12日の爆発は炉心溶融の疑い
更新が遅くなり、申し訳ありません。
12日15時36分に起きた福島第1原発の爆発事故は、危機管理と言うよりは原発推進志向であるように思われます。政府系メディアのNHKの報道は、反原発勢力を活気づかせないという政府の思惑を反映していたようです。これまでのやり方が踏襲されており、民主党政権ならではの情報公開の理想とは遠いものです。
12日17時45分頃から行われた枝野幸男官房長官の記者会見で、官房長官は福島第1原発で起きた「爆発的事象」は原子炉自体が爆発したかがはっきりせず、確認中だと言いました。この時点ですでに2時間が過ぎており、政府から発表がないために、現地では情報が錯綜して混乱が起きたという報道があります。会見の後半は、国民は流言飛語を流さないようにとか、報道機関は被災地に人が行かないよう注意を要請するなど、注意を原発から逸らそうとするかのような、無関係な発言を繰り返しました。
しかし昨日紹介したように、「March 12, 2011 | 0619 GMT」、つまりグリニッジ標準時12日 6時19分付けのstratfor.comのニュースレター「Red Alert: Japan Warns of Possible Nuclear Meltdown」には、福島第1原発がメルトダウンする可能性があるという政府の見解「日本の当局者は、大熊町の近くの福島第1原発で原発のメルトダウンが起きる可能性を警告しています」を伝えています。この政府見解は時事通信社を通じて配信されました。つまり、日本時間では12日 15時19分よりもかなり前に、政府はメルトダウンの可能性を知っており、報道機関も知っていたのです。しかし、そうした政府発表を目にした記憶が私にはありません。
NHKは状況を実際よりも低く報道し続けたように見えました。爆発後、NHKテレビは当初、「1号機の壁に穴が開いた」と報じました。しかし、事実を見れば「上部の外壁が吹き飛んだ」と言うべきなのは明らかです。さらに、コメンテータは「作業で行った爆発かも知れない」と、問題そのものがないような発言を行いました。おまけに爆発前と後の「静止画像」しか流しません。原発は固定カメラで継続的に撮影しているはずで変だと思い、日本テレビ系の札幌テレビに変えたら、爆発の瞬間を動画で放送していました。
12日19時になって、避難指示の範囲は福島第1原発から半径10kmから20kmへと倍増しました。
13日20時頃、NHKニュースでコメンテータが「炉心溶融とメルトダウンは違います。炉心溶融はすでに起きています」と発言しました。また、「放射線レベルが爆発後に下がっている」とも言いました。実際には炉心溶融とメルトダウンは同じものです。おそらく、コメンテータは炉心部分だけが熱で溶けるのを炉心溶融、原子炉全体が熱で溶け、大量の放射線が放出される事態をメルトダウンと言いたかったのでしょう。日本政府もそういう風に考えているようです。しかし、stratfor.comは燃料棒が溶ける段階で、状況をメルトダウンと呼んでいます。「March 12, 2011 | 0827 GMT」(日本時間12日 17時27分)のタイムスタンプがあるstratfor.comのニュースレター「Red Alert: Nuclear Meltdown at Quake-Damaged Japanese Plant」は、福島第1原発の爆発はメルトダウンとみられると書いてあります。この記事の中に、メルトダウンは制御棒が中性子の放射を抑制できず、原子炉内部の熱が燃料自体が溶解するところ、一般的に華氏1,000度(摂氏537.8度)を越えて上昇し、制御できない放射線生成反応を生じ、ひどく危険になったときに起こると書いてあります。
13日20時20分頃、NHKが福島第1原発の冷却水の注水を支援するために現場に向かっていた東京消防庁のハイパーレスキュー隊が「状況が変わった」として引き返したと報じました。
枝野長官は13日20時30分頃からの記者会見で、1号機の爆発は水蒸気から転じた水素が、原子炉外で酸素に触れて爆発したもので、原子炉の格納容器は無事であり、20時20分から海水による冷却を開始したと発表しました。
水素爆発には疑問もあります。水蒸気から水素を分離する方法があるので、1号機内で水素が生成された可能性は否定しませんが、枝野長官は水素が酸素のない原子炉から出て、建物内にあった酸素に反応したと言いました。しかし、建物内には酸素はなかったのかという疑問があります。原子炉から出る水蒸気で酸素が建物外へ押し出されるのでしょうか。あれだけの爆発を引き起こす水素が一瞬で建物内に噴出したとすれば、爆発の前に直下型の揺れがあったことの説明がつきます。それは原子炉を格納している容器が内部の高圧で破壊された可能性を示唆します。つまり、原子炉そのものが破壊されるメルトダウンが起きた可能性があるわけです。しかし、周辺地域の放射線レベルは一時的にしたあとで下がりました。14日8時過ぎに放射能レベルが再び上昇したと報じられましたが、まだ1,000マイクロシーベルト程度で、他の原発事故よりは低い値です。原子炉が破壊されたのなら、もっと放射能レベルは上がるはずです。原子炉の破壊の程度が低く、漏洩している放射線が少ないだけかも知れません。
政府は正しい情報だけを信頼するようにと言います。氏名や発言の時期は忘れましたが「福島第1原発はすでに停止しています」言った政府関係者がいたと記憶します。しかし、スリーマイル島原発は原子炉を停止したあとで、チェルノブイリ原発はすでに停止中の原子炉で実験中に事故が起きたのであり、この発言は意味がありません。
枝野長官の説明も変でした。冷却水の水位がさがったことで水蒸気が発生したという説明は当初、私は理解できませんでした。注水しているのに冷却水の水位が下がるのは、どこからか冷却水が漏れているか、高熱で蒸発しているかのどちらかです。どちらも原子炉にとって危険な状態です。枝野長官は原子炉が高熱になっていることを言いたくなかったのだとも考えられます。
stratfor.comの「March 12, 2011 | 2148 GMT」(日本時間13日 6時48分)付けの「Japanese Government Confirms Meltdown」は、日経新聞の報道として、原子力安全・保安院が、1号機の爆発が炉心溶融によってのみ起こり得たと言い、12日の枝野長官の声明と対立すると書きました。日経新聞は12日15時30分の記事でも、原子力安全・保安院が「炉心溶融が進んでいる可能性がある」と指摘したと報じていました。13日12時の会見で、枝野長官は炉心溶融の可能性を否定しませんでした。
以上のように、用語の定義からして混乱しており、間違いもあるかも知れませんが、私は1号機で炉心溶融が起きた可能性は、速報に接して以来、ずっと持ってきたもので、それはstratfor.comの記事とも共通しています。放射能漏れが少ないとしても、今後の余震によって、将来起きる別の地震によって、急上昇する可能性も十分にあります。また、他の3号機、その後に2号機でも異常が起きていると発表されており、現場は極めて危険な状況にあると考えざるを得ません。政府は事態を小さく見積もって発表しており、楽観視するのは非常に危険です。
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