戦争で病んだ人間と犬の治療

2010.8.5

 人間の外傷性脳損傷に関して、「高圧酸素療法(hyperbaric oxygen therapy: HBOT)」の導入が検討されています。もうひとつ、米軍の軍用犬にPTSDが発生しているという意外な問題が起きています。

 military.comによれば、患者を100%の純酸素に1〜2時間さらす「高圧酸素療法」が、大幅な回復につながることが注目されています。この治療は、通常3倍の気圧の高圧酸素チェンバーに入った患者が、100%の酸素を吸引します。治療期間は怪我の程度に応じて数ヶ月から1年以上です。高圧酸素の中で圧縮した酸素分子は、より容易に早く、脳を浮かせる脳脊髄液を含むすべての体液に入り込みます。酸素は通常、赤血球によってだけ体内を運ばれるので、高圧酸素治療は体内のすべての体液を酸素配送システムにします。米国防総省は高圧酸素療法を約300人の外傷性脳損傷の患者で研究する予定です。この研究は完了するまでに約18ヶ月かかります。米軍はすでにこの研究を行ったことがあり、結果はポジティブでした。

 military.comは、イラクに派遣され、爆弾探知や家宅捜索に参加し、様々な爆発を目撃したジーナという名前の2歳のシェパードは、コロラドに戻ったとき、ジーナはすくんで、恐がりになっていました。ハンドラーが建物の中にジーナを連れて行こうとすると、彼女は足を硬直させて抵抗します。建物中に入ると、彼女は尾を体の下に押し込み、床に沿ってこそこそと逃げます。また、彼女は人を避けるために、家具の下や角に隠れます。1年後、彼女は回復に向かっています。犬のPTSDは人間のPTSDとほとんど同じですが、一部の獣医は軍に勤務する男女を卑しめると考えて、犬をPTSDと診断することを嫌います。

 ジーナは陸軍部隊に配属され、兵士が家屋に入った後で爆発物を探す仕事をしました。兵士はしばしば、騒音を立ててめまいがする閃光手榴弾を使い、ドアを蹴破りました。ジーナは車列の別の車両がIEDで攻撃を受けることも体験しました。ピーター村基地に戻ったとき、ジーナは人と仕事をすることを望みませんでした。12年間、100匹以上の犬と作業をしたエリック・ヘインズ軍曹(Sgt. Eric Haynes)は、ジーナほどひどくはなくても、トラウマで苛立つ他の犬を見てきました。


 高圧酸素療法はサッカーのベッカム選手が怪我の治療で用いたことなどで知られます。日本でも、この治療器を導入している病院があります。なので、目新しい治療ではありません。現在はその効果が明確ではないので、今回の動きは、これを軍人病院の保険治療に使えるようにすることだと考えられます。軍人には経済的な負担なしに、効果のある治療を受けられることになります。精神的な問題に対する治療は、薬物治療の話題ばかりです。悪く言うと、麻薬で患者を黙らせるという印象でしたが、高圧酸素療法は身体的な怪我が相手で、悪い想像も浮かんできません。

 犬がノイローゼになることは知られているので、PTSDになっても不思議とは思いません。むしろ、この記事が長文なのが気になります。下手すると、人間の傷病に関する記事よりも長いのです。アメリカ人は犬が大好きで、犬は人類最良の友だと考えています。犬の誕生日パーティを催し、ハロウィンには犬の仮装用衣装も用意します。そのせいか、アメリカ文化の中では、犬が戦争に参加することは抵抗なく受け入れられています。人間が戦うのだから、犬が手伝うのは自然だというわけです。危険な戦場で犬を働かせることが動物虐待になるとは考えません。日本人が鯨を捕るのは気になっても、自分たちが犬を戦場で働かせることを問題だとは考えません。また、海軍基地の警備にイルカなどの海洋哺乳類を用い、侵入者を発見したら警報機を鳴らすように訓練することも疑問視しません。アメリカには様々な形の動物愛護団体が存在しますが、動物を戦争に使うなという活動は聞いたことがありません。それは存在するとしても、マイナーなのです。日本では航空自衛隊が基地の警備に犬を用いていますが、戦地に犬を持ち込む計画は聞いたことがありません。この点で、日本人は犬を大事に扱っていると、アメリカ人に自慢してよさそうです(笑)。

 犬の野生の能力に依存することは、犬に過度の負担をかける恐れがあると、私は考えます.犬の戦闘能力は自然の中で自分を守るためのものです。現代の戦闘は過度には激しいものとなり、自然界の戦闘とは負荷が桁違いに大きくなっています。それを犬に負担させるのは、私はやりすぎだと考えます。せいぜい、本土での基地警備に使うくらいで、戦地での勤務は動物愛護の観点から止めるべきだと考えるのです。

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