分析:カダフィ最期の映像

2011.10.25


 カダフィの最期について、military.comに公表されたビデオ映像から分かる範囲で分析を試みました。

映像1

 恐らく、これが拘束されたカダフィを最も早く撮影した映像でしょう。恐らく、排水パイプから引き出されたカダフィ大佐が車に乗せられるまでの状況を撮影したのだと思われます。ビデオ映像には「独占映像 カダフィ逮捕の瞬間」というタイトルがつけられ、記者の名前(Tracey Shelton)と撮影者の名前(Ali Algadi)が示されていますので、兵士ではなく、メディアが撮影したものと思われます。

 この時点では、大佐の足取りはまだ力が感じられ、兵士に支えられながら前へ進んでいます。左腕に血がついていて、他の映像でも頭部の左側に出血が見られます。この時点で、あとの死体の映像でも確認できる頭部左側の銃創があった可能性があります。

 兵士が「ミスラタ!」と何度も叫ぶのが聞こえます。これは現場指揮官のオムラン・アル・オウェイブ氏の主張を裏づけます。

映像2

 これも大佐を拘束した現場と思われます。大佐の靴を持って叫ぶ若い兵士の映像の背後に、街頭や道路、樹木が見えます。これは大佐が隠れていた排水パイプがあった道路だと思われます。衛星写真とも大きく矛盾する点はありません。

 カダフィが兵士や民兵に暴行を受ける様子が見て取れます。大佐が何か話したり、額の血を手でぬぐっていることから、この時点ではまだ意識があったようです。大佐を車のボンネットに乗せているのは搬送するというよりは、周囲に見せるためのようです。

 気になるのは腹部にもあったという銃創が、この映像で確認できないことです。下の写真には腹部からの出血が見られません。

映像3

 これは映像2の直後と思われます。一端、ボンネットに乗せられた大佐が降ろされています。カメラは引き立てられていく大佐を追いかけ、救急車のところで映像は終わります。おそらく、大佐はこの救急車に乗せられたのです。これも、救急車で運んだというオウェイブ氏の主張と合致します。拍手が聞こえるのは、大佐を救急車に乗せ、役目を終えて一安心した兵士たちがやったのでしょう。

映像4

 この映像はカダフィの死体を撮影したものです。撮影された場所は明らかに室内で、カダフィの死体はストレッチャーのようなものに乗せられています。身体には毛布が掛けられています。ミスラタの病院ではないかと思われます。

 カダフィの額に銃創らしいものが見えますが、形が不規則なので別の傷かも知れません。

 胸に縦の線が見えるのが気になります。これが司法解剖のために胸部を切開する準備として、線を書いたものかも知れません。縫い合わせた跡は見られません。検死は行われましたが、解剖はしなかったのだと思われます。あとで一般公開された死体には切開跡がなかったからです。

映像5

 この映像はミスラタのショッピングセンターの野菜冷凍庫で撮影されたと思われます。この映像の中のカダフィには、先の映像にあったような胸の線はみられません。

 頭部の左側(耳の付近)の銃創が確認できます。出血の状況から見ても、この位置で間違いないと思われます。

 腹部の銃創らしいものも見えますが、本当に銃創か、別の傷かは確信が持てません。

 以上、映像を整理してみると、オウェイブ氏が言うように、カダフィ大佐は現場から救急車で運ばれたと考えた方がよさそうです。オウェイブ氏の話では、排水パイプから引き出された時点で大佐は負傷していました。それが頭部の傷かどうかは不明です。その直後に銃撃があって、大佐はその時に再び負傷した可能性があります。そこから救急車に搬入するまでの動きは、怪我人の取り扱いとしてはまったく褒められないものの、助けようとしたという主張は認めてもよいと思われます。私が当初感じた、なぶり殺しの図はなかった可能性があります。

 謎はまだ残ります。腹部の傷が拘束直後には見られないことです。あくまでビデオ映像での検証なので、写ってない部分も多いことから、これは断言は出来ません。今後、暫定政権が出す報告書にどのような説明がなされるのかをチェックするしかありません。ビデオ映像の検証はその前調査にはなりました。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.