イラク復興予算の1割が消失

2010.9.1

 イラクでの戦闘任務終了に至ってようやく、アメリカがいかに金を無駄にしてきたかを報じる記事をmilitary.comが報じました。色々な意味で怒りを感じる記事です。

 米政府の監視機関によれば、米国民の血税から作られた50億ドルの基金、アメリカがイラク復興に費やした500億ドルの10%以上が無駄になりました。この総額は低く見積もられているらしく、300以上の報告書の分析に基づいています。また、一部のプロジェクトでは約17%がかかる警備のコストは含まれていません。

 成功した話もいくつか記事には紹介されています。しかし、それらは原文を読んで頂くこととして、ここでは問題のプロジェクトを拾い出してみます。

 この夏に湾岸地域の陸軍工兵隊の指揮をとったジョン・クリステンセン大佐(Col. Jon Christensen)は、連邦政府が4,800件以上のプロジェクトを完成させ、233件が仕上げを急いでいます。約595件のプロジェクトは、主に治安上の理由により中断されました。増派戦略により、2007年に軍はイラク人を守り、彼らの信頼を勝ち取ることに焦点を置きました。米軍部隊には指揮官の緊急対応プログラム(Commander's Emergency Response Program)として、36億ドルの現金が与えられました。しかし、民間と軍の再建努力は調整されておらず、重複していました。

 2004年3月、陸軍工兵隊は「Parsons Corp」と、教育と職業訓練施設を併設する、3,600人の囚人用の刑務所を設計・建築するために4,000万ドルの契約をしました。この作業は2005年11月までに完了する予定でした。しかし、この地域でスンニ派とシーア派の対立が激化し、計画は6ヶ月遅れてはじまり、予定よりも遙かに遅れて進行しました。米政府は「Parsons Corp」との契約を打ち切り、3つ以上の契約を他の会社に与えました。2007年6月に、米政府は計画を放棄し、未完成の施設をイラク内務省に与えましたが、同省は施設を完成し、占有し、警備することを拒絶しました。未使用の建設資材120万ドル以上が、暴力の恐れがあるために放棄されました。

 米軍は、外国の投資家を惹きつけることを狙って、バグダッド国際空港施設内の、570万ドルのコンベンションセンターに望みを託しました。乱雑な施設の中で、2008年にロシアや日本の石油機関を引き込み、米軍が100万ドルの歳入を生むと主張した、3日間のエネルギー会議を含むいくつかのイベントが開かれました。しかし、ホールのために結ばれた契約には、主要な電源を供給する要件が含まれていませんでした。コンベンションセンターには依然として重要な作業が必要なまま、イラク政府に現状のままで引き渡されました。建物はその後荒廃し、蛍光灯やその他の備品の箱が現場からなくなりました。外部にある照明用ポールは倒れ、放棄された建物の大きな区画からガラスの壁面がなくなりました。

 2004年にファルージャを攻撃した後で、アメリカは新しい下水処理施設のための契約を「FluorAMEC」と結びました。それは、アメリカの民間軍事会社の4人が攻撃を受けた3ヶ月後でした。焼け焦げて損壊された2人の遺体が、橋から吊り下げられました。いま、ファルージャの下水処理施設は、予定から4年間遅れ、元の予算の3倍以上の3,250万ドルをかけて完成に近づいています。規模は人口の3分の1へと縮小され、イラク当局者は、未だに家と処理施設へつながる地区のタンクとをつなぐパイプがつながっていないと言います。失望した住民は汚水をタンクに投げ込んで悪臭を発生させ、漏出の危険をおかしています。

 癌部門を持つ最新設備の小児科病院は、2005年12月までに約5,000万ドルで完成する予定でした。昨年、コストは1億6,500万ドルを越え、機材は旧型になりました。

 以上が主な失敗の実例です。

 別の記事では、最近、イラクの学生のために米国民の税金で購入された190万ドルのコンピュータが、目的地のバビル州(Babil province)に着く前に行方不明になり、イラク当局により45,700ドルで競売にかけられたと報じられています。コンピュータは南部のウムカスル港で競売にかけられました。この荷物は港に3ヶ月以上放置されていました。法律により、こうした荷物は没収され、競売にかけられることになっていました。数日後、イラク当局が、このコンピュータの90%を見つけたという続報が報じられました。


 これだけ多くの問題の報告書が、いままとまったというわけではないでしょう。長期間に渡る調査の公表が、イラク撤退が決まるまで遅らされたのは、不祥事を公表すれば、アルカイダを鼓舞することになるという自制心が働いたのでしょうか?。

 しかし、これらはもっと前に公表されるべきでした。こうした事態は、当時でも必然的に懸念されたことですし、政府から何の情報が出てこないことで不満を感じてもいました。これまで、外国にあったイラク政府の資産を凍結して作った基金が無駄に使われたこと。イラクの石油収入で作った復興基金のかなりの部分が使途不明になっていることが明らかになっていました。その上、これらの問題の浮上です。

 戦争中に起きる特需には、こうした問題がつきものです。日常的にも、政府がらみの入札や契約には、汚職が入り込みやすいものです。そこで、厳格なルールを作って不祥事を防止することになるのですが、こうした特需では、そのルールが緩み勝ちです。結果として、仕事をする能力のない企業が受注し、金が無駄に消えることになります。

 こうした問題は、戦争をすれば必ず起きてきます。こうした問題を無視して戦争を考えることはできないのです。アメリカの失敗は、我々には反面教師だということを、肝に銘じるべきです。

 日本も、サマワに寄贈した医療機材がいまも動いているのか、もはや誰も気にしていません。私自身、機材がいまどうなっているのかを知りません。自衛官が危険を冒して設置してきたはずの機材ですが、設置することが重要で、使ってもらえるかどうかは二の次でした。

 他に、イラク撤退に関するオバマ大統領のテレビ演説全文が報じられています。時間があれば、これについて考えてみたいと思っています。



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