バーチャル・フェンスは完全な失敗

2011.1.18


 military.comによると、オバマ政権はブッシュ政権期に約10億ドルかけて作った、メキシコ国境のハイテク・フェンスのプロジェクトを終了させました。

 国境が穴だらけだという声の中、議会は2006年にフェンスを発注しましたが、それは53マイルの防備しか生みませんでした。

 国土安全保障のジャネット・ナポリターノ長官(Homeland Security Secretary Janet Napolitano)は、大金をかけたプログラムの教訓は国境警備の解決には「フリーサイズ」はないと言いました。ナポリターノ長官は、国境警備の同省の新しいテクノロジー戦略は、2,000マイル近い米・メキシコ国境各地域の異なる地形と人口密度に合わせた、既存で実績のある技術を使うことだと言いました。それはより早い技術開発、よりよい範囲、出費に見合う価値を提供すると、彼女は言いました。バーチャル・フェンスのプロジェクトが破棄されることは分かっていましたが、、ナポリターの長官は金曜日に議会の主要メンバーに、独立した、定量的で科学に基づいた評価は、SBInetとして知られるフェンスが本来の目的を達成できないことを告知しました。

 2005年に着手されたフェンスは、領土侵犯や問題を見つけるカメラ、地上センサー、レーダーのネットワークで、、国境警備局が配備する場所を決めることになっていました。それは今年までには南部国境の大半を監視し続けるのを助けているはずでした。議会での審議によると、納税者はアリゾナ州の約53マイルの稼働中のバーチャル・フェンスは1マイルあたり1,500万ドルの費用がかかっていることを知りました。上院国土安全保障問題委員会の委員長、ジョー・リバーマン上院議員(Sen. Joe Lieberman)は、SBInetのコンセプトは最初から非現実的だったと言いました。

 議会で起きた出入国管理の議論の中で起きた、より緊密な国境警備の要求へのブッシュ政権の対応の一環としてハイテク・フェンスは開発されました。ブッシュ政権はボーイング社に3年間で6,700万ドルの契約を与えました。レーダーシステムは強風の中で植物と人を区別することで問題があり、カメラはあまりにもゆっくりと動き、衛星通信もまた低速でした。コンセプトのいくつかはアリゾナ州の2ヶ所で使われているものの、警備のコストは高すぎました。

 国土安全保障省とボーイング社の当局者は、計画は世界で初めてのバーチャル・フェンスを、あまりにも早く、リンクするように設計されていない、市販の部品を組み合わせることで作り上げるよう要請されたと言いました。

 下院国土安全保障委員会でトップの民主党議員、ベニー・トンプソン下院議員(Rep. Bennie Thompson)は、委員会はフェンス計画に関して11回の公聴会を開き、政府説明責任局(the Government Accountability Office)に5件の報告書を依託し、それらは計画を批判しました。今月、共和党が下院を掌握するまで委員長だったトンプソンは、計画は憂慮すべき、高額の期待はずれだと呼びました。

 1月、ナポリターノ長官はアリゾナ州にあるフェンスの2段階の作業から先の計画に費やされる出費を停止しました。彼女はSBInetが効果的に機能し、本来の目標を満たすように修正できるかどうかを決めるための研究を命じました。彼女はより低いコストで、同等に効果的な代替案を用意する研究も命じました。彼女はフェンスで使う他の技術と国境警備局の車両を買うのに5,000万ドルを使いました。

 ボーイング社はSBInetの契約者でした。問題があったにも関わらず、国土安全保障省はボーイング社に、稼働しているアリゾナ州の2ヶ所の保守点検のために、同省との3年契約における2回目の1年選択権を許諾しました。この合意は2011年9月まで続きます。

 固定レーダーと赤外線、光学式センターのタワーのような計画のいくつかの技術は、移動式監視システム、無人航空機、熱線映像装置、タワー設置型の遠隔操作式ビデオ監視システムに大きく依存する未来の国境警備において使われるでしょう。ハイテク・フェンスのために当面の支出法案に提供された資金は実績のある技術へ回されます。

 当局は報告書の中で、将来の南西部の国境警備のために他の技術のシステムを買うことで現存のボーイング社の契約を使うつもりはないと言いました。新しい国境警備計画の要素について「完全で開かれた競争」も行うと言いました。

 国土安全保障省は、これらの地域の警備を強化するためにどの技術、その他の資源が最高かを決めるために南部国境の他の地域を研究してきました。ニューメキシコを含むエル・パソ、サンディエゴ、テキサスのリオ・グランド峡谷の3ヶ所のセクターを監視する必要があった初期の技術案は今月までになされるはずでした。報告書によれば、他のセクターのための国境警備の技術案は3月までに実現していなければなりません。

 下院国土安全保障委員会の委員長、ピーター・キング下院議員(Rep. Peter King)は、SBInetを取りやめる最終決定をなし、次に何をするかを決めるまでに時間をかけすぎたことで政権を批判しました。彼は要員の配備、フェンスの材料と技術を提供する広範な国境警備計画を望みます。

 声明の中でボーイング社は、自社チームの成果と昨年国境警備局を支援するために「先例のない能力」を供給したことを誇りに思うと言いました。同社は国土安全保障省がSBInetの一部としてボーイング社が建てた固定タワーの価値を認めたことに感謝すると言いました。


 SBInetはWikipediaにも説明があります。(該当ページはこちら

 これは監視タワーを建て、それに監視装置を取り付けて、国境線を通過する者がいたら警報を出すようなシステムです。

 メキシコ国境からの不法入国者を防止するために、アメリカがフェンスを造っていることは聞いていましたが、私はこれまであまり関心を持っていませんでした。メキシコ人とテロ問題はあまり関係がないと考えていたからです。

 国境警備にフリーサイズ式のシステムはないというナポリターノ長官の判断は正しいといえます。米・メキシコ国境は東部は河によって仕切られ、西部は直線の道路によって仕切られており、地形も様々です。実質的に完全に管理できないものに、何とかしろと言う声があがり、国が何とかしようとして失敗したのが、このフェンスです。ブッシュ政権下が「テロとの戦い」という戦略的に成功し得ないか、それが極めて難しい目標を掲げたために、こうした議題が議会を通過してしまったのです。こうした問題はしばしば現実に起こります。

 共和党のキング下院議員の批判は意味がありません。議会が一度承認した政策は簡単には廃止できず、そのためには時間がかかるものなのです。長官の鶴の一声でやれば独裁だと批判されるので、沢山の報告書を作り、誰の目にも明らかな形を作って、初めて廃止を決められるのです。共和党政権がフェンス計画を中止した場合なら、キング下院議員がそれを誇るのは、もちろんかまいません。



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