を含む、最近の米国での攻撃を鼓吹するのを助けたと考えられています。イスラム指導省大臣ハモウド・アル・ヒタル(Islamic Affairs Minister Hamoud al-Hitar)は、イエメンはアウラキが出頭するのを奨励しますが、イエメンの拘留下にある時はアメリカに引き渡されないだろうと言いました。「政府が回避できない憲法と法律があります」とヒタルは言いました。しかし、アメリカがアウラキとアルカイダの結びつきを示す証拠をイエメンの司法機構に示せば、それが可能になるとも言いました。月曜日、米国務省はイエメン当局が12人のアメリカ人を逮捕したと言いました。広報官は詳細を示しませんでしたが、逮捕はアメリカとイエメンの共同テロ防止作戦に関係があるかも知れません。ニューメキシコ生まれでイエメンに在住するアウラキに対するアメリカの懸念は、彼が流ちょうな英語を使い、アメリカ文化を深く理解し、アメリカ国内や西欧諸国で若いイスラム教徒に暴力的な聖戦の哲学を説くことにあります。先月のアメリカ人を殺すよう求める45分間のビデオがあるにも関わらず、アウラキの部族は、彼がアルカイダとつながっていることを否定しています。


 日本の憲法第9条と同じで、どの国にも曲げられない法の原則があります。イエメン政府がアウラキを引き渡さないのは当然でしょう。また、CIAが暗殺リストに入れていることで、ややこしい問題も起こります。イエメン側としては、アウラキが裁判なしに殺害されると考える合理的な理由となるからです。裁判を経て処罰が行われる場合でも、犯罪者引き渡し条約の内容によっては、政治犯を除外したり、死刑が予想される場合は犯罪者引き渡しを拒否できる場合もあります。アメリカとイエメン間の犯罪者引き渡し条約の有無、条約が存在する場合はその内容を知る必要があります。おそらく、ヒタル大臣はその話をしているのです。

 アルカイダが公表するビデオで、テロ攻撃を奨励していることは、アウラキがアルカイダのメンバーである証拠だと言うことは可能です。アルカイダは聖職者のご意見を頂いているだけで、アウラキはテロ事件の実行に一切関係がないと、イエメン政府は言いたいのでしょう。これはサダム・フセイン政権の情報大臣ムハンマド・サイード・アル=サハフが、イラク侵攻時にマスコミに度々出演し、イラクの顔を務めたにも関わらず、軍事作戦には何の関係もなかったので指名手配もされなかったのと同じです。戦後、サハフはイラク国民にリンチされるのを恐れて出頭しましたが、米軍は手配していないことを理由に逮捕せず、保護すらしようとしませんでした。こういう立場は、オウム真理教の上祐史浩とも似ているかも知れません。彼はオウム真理教の顔を務めましたが、重大事件には関係しておらず、逮捕理由もテロとは関係がありませんでした。

 アルカイダの方がプロパガンダにおいては巧みです。インターネットで急進派聖職者が語るだけで、テロ志願者が集まるのです。米政府が本腰でプロパガンダに力を入れれば、アメリカへの敵意を減らすために相当なことができるはずです。しかし、米政府はそういう手法を選択せず、常にアルカイダの後塵を拝しています。この事実をアメリカ人は認識するのも嫌なのでしょうか?

 それから、12人のアメリカ人がイエメンで逮捕された理由が非常に気になります。彼らはテロ志願者だったのでしょうか?。先日の2人だけでなく、他にも大勢のテロ志願者がイエメンに入国しているのなら、極めて危険な状態だと考えます。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.