「心理作戦」という術語が変更に

2010.7.3


 military.comによれば、米陸軍はベトナム戦争時代の「心理作戦(psychological operations)」という名称が脅迫的であることを認め、変更することになりました。米国防総省はより中立的な「軍事情報支援作戦(Military Information Support Operations: MISO)」を採用しました。

 特殊作戦軍の広報官、ケン・マッグロー(Ken McGraw)は、新しい名称は先月採用され、敵兵や民間人に影響を与えるリーフレットやラジオ放送、大型スピーカーによるメッセージを製作する部隊の活動を、より正確に反映しています。「移行の促進剤のひとつは、任務の誤解へと導きがちな国外と国内の『心理作戦』という言葉への感性です」。1986〜88年に防衛長官の心理作戦の責任者だったアルフレッド・H・パドック.ジュニア退役大佐(Alfred H. Paddock, Jr.)は、この用語は常に説明するのが難しかったと言います。「これはいくぶん邪悪な響きを与えますが、私はこの重荷は克服されると思います」と、ラオスとベトナムで特殊部隊と共に3回の派遣を経験したパドックは言います。心理作戦は映画や本で長年気味悪く描写されてきました。2009年のジョージ・クルーニー主演「The Men Who Stare at Goats」はジョン・ランソン(Jon Ronson)のノンフィクション記事に基づく、超自然的な能力を持つスパイを養成する陸軍部隊の話です。本当の任務は遙かに飽き足りです。2003年のイラク侵攻では、心理作戦部隊はイラク人に降伏するよう訴えるリーフレットを散布しました。ベトナム戦争では、「the Open Arms Program」と呼ばれた心理作戦は元ベトコンのメンバーが書いた降伏を訴える文書をベトコン部隊に投下し、約200,000人のベトコン戦士を離脱させました。この名称変更は6月中旬にロバート・ゲーツ国防長官(Defense Secretary Robert Gates)とエリック・オルソン海軍大将(Adm. Eric Olson)により承認されました。パドックを含む心理作戦分野の多くの者は新名を嫌っています。「軍事情報支援作戦、MISOは舌から転がり出てくる言葉ではありません」「心理作戦の要員は彼らが何をしているかを説明するのがもっと難しくなります。彼らは、外国の目標とした相手の行為へ影響を与えるように設計されたプログラムとテーマを用いる能力を持っているのです」。


 というわけで、名称が変更になったことをお知らせします。日本人には「ミソ」は憶えやすい名称ですが、英語の「MISO」は余計に実態をイメージしにくい感じがします。最も、軍事用の略語は常に分かりにくい響きを持っています。

 これで何かが変わるわけではありませんが、旧名称を使い続けると恥をかくこともあるでしょう。軍事マニアはやたら用語にこだわるので、彼らとの会話では旧名称を用いない方がよいでしょう。もっとも、ハイテク兵器のない、ビラを撒くだけの作戦に彼らは興味がないかも知れません。

 名称を変えるような消極的な努力をするよりも、アルカイダのように広報誌を配布する方が、よりよい結果を生むでしょう。大勢のアフガン人に読ませるためには、活字の広報誌を大量に印刷して、イラクやアフガンで無料配布すべきです。アフガンではタリバンが回収し、持っている者を殺そうとするでしょう。しかし、日本でも、太平洋戦争中に米軍が撒いたビラは所持することが禁じられましたが、隠し持っていた人がいました。ビラなんかで敵の考えを変えられるかと思うでしょうが、実は効果的なのです。ビラに限らず、メディアは人を惹きつけ、相互理解を深めるものです。

 昨日報じられた、パキスタンのラホールにあるスーフィー教の聖地で42人を殺した自爆攻撃に関するmilitary.comの記事が、この重要性を示しています。このテロ事件で記者がインタビューした約2ダースのパキスタン人は、イスラム過激派が虐殺の背後にいるとしても、その根本的な要因はアフガンでのアメリカの戦争、パキスタンの部族地域でのミサイル攻撃、パキスタン政府との同盟だと言いました。

 カラチ市の自動車販売業者のカイザー・ハミード(Qaiser Hameed)は、この攻撃がアフガンでの状況とそこでのアメリカによる攻撃に直接結びついていると言います。「アフガンの利害関係者、特にアメリカの占領に対して抵抗している不満分子すべてと交渉の努力をすべきです」。この種のインタビューは他にも載っていますが、省略します。

 昨年の世論調査では、80%のパキスタン人が同国政府がアメリカに協力しないことを望んでいることを見出しました。

 陰謀説が信じられているパキスタンで最も有名なテレビホストの何人かは強い反米主義者です。政治および防衛アナリストのハサン・アスカリ・リズヴィ(Hasan-Askari Rizvi)は「アメリカがプロパガンダ戦争で勝てるとは思いません」「問題はパキスタンではとても根強いのです。それはこの国で過去30年間起こり続けてきたからです」と言いました。

 他は省略しますが、ここだけ読んでも、アメリカがいかにプロパガンダに力を入れていないかが分かります。なにしろ、アメリカが対テロ戦でパキスタンに協力を申し入れたとき、パキスタンの大統領は独裁者とみなされていたパルヴェーズ・ムシャラフでした。それが支援をちらつかせて、急に協力者になったのですから、パキスタン国民が支持しないのは当然です。同時多発テロが起きたとき、パキスタン国民の多くは、それがアメリカによる自作自演の陰謀だと考えました。こうした状況を強く認識して、具体的な対策を打っていく必要があります。


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