すでに過去の人と思われているドナルド・ラムズフェルド前国防長官(Donald H. Rumsfeld)に関する記事が続けて2件出てきたので紹介します。
military.comによると、連邦上訴裁判所裁判官はラムズフェルド前国防長官がイラクでアフガニスタンの米軍の捕虜収容所で拷問を許可した件で告訴されることに疑念を表明しました。3人中2人の判事は、ラムズフェルドと3人の軍当局者が囚人を拷問したことで告訴される部下の指揮責任を行使したために損害賠償に直面することに懐疑的でした。9人の囚人が告訴しています。
「君は2世紀にわたる最高裁の法理を覆そうとしています」コロンビア特別区控訴裁判所デビッド・センテル裁判長(David Sentelle)は囚人たちの弁護士に言いました。センテルとハリー・エドワード判事(Harry Edwards)は、捕虜たちが拷問されたと言うことに対して、米国憲法が海外に適用できるかが不明確であるので、被告たちは告訴を免責されるとしました。
囚人たちの弁護士、アメリカ市民自由連合(American Civil Liberties Union )のセシリア・ワン(Cecillia Wang)はラムズフェルドと当局者たちは責任を免れないと判事たちに言いました。ラムズフェルドが拷問を許可することが米国憲法を侵害することを知っていたのは明らかで、彼は告発に応じなければならないと、ワンは言いました。
センテルはレーガン大統領に、エドワードはカーター大統領に指名されました。公判中に質問をしなかったカレン・レクラフト・ヘンダーソン判事(Judge Karen LeCraft Henderson)はジョージ・H・W・ブッシュ大統領により指名されました。
下級の裁判所は、ラムズフェルドは公職に関連した行為で、彼が個人的に責任をとることはないとしました。囚人たちは控訴裁判所に訴訟を復活させるよう求めています。
military.comによれば、米テレビ局CBSのドラマ「グッド・ワイフ(The Good Wife)」にラムズフェルドがカメオ出演するかも知れません。
ゴールデン・グローブ賞にノミネートされたこのドラマには、バーノン・ジョーダン(Vernon Jordan:弁護士、クリントン大統領の側近)、ルー・ドブス(Lou Dobbs:ニュースキャスター)、ジョー・トリッピ(Joe Trippi:民主党の選挙顧問)を含む公人が本人役で出演することがあります。
妻のミシェル(Michelle)と共に番組を制作しているロバート・キング(Robert King)はラムズフェルドが出る脚本を制作中だと言いました。彼はラムズフェルドが裁判の中で、なぜ戦時中に水責めのような尋問テクニックが必要となるのかを証言する証人として登場するのを望んでいます。キングは「何が拷問で、何がそうでないと考えられるかという、倫理上の相対主義に関するエピソードです」と言いました。
しかし、ラムズフェルドと共に働いたキース・アーバン(Keith Urbahn)は、この考えはラムズフェルドを除外すると言いました。「この分野は複雑な法律上の問題に満ちています」「私はそれに関して我々がフィクションの劇をやって人々が好むとは思いません。問題が問題なので、成功するとは思えません」と言いました。テーマが別ならば、ラムズフェルドは脚本を読む気があるでしょう、と彼は言いました。
キングはまだラムズフェルドには打診していないと言いました。彼が出ないなら、エピソードは本物らしくなくなると言いました。
このドラマはNHKのBS2でも放送されています(番組のホームページはこちら)。残念ながら、私は見たことがありません。
ラムズフェルドに拷問の法的責任を負わせるのは無理でしょう。個人的に倫理上の責任があるのは当然ですが、裁判上で認めるのは別問題です。
しかし、結論はそうであっても、この問題は国内法と国際法の問題を浮き彫りにします。特に、戦争(便宜上、ここではテロとの戦いを戦争と呼びます)のような行為に関しては、法律は極めて非力で、立場が弱いのです。なぜなら、法律はすべて国家の下で作られ、国家のために奉仕するものだからです。国際法も、その条文自体では効力を持たず、国内法で制度が作られないと意味がないのです。こうした社会構造の中で、国際法を本当に公正に運用するのは不可能に近いのです。そのために、戦争になると色々な分野で法律のクレバスに落ちてしまう人が出てきます。倫理的には救済されるべきと思われる人を、法律が守れない状況が出てくるのです。東京大空襲や広島と長崎への原爆投下は好例で、実行した人たちは国際法違反だと認識していましたが、戦争を早く終わらせるためという大義名分のために目をつぶりました。ベトナム戦争時代に国防長官を務めたロバート・マクナマラが言うとおり「人は善をなそうとして悪をなす」のです。
戦争による悲劇は、我々が防ごうとする必要があるものであり、国際法を盾にとって非人道的な行為を正当化しようとする人を、私は信用しません。そんなことを繰り返しても人類に進歩がないのは明らかです。現在の、国際法の環境は「規則」であり「正義」とは言えないのです。
アメリカ人は戦争中なので、このことへの関心が薄くなっています。日本人は、そもそも問題を認識していないので関心を持っていません。今後、北朝鮮情勢の変化の中で、法律と人道主義の兼ね合いで日本が判断を迫らせる可能性がありますが、問題を認識していないために、望ましくない、未来の日本人から見て恥ずかしく感じる対策をとる危険性があります。
ラムズフェルドはドラマには出ないと私は推測します。もちろん、脚本家たちは、過去の彼の発言を調べ、彼がまったく意図しないようなセリフは用意しないでしょう。それでも、演劇は解釈の幅が広く、発言がどう理解されるかが不確定なものです。問題が微妙なので、ラムズフェルドは出演に関心を示さないでしょう。それに、気が短い彼が、ドラマ制作に合うとも思えません。