17日午後に、中国遼寧省の撫順県に北朝鮮軍のMiG-21が墜落した事件は、事故と考えた方が合理的です。
報道によると、墜落地点は瀋陽桃仙国際空港から約23度の方角で、距離は約27kmです。墜落機が離陸したのは北朝鮮・新義州の空軍基地とされています。
Google Earthで関係各所を確認すると、飛行ルートはいかにも亡命に適していません。ロシアに亡命するのがパイロットの目的ならば、中国を南から北へ横断する形になります。それよりは北東のウラジオストック方面へ約600km飛べば、ロシア領土に達します。他の方向だと1,000km以上飛ばないとロシア領土に達しません。なにより、ロシアよりは韓国へ逃げた方が確実です。コースによりますが、直線コースで300km、迂回コースで350〜400km足らずです。以前にも、韓国に着陸して亡命に成功した北朝鮮パイロットがいました。
新義州の空軍基地は複数あり、どこから離陸したのかは分かりません。墜落地点も正確には不明です。便宜上、新義市を起点として、桃仙国際空港まで直線を引いてみました。これで大体の飛行コースが分かります。
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黄色い線が新義市と桃仙空港をつなぐ線(地図は右クリックで拡大できます) |
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ロシアや韓国、日本を含む地図(地図は右クリックで拡大できます) |
この地図を見れば、亡命説にはかなりの無理があることが分かります。もっとも、パイロットが乱心して、おかしな判断をした可能性も否定できません。聯合ニュースは、元北朝鮮空軍部隊幹部の脱北者が、戦闘機訓練は燃料不足のため、燃料を3分の2ほど入れ、約30分飛べる状態で行うのが慣例だと話していると報じています。これでロシアまで無事に飛べるかは疑問です。
中国政府が発表していないだけで、中国軍のレーダーは事態をすべて明らかにしているはずです。無線交信は周辺国で傍受されているはずで、軍関係者は何が起きたかを知っています。しかし、情報収集能力を知られないために、こうした情報は詳しく公表されません。我々は公開情報から的確に状況を推測するしかないわけです。
もちろん、事故としても疑問は残ります。故障なら自軍の基地へ引き返すのが普通です。中国領空へ入ったのは、操縦系統が完全に故障したためかも知れません。中国政府が、こうした情報を公開してくれれば疑問は解消するでしょう。