また、アフガニスタンで奇怪な事件が起きました。military.comによれば、アフガンに駐留する複数の陸軍兵士がアフガンの民間人を殺害した容疑で逮捕されました。その経緯が実に奇妙です。
クリストファー・ウィンフィールド(Christopher Winfield)は、アフガンに駐留している22歳の息子アダム(Adam)から届いた、同じ部隊の兵士がアフガンの民間人1人を殺害し、さらに殺害する計画を立て、自分を脅して口止めをしたという半ダース近いメッセージを陸軍に伝えました。
数ヶ月後に、容疑者が逮捕されるまでに、さらに2人のアフガン人が死亡し、アダムを含む5人の兵士がフォート・ルイス基地で殺人罪で逮捕されました。
基地の広報官は、アダムの情報を受け取ったかどうか、それがどう影響したかについてコメントできないと言いました。
逮捕された兵士たちは、共同謀議と計画的殺人に問われています。最高位は、25歳のカルバン・ギブズ2等軍曹(Staff Sgt. Calvin Gibbs)で、22歳のジェレミー・モルロック伍長(Cpl. Jeremy Morlock)と共に3件の殺人に関わったとされます。アンドリュー・ホームズ上等兵(Pfc. Andrew Holmes)は最初の殺人で、マイケル・ワグノン技術兵(Spc. Michael Wagnon)は別の事件に問われています。両方とも容疑を否認しています。
アダム・ウィンフィールドは、最後の殺人に問われており、彼の弁護士エリック・モンタルボ(Eric Montalvo)は、アダムはギブズ2等軍曹が手榴弾で民間人を攻撃した後で彼を銃撃するよう命じられ、意図的に上を撃って狙いを外したと言います。
ギブズ2等軍曹は容疑を否認し、彼の弁護士フィリップ・スタックハウス(Phillip Stackhouse)は、攻撃は「適切な交戦」であり、共同謀議や民間人の殺害を否定しました。
兵士たちは全員が第5ストライカー旅団に所属し、2009年7月にカンダハル州の基地に配置されました。小隊の何人かは、ギブズ2等軍曹が昨年後半に部隊に配属されると、すぐに民間人を殺すのは簡単だと言い始めた、と捜査官に述べました。彼とモルロック伍長は殺人を実行するシナリオを練ったと、兵士たちは言います。
モルロック伍長は捜査官に計画を説明する詳細な供述をしています。彼の弁護人はAP通信の電子メールに即座に回答しませんでしたが、シアトル・タイムズ(The Seattle Times)に、この供述は爆発による外傷性脳損傷を治療する薬の影響下で作られ、証拠として認められないと言いました。モルロック伍長は、それぞれの殺人で、ギブズ2等軍曹が攻撃を計画して実行し、別の1人の兵士に参加を求めたと言います。
その後に何が起きたかは、記事が長いので簡単に要約します。
最初の事件は今年1月15日に起こりました。アダムがフェイスブックのメッセージで「私は、ここで何が起きたのかよく分かりませんが、これについて伏せる必要があります」と書き、クリストファーと彼の妻エマ(Emma)は最初の兆候を受け取りました。
アダムは翌月まで両親と僅かなコンタクトしか取りませんでした。2月14日、アダムは両親に長いインターネットのチャットで出来事について述べ、彼の部隊の隊員がパトロール中に、農作業をしていた自分と同じくらいの無辜の男を殺したと言いました。殺人を目撃した者はいませんでした。犯行をおかした者は彼にこのことを話し、仲間になるようにせき立てました。小隊の誰もが何が起きたかについて気がついていたけども、誰も問題にしませんでした。
捜査官に対する供述で、少なくとも3人の小隊の隊員が、ギブズ3等軍曹が直接アダムを脅迫していたと言います。モルロック伍長は、ギブズ3等軍曹がトレーニング中にアダムの上に重たいウェイトを落として殺害するシナリオを考えたと付け加えています。ギブズ3等軍曹は、アダムが従軍聖職者に話そうとしたとき、彼に近づいて黙っているように警告したとモンタルボ弁護士は言います。
戦域にいる兵士は通常、犯罪を指揮系統の上、軍捜査官や従軍聖職者、国防総省の監査局、あるいは指揮官が関与している別の部隊に報告します。
部隊内でハシシを吸ったと報告されたジャスティン・A・ストナー上等兵(Pfc. Justin A. Stoner)は、数名の小隊の隊員に殴られたと言います。それから、ギブズ3等軍曹とモルロック伍長が彼を訪問し、ギブズが切断された指の一組を床に転がしました。モルロック伍長は彼に「こいつのように人生を終えたくなければ、口を閉じてろ」と言いました。
アダムは、自分が電話を使っていることを誰かが知るのを望まなかったので、両親に陸軍のホットラインに連絡するように頼みました。元海兵隊員のクリストファーは驚き、通話記録によると、その日に彼は軍当局に5回電話しました。彼は国防総省のホットラインにメッセージを残し、フォート・ルイス基地の4つの電話番号にかけました。彼は当直の軍曹と話し、基地の司令センターに着く前に、陸軍犯罪調査部にメッセージを残しました。この通話で、当局者は彼に、アダムが派遣中に前へ進み出なければ、基地ができることはないと言いました。当局者は、兵士は派遣が終わるまで黙っていれば、捜査官が彼の主張を調べることができると提案しました。アダムは本土の陸軍当局が調査を始めると何が起きるかを心配し、クリストファーに引き下がるように頼み、彼はそれに応じました。
1週間後に2回目の殺人が起こり、5月2日に3回目の殺人が起こりました。殺人は結果的に、薬物を使用したと報告された兵士が捜査官に、モルロック伍長が、自分が正当化できないと信じる3件の殺人を行ったと話したときに明るみに出ました。
この事件の裁判は秋に始まる予定です。
この事件は、テリー・ジョーンズ牧師が巻き起こした波紋を吹き飛ばすほどの反響を呼びます。まるで、映画「プラトーン」で描かれた民間人殺害事件みたいな事件です。つまり、力を持つ下士官が部下を押さえ込んで、不正を隠そうとした事例です。
本来、こうした事件は小隊長(通常、少尉か中尉)に報告すべきですが、アダムがそれをしなかったのは、ギブズらの報復を恐れたためか、小隊長が頼りなかったためでしょう。
軍捜査当局が積極的に動こうとしなかったのは、戦争中には、この種の捜査がやりにくいことがありそうです。麻薬などの明確な事件ならともかく、戦闘に関係することで、命懸けで戦う兵士を背後から撃つような真似はしたくないというわけです。その典型が、このサイトで繰り返し紹介してきたハディーサ事件です。
しかし、アメリカ人がアフガン人に殺されたら血眼で犯人を捜すでしょうから、その逆の場合も同じようにするのが公正というものです。しかも、事件はマクリスタル大将が定めた新しい交戦規定の下で起きています。民間人の犠牲を最大限に減らせという命令が出ているのに、故意にアフガン人を殺害することは、軍法に反するだけでなく、指揮官の命令にも反します。しかし、事件が起きたことを知った小隊全員が気に留めなかったことから、マクリスタル大将の命令が徹底されていなかったことが窺えます。
この種の事件は、イラクでも繰り返し起こり、犯人の米兵が逮捕されてきました。手口はいつも同じで、死体に銃を持たせて、被害者を武装勢力に見せかけるのです。
裁判では詳細な供述をしたモルロック伍長の証言がポイントになるかも知れません。弁護士が言うように、モルロック伍長が脳に障害を持っていることを理由に証言が不採用になると、他の隊員の証言だけになるので、追求がやりにくくなるかも知れません。
国防総省が、この問題にどう対処するかも注目されます。通報システムの改善は必須です。特に、ロバート・ゲーツ国防長官は辞職する前に、この問題の解決に糸口をつけなければなりません。
この事件は今後も注目していきます。