ウッドワードが「オバマの戦争」を出版

2010.9.23

 military.comによれば、来週発売されるボブ・ウッドワード(Bob Woodward)の新著「オバマの戦争(Obama's Wars)」の中で、アフガニスタン戦略に関して、大統領補佐官たちは20ヶ月議論で費やし、国家安全チームの一部のメンバーが大統領の戦略が機能することを疑っていたと書かれています。

 この本によると、オバマ大統領は「私はこれについて国民と2年間を共有する」と言い、補佐官たちにアフガン戦争が大きく拡大するのを避けるよう強く求めました。「私は出口戦略が欲しい」と大統領はある会議で言いました。個人的には、大統領はジョー・バイデン副大統領(Vice President Joe Biden)に会議で大規模な部隊増強に反対する大統領の代替戦略を後押しするように言いました。オバマ大統領が最終的に代替案を却下したとき、彼は「私は民主党全部を失えない」として、撤退期限を設けました。

 本の中で、アフガニスタン問題の補佐官、ダグラス・E・リュート中将(Lt. Gen. Douglas E. Lute)は、彼が下した決定とアフガン戦争の彼の評価は矛盾していると考えると描写されています。アフガンとパキスタンでの特使、リチャード・ホルブルック(Richard Holbrooke)は、アフガン戦略が「機能しない」と言ったとされます。

 ウッドワードはオバマ大統領もインタビューした1人だったと述べましたが、ホワイトハウスはコメントしていません。この本は以前から知られているよりも、内部分裂が激しいことを示唆します。バイデン副大統領はホルブルックを「私が会った中で一番のエゴ野郎」と言い、政権の何人かは国家安全担当補佐官のジェームズ・ジョーンズ(James Jones)に対する軽蔑を示しました。統合参謀本部議長マイク・マレン大将(Adm. Mike Mullen)は、戦士ではないことを理由に彼を退けたので、副議長のジェームズ・カーライト大将(Gen. James Cartwright)が裏切ったと考えました。この夏にアフガン指揮官になったデビッド・ペトラエス大将(Gen. David Petraeus)は、上級補佐官のデビッド・アクセルロッド(David Axelrod)は「完全なスピン・ドクター(人を操る専門家)」であり、話すのは嫌いだと側近に言いました。当時、国家情報局長官のデニス・ブレア海軍大将(Adm. Dennis Blair)がラム・エマニュアル(Rahm Emanuel)と対テロ担当補佐官ジョン・ブレナン(John Brennan)と対立した事件も書かれています。また、アメリカがハミド・カルザイ大統領(President Hamid Karzai)が躁鬱病と診断され、薬物による治療を受けているという情報を持っていることも書かれています。


 ワシントン・ポストの編集長ボブ・ウッドワード氏は、ウォーターゲート事件をカール・バーンスタインと共にスクープし、ニクソン大統領を辞任に追い込んだことで知られる、アメリカを代表するジャーナリストです。これまで、ホワイトハウスをテーマにした本を何冊も書いており、いずれも優れた内容でした。今回の本が2003年の「ブッシュの戦争」の民主党版のようなものであることは、容易に想像がつきます。おそらく、オバマの大統領就任からアフガン増派の決定までを描いているものと想像します。従来通りなら、日本経済新聞社が翻訳本を出版するかも知れません。

 ウッドワード氏の本が面白いのは、政府要人へのインタビューに基づいて、一般人が普段見られない政権内の様子を再構成して見せて、その上で自分の見解もしっかりと表現することにあります。この点、日本のジャーナリストは、自分の意見が前に出すぎ、事実関係を伝えることを軽視する傾向があります。

 日本のメディアも、この本をニュース番組で紹介するでしょう。この記事が書いているように、政権内の分裂を中心に紹介するでしょうが、この程度の対立はどの政権にもあるものです。ブッシュ政権でも、パウエル国務長官とラムズフェルド国防長官が、イラク戦略で激しく対立したことが知られています。

 アフガン戦略が機能しないと側近が考えるのは正常な判断というものです。誰もアフガン戦略が成功するなんて信じていません。誰にもアフガン戦略を成功させることはできないのです。アフガン問題は、ちょっとしたアイデアで解決するような問題ではないのです。それについては、当サイトで何度も繰り返しています。

 記事の中で一番気になるのが、カルザイ大統領が躁鬱病だということです。病気が執務に差し支えるようなら憂慮すべきです。



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