米軍グアム移転計画が遅延

2010.9.22

 今日は沖縄の米軍基地のグアム移転に関する記事が2つあります。これは日本でも報じられていますが、随分と内容が違います。

 military.comによると、米海軍は太平洋上の軍隊の歴史的な転換を引き起こすグアムでの軍備増強に関する計画を固めました。

 米国防総省のグアム統合計画局(the Department of Defense Joint Guam Program Office)の要旨説明によると、米海軍は、2014年までに沖縄から移転させる8,600人の海兵隊員のための施設を建てる場所と大規模な建設活動のペースを最終的に決定しました。しかし、海軍は、先祖の土地の上に軍の訓練用射撃場を作るため、グアムの主要港で空母停泊のために珊瑚を浚渫するために、議論を呼んでいる計画の決定を遅らせました。完全な報告書は現在利用できませんが、水曜日までにはオンライン上に送る予定です。

 統合計画局のデビッド・バイス大将(Gen. David Bice)によると、建設の開始は資金、先祖伝来の土地の再評価と港の浚渫の協議に依存します。バイス大将は電話インタビューで、「我々は来年の初めまで、いかなる建設活動も予想しません」と言いました。また、日本政府から資金提供されるユーティリティが重要だと、大将は言いました。アメリカは日本と日本の国際協力銀行と、グアムの汚水処理、電力、電気の施設更新に関して、7億4,000万ドルの分担金について協議中です。日本は2006年に、沖縄からの海兵移転の一部として更新に資金を提供することに合意しました。グアムの不十分ではないユーティリティを更新するのは、建設要員や軍人が島に到着する前に必要です。日本が提供する資金は、軍用地に井戸を掘り、グアムの公共用水に接続するために支払われると、バイス大将は言います。「我々は水道のための資金を得る必要があります」「我々はそれをすぐに、来年までに必要としています」と彼は言います。

 年末までに、グアム州政府、米軍と連邦当局は、調整のための評議会も作り、それは建設の誘導を助け、島への労働者の流入に関する懸念を解決するでしょう。このアイデアを出したグアム州知事はこのメンバーに指名されるとバイス大将は言います。

 一方、連邦の歴史保護評価は、植民地以前のチャモロ文化の面影を残すパガット(Pagat・kmzファイルはこちら)の運命を決定づけます。この土地は国家歴史登録財(the National Register of Historic Places)に指定されていますが、海兵隊の訓練用射撃場に望ましい場所です。ジャッキー・ファネンスティル海軍副長官(Assistant Secretary of the Navy Jackie Pfannenstiel)が、国家歴史保全法(the National Historic Preservation Act)が必要とする評価が終わるまで、パガットを訓練に使用する決定を遅らせたと、バイス大将は言いました。

 空母繋留のための浚渫に関する大衆の懸念が起きた後で、海軍はアプラ港の珊瑚の健康と品質の研究もします。空母が入港する計画は停止させられますが、グアムを母港とする空母はなくなるでしょう。「我々は場所の特定に関する決定を遅らせることに同意しました。北極点が望ましい場所だとしても構いません」とバイス大将は言いました。

 民間と軍の委員会は、建設のペースを巡る懸念を解消するのに役立ちますが、軍は遅延させるものの、パガットを射撃場に使い、港を浚渫するようだと、グアム州議会のグアム軍増強・国土安全委員会議長、ジュディス・ガッツハーツ上院議員(Judith Guthertz)は言います。「私のいまのアプローチは、委員会と共に働き、前進して、我々のコミュニティの利益のためにいくつかのことを交渉することです」と言います。マドレーン・Z・ボダリオ州下院議員(Madeleine Z. Bordallo)は、決定には勇気づけられたものの、訓練用射撃場や浚渫のような重要な問題を巡る懸念は残るという声明を出しました。彼女は再び射撃場をテニアン島に置くよう訴えました。このオプションは除外されたとバイス大将は述べています。

 それから、military.comが中国と日本の緊張が高まったために、日本での米軍支持は減っていないという記事を報じました。

 約250人の日米安保条約の支持者が「沖縄と共に『自立国家日本』を再建する草の根ネットワーク(All Japan Jiritsu Saiken Network)」と「米軍基地労働組合ネットワーク(U.S. Forces Base Network Union)」が共同後援したイベントに参加しました。10人が演説した後、58号線に沿って、日本とアメリカの国旗と日本政府に中国に対して強い態度をとり、日米同盟を強化するよう求める横断幕を掲げて行進しました。

 記事は、最近起きた中国漁船が海上保安庁の船に当て逃げした事件などを紹介したあとで、基地の支援者は沖縄では非常に少数派で、4月の米軍基地建設反対集会には90,000人が集まった、と締めくくっています。


 グアム移転問題に関する公式サイトですが、多分、これだと思われるのが見つかりました(サイトはこちら)。記事の説明と違い、国防総省ではなく海軍省のサイトなのが少々気になりますが、報告書の完全版がアップロードされているので間違いないでしょう(pdfファイルはこちら)。

 この記事を読むと、日本とアメリカのそれぞれの懸念が食い違っていて興味深いです。

 まず、グアム移転は太平洋上の米軍の戦略転換であり、沖縄の負担軽減は副産物みたいなものであること。沖縄では以前から米軍基地の問題が議論されてきました。折から、米軍の再編がこの問題にからみ、一緒に解決しようとしたのが、現在の状況に至っているのです。報道で繰り返される「沖縄の負担軽減」は、この記事には登場しません。

 グアムに移動する人数は外務省が説明した2,500人ではなく、8,600人であること。これは多くの人から指摘され、米側の資料で裏づけられてきたことでもあります。

 パガットとアプラ港に関して、史跡保護と環境問題が存在すること。沖縄でもジュゴンが食べる海藻が問題になりました。アメリカの環境団体は日本よりも活発で、海軍の潜水艦が出すソナー音が鯨の方向感覚を狂わせると裁判を起こしたほどです。イラクでは何でも穴に放り込んで焼却できましたが、アメリカ国内ではそうは行かないことに注目しましょう。これは、基地問題で大きなポイントになり得ます。

 パガットではすでに地元で反対運動が来ています。下のビデオ映像は、現地で行われた反対運動を伝えています。海兵隊はグアムでも嫌われてしまったようです。

Pagat Rough cut from Hermon Farahi on Vimeo.

 パガットは比較的平らなジャングルで、米軍基地が近くまで迫っています。15号線から道路を少し延ばせば射撃場を造れるように思われます。小銃用の300m射撃場や、機関銃用、グレネードランチャー用、手榴弾用など、複数の施設を造ることが妥当かどうかは、もう少し資料を読む必要があります。ここにはチャモロ族の先祖が住んだ村の跡が散在しています。それらを破壊せずに、またできるだけそれらの遠くに射撃場を造れるかが問題です。観光のためには、これらの施設を見学する観光客が射撃の騒音に悩まされないことも必要でしょう。

 日本が出資する7億4,000万ドルが、極めて重要であること。日本は常に外国に翻弄されているという意識を抱き、受動的に動きがちです。自分たちも主導権を握っているという意識を持つべきです。700億円以上も出すのです。必要なことは要求して、作業リストに滑り込ませるのです。日本政府がどんな交渉をしているのかは不明です。外務省にとっては、国民には余計なことを知らせない方が仕事がしやすいのでしょう。我々はアメリカの資料を読み解いて、状況を把握するしかありません。これは本末転倒です。

 グアムにもテニアン島に射撃場を造る意見が存在すること。すでに却下されているとはいえ、基地全体は無理でも、射撃場だけなら可能性はありそうです。海兵隊としては、射撃訓練だけで一々、175kmも移動したくないというのが本音でしょうね。

 ところで、基地支援派のデモの記事は、なんだか皮肉に感じられて、失笑してしまいました。「沖縄と共に『自立国家日本』を再建する草の根ネットワーク」という団体は初耳でした。公式サイトによると、そのミッションは次のとおりです。

中国共産党の離間の計に陥ることなく、日本本土と沖縄と一体となって憲法9条の改正を実現させ、自国の防衛を自国で行える自立国家日本を再建します。

 「離間の計」という言葉には驚かされました。これは小説「三国志」に出てくる言葉で、人間関係を崩壊させることで敵を倒す計略のことです。「三国志」は読み物としては面白いのですが、軍事的には無理の多い話が多く、それが活動目的に含められているのは疑問です。それに、「自国の防衛を自国で行える自立国家」のために米軍の駐留が必要との主張は理解しにくいものです。私の感覚からは遠く離れたところに位置する組織のようです。



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