核攻撃の際は、その場で隠れるべし

2010.9.9

 spacewar.comによれば、核爆発に際して、大都市に住む人たちは即座に避難しようとするよりは、適当な位置に隠れる方がよいことが研究で明らかになりました。

 リスク研究学会(the Society for Risk Analysis)によると、非常に長い警告期間が与えられない限りは、渋滞した出口への道は、人々が巨大なビルの中心部や地下室の適当な場所にいる場合よりも、避難者を放射線にさらす、より高い危険をもたらすと言います。スタンフォード大学のローレンス・M・ウェイン(Lawrence M. Wein)は「避難の理論的な課題は、現在の対応能力を超えているようにみえます」と言います。スタンフォードの研究者は、最初に対応する者たちは、核攻撃の12〜48時間後に避難所に辿り着きそうになく、意味を持つ連邦の対応は24時間ありそうになく、完全な連邦の対応は72時間まで成し遂げられそうにないという過去の研究を引用しました。「バイオテロリズムまたは化学攻撃とは異なり、こうした出来事の後で、政府が大衆にタイムリーな助言を与える可能性はないかも知れません」と研究は言います。


 この記事を「その場で隠れれば済むのだから、核攻撃は思っているよりも被害が少ない」と読んではいけません。事実はその逆です。

 記事が言うのは、核爆発時に起きる1次放射線を避ける時にいるべき位置です。つまり、核攻撃があるという警報が出て、核爆発が起きるまでは、脱出しようとして戸外で被爆するよりは、室内や地下室の方が安全だというのです。その後、2次放射線が空から落ちてきます。爆発時に起きた高熱によって舞い上がった塵芥が、冷えて降下してくる、いわゆる「死の灰」です。研究が言うように、12時間も救援がなければ、多くの人たちは2次放射線によって被曝します。

 この研究は数的なモデルを用いたようですが、地下室が有効なことは、広島と長崎の原爆投下でも実証されています。爆発時に地下室にいた人は、強力な1次放射線を浴びることがありませんでした。放射線は土や石、コンクリートなどで効率的に遮断されます。しかし、爆心地に近ければ、建物や地下室にいても、保護物自体が倒壊するので助かりません。

 核戦争を研究してみると、地下シェルターが最も効果が高いことが分かります。放射線を除去する空気清浄機が設置され、簡易トイレと食糧を常備する地下シェルターに避難できれば、なんとか生き抜くことができるでしょう。しかし、これには弱点もありそうです。洪水などで浸水した場合、地下シェルターは案外弱く、核攻撃よりも前に使えなくなる可能性があると思えるのです。防水対策がどうなっているのかを知りたくて、以前に地下シェルターを建設する企業に問い合わせたところ、「設置する場所に応じて、適切に設置している」といった、凄く曖昧な答えが返ってきました。高い金を払って地下シェルターを作っても、必要な時の前に使えなくなる危険があるわけです。

 核攻撃で生き延びるためには、起爆時に爆心地から遠いところにいること、爆発後に爆心地の近くや風下に行かないことです。おしなべて精度の低い弾道ミサイルの場合、どこに落ちるかは事前に予測できません。すべては運次第であり、我々には対策はないのです。

 日本で国民保護法ができたとき、核攻撃の際は「建物の中心部にいること」といったガイドラインが示されました。しかし、一般的な住宅では、ほとんど防護効果がないことは示されませんでした。つまり、これらは爆風の被害がない場所でのみ有効な防護方法です。

 結局のところ、核戦争をしないことが最大の国民保護なのです。

 なお、リスク研究学会は日本にもあり、「日本リスク研究学会」という名称で活動しています。



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