ムバラク大統領が辞任を否定
エジプトのムバラク大統領がテレビ演説で辞任を拒否したことは、各方面に驚きをもたらしたようです
military.comは、ムバラク大統領の辞任を前提とした記事を報じました(この記事はあとに紹介した記事と会わせて再編集されています。私が読んだ時と内容が変わっている可能性があります)。カイロ地区の軍司令官、ハッサン・アル・ルェイニ大将(Gen. Hassan al-Roueini)がタリハール広場で大勢の抗議者たちに「皆さんのすべての要求は今日かなえられる」と演説し、群集は大将を肩に担ぎ、「軍隊は国民の手にある」と叫びました。誰もが大統領は辞任するものと考えたのです。
stratfor.comは電子メール版のニュースレターで、ムバラク大統領の辞任しないという決定はエジプト軍とワシントンの両方に衝撃を与えたと書いています。以下に、その一部をまとめます。
レオン・パネッタCIA長官(Leon Panetta)もムバラク大統領が辞任し、危機は回避されるという見通しを示していました。カイロの消息筋も同じことを言いました。
これは今、エジプト軍にとって大きな危機を作り出しました。その目標はムバラク大統領を守ることではなく、ガマル・アブダル・ナセル(Gamal Abdel Nasser)が作った政権を守ることです。カイロの日が暮れて6時間未満です。エジプト軍には3つの選択肢があります。第一は、軍が引き下がり、群衆が広がって大統領宮殿へ行進し、敷地に入るのを許すことです。第二は、さらにデモ参加者がタリハール広場に入るのを防ぐ位置に兵士と装甲車両を移動し、それらを広場の中に維持することです。第三は、クーデターを起こし、ムバラク大統領を打倒することです。
大統領の演説の後で掲載されたmilitary.comの記事は、怒り狂った群衆は国が暴力に包まれると警告し、軍に大統領を打倒する行動をとるように求めていると書いています。
また、ようやく時事通信が警察官が姿を消した理由を報じましたが、この情報も重要です。警察車両と警察署への襲撃が急増したため、警察官は警察署と現場から撤収し、エジプト軍の兵士から「警察は恨まれているから身を隠せ」と言われたので、警官は私服に着替えて帰宅したということです。人権団体によれば、この政変の死者はカイロで232人、全土で297人です。
いよいよエジプト軍が、反大統領派の切り札となってきたようです。ムバラク大統領とアル・ルェイニ大将の発言が食い違ったのは、政権内部に混乱状態があるためだと推測します。ムバラク政権は内部崩壊を起こす可能性が高まったように見えます。ムバラク大統領が軍に退陣すると約束しながら、演説では否定したのなら、大統領と軍の信頼関係が壊れたと考えられるからです。
また、この状況ではエジプト軍は群衆に発砲できません。混乱が極みに達し、逆効果だからです。天安門事件のようなことを繰り返せば、国際世論も敵に回すことになります。
先に、私は警察官がデモ隊のリンチを受けたので逃げたという推測を提示しましたが、それを上回る状況があったようです(記事はこちら)。300人近い死者は、予想以上の対立が群衆と警察との間にあったことを連想させます。
ここで浮かぶ疑問は、警察署などへの襲撃がどんなタイミングで起きたかです。警察がデモを鎮圧しようとして、デモ隊が刺激され、警察の拠点である警察署の攻撃へ移行したのか、デモと同時に警察署への攻撃があったのかで、この動乱の源泉を推定できます。後者なら何者かが計画的に攻撃を指揮したことになり、エジプト政府が言う通りに外国勢力がエジプトを転覆しようとしていることになります。
しかし、時事通信の記事では、警察幹部は警察署襲撃が計画的だったとか、軍隊式の攻撃方法だったという話は含まれていません。これは第一に出るはずの話ですが、むしろ襲撃が成り行きで起きたことを連想させます。記事が警察幹部の発言を忠実に反映していれば、後者の可能性はなくなります。
犠牲者の数を考えると、初期のデモは平和的とは言えないものの、警察が姿を消すと、デモ隊はそれ以上の暴力は使わず、デモの目的がはっきりしているので、エジプト軍は抑制していられるのでしょう。
デモ隊は諦めないでしょう。9月まで半年以上も、この状態のままにはできません。エジプトの観光産業は壊滅的な打撃を受けるでしょう。ムバラク大統領は退陣するしかありません。数日の内にエジプト軍が行動を起こす可能性が高まっていると考えます。それも、かつてのようなクーデターではなく、民主化を意識した内容になるでしょう。
アメリカにとって、この革命はアルカイダとの戦いに好都合です。自分たちに近い国家を中東に持てるのですから、必ずエジプトとの関係を強化しようとします。革命後は、遅滞なくクリントン国務長官がエジプトを訪問し、オバマ大統領がそれに続くでしょう。
インターネットによる変革が次々と世界規模で起きる時代になりました。この変化を見逃すべきではありません。この世界的なネットワークを利用して何ができるかを、あらゆる分野で考えていく必要があります。
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