化学汚染訴訟の争点は汚染の原因にあり

2010.9.15

 民間軍事会社の化学汚染に関する事件で、却下された事例を紹介しておきます。military.comによれば、グレン・ボーテイ氏(Glen Bootay)が、KBR社が管理した水処理施設で勤務した際に化学物質に被爆して健康被害を受けたと主張した訴訟は敗訴となりました。

 元陸軍兵士のボーテイ氏は、カルマット・アリ(Qarmat Ali)の水処理施設を再稼働させる仕事を請け負ったKBR社に対して、契約違反と詐欺を主張して裁判を起こしました。2003年4月、ボーテイ氏はカルマット・アリに送られ、4日間だけ留まりました。施設は癌を引き起こす重クロム酸ナトリウムのオレンジ色の塵で覆われていました。バース党は処理施設を破壊するために化学物質を散布したとされています。2003年9月に名誉除隊したボーテイ氏は、恒常的な頭痛と、胸の痛み、肺の衰弱、極度の疲労、発汗不能、腎結石、意識喪失、短期記憶喪失を被りました。

 テレンス・F・マクベリー判事(Terrence F. McVerry)は、原告を「同情すべき原告」としながらも、KBR社はボーテイ氏が重クロム酸ナトリウムに被爆することを防ぐ特別な任務を負っていなかったと判決文に書きました。「重クロム酸ナトリウムを作ったのはイラク人でした、そして、ボーテイ氏にカルマット・アリでの任務を命じたのは陸軍でした」。KBR社には軍に汚染を知らせる義務はありましたが、その義務は軍隊の個々のメンバーには及びません。KBR社にそうすることを要求するのは、軍の指揮系統を侵害すると、判事は言いました。「同様に、公共の利益は、疑う余地なく、兵士が環境有害物質に被曝する可能性を知らされることであるが、戦争を遂行する軍の能力についての大衆の利害は、この利益を疑いようもなく上回ります」「特に、軍は通常、より直接的に相当な危険に兵士をさらします」とマクベリー判事は書きました。


 先に紹介したワイモア氏とボーテイ氏の事例がどう違うかと言うと、それは被曝の原因が直接、請負業者の行為と関係があるかに尽きます。ワイモア氏の場合、請負業者が廃棄物を焼却処理する決定をして、それを実行したことで健康被害を受けました。ボーテイ氏の場合、原因となった化学物質を撒いたのはイラク軍でした。

 重クロム酸ナトリウムの危険性を安全衛星情報センターの記事(記事はこちら)で見ると、発がん性だけでなく、毒性が高く、多種類の被害が起きることが分かります。

 この判決には気になることがあります。4日間しかいなかったボーテイ氏が被曝したのなら、もっと長期間いたはずのKBR社の社員も被曝したはずです。KBR社はすぐに対策を取らなかったのでしょうか?。施設が重クロム酸ナトリウムで汚染されていたのなら、防護服を着た者が除染作業を行う必要があります。その過程で、現場にいる兵士にも対応できたように思われます。現場が危険なら、すぐに安全な場所まで引き下がり、態勢を整えたはずです。その過程でKBR社に大きな間違いがあれば、訴えを認めることもできたかも知れません。また、陸軍が水処理施設を占領したときに、こうした問題を発見できなかったのでしょうか?。分かっていながら兵士を送り込んだのなら、訴訟の余地があるようにも思えます。

 当時の様子をもっと知りたいところです。



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