金賢姫元工作員来日は無意味か?

2010.7.25


 金賢姫元工作員の訪日に関して様々な意見が報じられています。私は彼女の訪日には感慨深いものを感じました。ヘリコプター遊覧などに対する批判も、その効果を考えると、取るに足らないものと考えます。

 大韓航空機爆破事件を、今回の訪日で知った人たちは、まず金賢姫の回顧録など、当時を知るための資料を読んでみるべきだと考えます。ある女性タレントがテレビ番組で、金賢姫が拉致被害者の田口八重子さんの息子、飯塚耕一郎さんに「私を韓国の母親だと読んでほしい」と言ったことに違和感を感じたと述べていたのを見て、事件の風化を感じました。韓国人は親しい年上の女性を「お母さん」と呼ぶ習慣があります。金賢姫は、自白後、取り調べにあたった女性捜査官を「お姉さん」と呼んでいました。また、金賢姫は田口八重子さんを「忘れられない女性」というほど親近感を持っていました。当時の資料に目を通していれば、金賢姫が日本に来て、拉致被害者の家族に会いたいと考えるのは、ごく自然なことだと感じるのです。

 海外でVIP待遇と評されたのは、まず第三者的な立場からの評価だと考えます。日本としては、韓国から預かった金賢姫の安全に万全を期すのは当然です。万一何かがあれば、韓国政府に対する責任を全うできません。鳩山元総理の別荘を利用したのは、むしろ政治が警察に警備を丸投げせず、積極的に関与したことを思わせ、むしろ納得できることです。移動にヘリコプターを用いるのも、警備上、ごく自然なことです。その際に、遊覧した点は、当初、旅行が主目的のように報じられたので、私も驚きました。しかし、そのためだけに飛行したのではない点で、特に問題とすべきではないと考えるようになりました。爆破事件被害者の家族からは、なぜ犯人を総理の別荘に滞在させるくらいなら、被害者の家族にそうすべきだという意見すら出るかも知れません。しかし、VIP待遇ではないのは、ここで豪華な晩餐会などが開かれておらず、拉致被害者家族以外に招かれた人がいないことを説明して、理解を求めるしかありません。

 あるテレビ局のアナウンサーは「鳩山元総理との会談はないのか?」と発言しました。しかし、旅客機を爆破して大勢を殺害し、恩赦されたとはいえ、死刑判決を受けた者に元総理が面会する必要はありません。それをやっていたら、私は弁護の余地はないと考えたでしょう。金賢姫の待遇はVIP扱いのためではなく、警備のためと考えるべきです。

 今回の訪日で、拉致被害者に対して新しい情報はほとんど出なかったわけですが、日本政府の事件に対する姿勢を、北朝鮮やその他の外国に示すためには、十分な効果がありました。この話は北朝鮮にも噂として伝わるでしょう。韓国の拉致被害者家族会「拉北者家族会」から「信頼のおける北朝鮮の情報部員から、田口さんは現在、平壌(ピョンヤン)市内の万景台(マンギョンデ)区域にある某アパートに住んでいるという話を聞いた」という報道が、サーチナから出ています。こうした情報提供を誘発させるには、今回の訪日は効果があったと考えます。北朝鮮政府に対しては、日本が事件を忘れていないことを再認識させられます。日本が実行可能な範囲で、この訪日は大きな効果があったと、私は考えます。


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